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国際比較によるハイブリッド発想が、大腸がん治療の可能性を広げる

2009/11/25
三重大学医学部 楠正人教授、井上靖浩講師

楠 簡単に定義すれば、基礎研究を臨床の場にすぐに届けることです。トランスレーションするわけですね。だから、臨床に応用できる基礎研究を積極的にやるし、臨床の現場でも、基礎研究を踏まえた問題意識を鮮明に持つことで、臨床での疑問点を、基礎研究に活かしていきます。臨床と基礎研究が互いにフィードバックすることが大切なのです。

――その場合、仮説を立てる能力が重要になるのでは?

楠 発想というか推論が重要になりますね。ここに1つ、酵素がないと、どうもおかしいとか。電子が2つ飛んでいたら、ここに何か変化がないとおかしいとか。われわれ日本の大学は症例数が少ないのですから、基礎研究をしながら、臨床との間でフィードバックを繰り返さなければ、世界とは戦っていけません。

エビデンスの量ではなくて、トランスレーショナルリサーチを繰り返す際の、発想力の偏差値で勝負しなければならないのです。日本の貿易と同じですね。資源が少ないのだから、どんな加工をするかのオリジナリティ、技術力で勝負する。そもそも、エビデンス頼みのEBMには、限界がありますよ。井上先生、どうでしょう。

三重大学医学部 井上靖浩講師

井上 先ほど先生がおっしゃったように、コーヒーに砂糖を足して比べる、1000人に聞くというのが、EBMの手法です。あるものと、別のものを、比べた結果から、万人に効く薬や治療法を作りあげてきたのが、欧米式のEBMのやり方なのです。この方法からは、平均的に効く薬とか治療法は作りやすいのですが、一時代を画すような、圧倒的に優れた治療成績を目指そうとすると、限界があるのではないでしょうか。

トランスレーショナルリサーチによって、現象を細かく解析し、なぜそうなるのかというメカニズムを解明しなければ、大きな進歩は望めないと思います。また、いまは医学の進歩が著しく、遺伝子レベルの解析をしないと、治療のメカニズムに迫る研究ができにくくなりました。だから基礎研究のためには、分子生物学的な素養が不可欠ですね。

例えば、私の一番のテーマは、直腸がんの生存率を上げ、再発率を下げることです。そこで、がんが再発した人の遺伝子の発現を、再発しなかった人と比較して解析し、1つの手応えを得ました。その手応えに基づいて、再発した人に発現する遺伝子を、ブロックするような薬を使ってみたらどうかと考え、そのための臨床試験を、今年から開始しています。

このように、基礎研究、臨床に加えて、場合によっては臨床試験を併用していくのも、トランスレーショナルリサーチの方法論の1つです。

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