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国際比較によるハイブリッド発想が、大腸がん治療の可能性を広げる

2009/11/25
三重大学医学部 楠正人教授、井上靖浩講師

病院別のQI公開が次の課題に


――楠先生、井上先生は「大腸癌治療ガイドライン」の作成メンバーにもなっていますね。政府がいま作成に力を入れているガイドラインの意義は何でしょうか。

楠 もともとは1995年に、厚生省(当時)が、がんの治療成績を調べて、発表したことがきっかけです。大腸がんの場合、一般の市中病院で手術を受けると、生存率は40%程度だった。一方、大腸の専門家のいる大学病院で手術を受けると生存率は50%くらいまで上がる。

さらに、日本で大腸がん治療をリードしている「大腸がん研究会」関連の専門施設のトップテンを見ると、生存率は80%近かったのです。ものすごい格差があったので、その格差を埋めるために、オールジャパンのガイドラインを作ろうということになりました。最初に作った2006年版は、国内の施設間の治療の均てん化が最大のテーマでした。

――お2人は2006年に患者向けのガイドラインを担当し、2009年度版では、医師向け、患者向け、英語版も担当されています。2006年版と2009年版で変わったところは、どこでしょう?

井上 治療格差をなくすという目的は一応、2006年版で達成したという判断があり、2009年版では、ガイドライン本来の役割として、専門性を高めました。さらに海外にも通用するガイドラインにするために、エビデンスレベルを重視し、英語版も作りました。世界に発信するという意味で、日本のオリジナリティも組み込んであります。

――2006年度版のガイドラインは、実際に医療現場に浸透しているのでしょうか?

井上 2006年版の医師向けガイドラインは約2万部売れていますから、現場に、ガイドラインそのものは行き渡っていると思います。ただ、ガイドラインを購入しても、その内容を理解して、治療に活かしていただいているかどうかはわかりません。その点を、調べて、公開しようというのが、厚労省がいま考えている次の課題ですね。

楠 QI(Quality of index=診療の質指標)という指標があります。治療ガイドラインをどれだけ守れているかを示す指標です。米国では、各病院のQIがホームページで公開されていますから、ネットで簡単に見られる。現場はたいへんでしょうけれども、今後は、このQIの公開を義務づける方向に行くのは間違いないでしょうね。

欧米各国の臨床での経験を持ち帰り、
三重大でハイブリッド化を試みる


――最後に、今後の大腸がん治療についてうかがいます。三重大は、大腸がん手術後の排便、性機能等の温存で有名です。現在は、どのような治療をなさっているのですか。

楠 例えば、私の師匠の宇都宮穣二先生が作られて、いまは世界中でゴールデンスタンダードになっているのが、Jパウチという術式です。大腸を全摘した後、排便の機能を残すというのは、長い間、世界中の消化器外科医の大きな課題でした。

宇都宮先生は1980年に、小腸をJ型に折り曲げて袋を作り、肛門に縫いつけて、大腸の代用にする術式を開発し、排便機能を残すことに成功しました。これがいまもメイドインジャパンの術式として、世界中で盛んに行われているJパウチです。私は、宇都宮先生の直系の弟子として、このJパウチを応用して、大腸のJパウチという術式も手がけています。この術式では、肛門からはみ出ているような大きながんでも、放射線や化学療法で縮めた上で、手術することが可能です。

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