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国際比較によるハイブリッド発想が、大腸がん治療の可能性を広げる

2009/11/25
三重大学医学部 楠正人教授、井上靖浩講師

欧米の抗がん剤使用情報を比較研究


――「大腸がんの化学療法選択に関する国際比較研究」のきっかけは、IMSジャパンの「オンコロジーアナライザー」との出会いだったと聞いていますが?

楠 以前に大手の食品メーカーにいて、私と一緒に経腸栄養についての調査研究をしたことがある担当者が、IMSジャパンに転じたんですね。彼から、IMSにはこういう面白いツールがあるという話を聞いて、それは使えるんじゃないかということになったのです。

私には、そもそも抗がん剤に関して国際比較をしたいという問題意識があったので、日本ばかりではなく、欧米のデータも出して欲しいとお願いしました。前例のないリクエストだったようですが、それがIMSの本社でも認められて、国際比較に必要なデータが使えるようになりました。

具体的には2006年4月~2007年3月の期間の、抗がん剤使用情報、患者履歴情報を抽出してもらいました。地域は米国、欧州上位5カ国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)、日本。対象になった患者は10万2502名です。おかげで各国において、どんな抗がん剤が使われているか、どんな患者に使われているかを、信頼できる情報に基づいて分析できました。

井上 提供されたデータで画期的だったのは、患者履歴情報です。実際にどういう患者に使ったか、使った後にどうなったかの履歴が個別にわかるデータです。臨床試験、エビデンスのデータとは違って、実際に使った結果としてのデータですから、分析のしがいがありました。

――分析の結果、何がわかったのでしょうか。

楠 予想通り、日本と欧米では、抗がん剤の使い方に大きな差がありました。各国のガイドラインに示されているエビデンスは、さほど変わりがないのにも関わらず、実際に使用されている抗がん剤は偏りがあって、バラバラなのです。EUでは静注の5FU/LV療法が好まれ、米国では分子標的薬剤、日本では経口のフッ化ピリミジンが好んで使用されていることが確認できました。つまり、EBMでは標準化が進んでいるのに、がん専門医(Oncologist)の選択によって、化学療法の選択が多様化していること(Oncologist-related factor)が明らかになりました。

井上 ただ、面白いのは、各国で化学療法のやり方が違っているのに、結果的な生存率には、ほとんど差がなかったことです。データを取った各国の病院は、日本のがんセンタークラスの専門病院が多いので、たとえやり方が違っていても、スペシャリティがあり、標準化も進んでいるため、ほぼ同等に再発しにくいし、生存率もよくなっているのではないでしょうか。方法のいかんに関わらず、漫然と抗がん剤を投与しているような医療施設では、成績は極端に下がると思います。

楠 方法がバラバラなのに、成績は同じになっている。ということは、各国の方法をうまく組み合わせて、ハイブリッドな治療法を開発すれば、成績はもっとずっとよくなるはずですね。患者のQOLも上がるはずです。そうした将来の可能性も示唆する研究ができたと思っています。

井上 患者履歴情報は、臨床研究のヒントにもなりますね。各医療施設で、オリジナリティの高い治療を試みる場合にも、多くのヒントになる情報が、今回のデータの中には埋もれていると思いますよ。

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