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特別インタビュー
開発時定期的安全性最新報告(DSUR)が始まれば、くすりのライフサイクルを通じた安全性情報管理が必須となる

2009/10/05
アイ・エム・エス・ジャパン マネージメントコンサルティング シニアプリンシパル R&Dプラクティス担当 古川 綾 氏

「グローバルの壁」と「部門間の壁」を取り除くのが製薬企業の課題


――DSURが採択されれば、いよいよ製薬企業の、これに向けた体制づくりに拍車がかかってきますね。古川さんは、そうした製薬企業向けのコンサルティング業務の責任者でもあります。DSURに関するコンサルティングのポイントは。

古川 私たちがコンサルタントとして、企業によくお話しするのは、“2つの壁を取り除きましょう”ということです。2つの壁とは、「グローバルの壁」と「部門間の壁」です。それを両方取り除かないと、社内で、その薬に関するワンオピニオンがつくれません。製薬企業がワンオピニオンを持っていけなれば、それを医師、薬剤師、ひいては患者にまで周知することはできません。医師が、いくらMRに聞いても、MRが適切な情報を提供できないと、医師は患者に説明することもできなくなってしまいます。

実際、製薬企業の中には、各国の支社間で、考え方が統一されていないケースがあります。これには歴史的な背景があります。ICHが施行されるずっと以前から、安全性情報管理は各国のルールで行われています。ですから、各国の製薬企業もその国のルールで実施してきたわけです。それを世界のルールを一本化するICHの動きによって、製薬企業の各国の支社もこれまでとは異なったルールを取り入れていく必要があります。そのあたりに各社のさまざまな事情や困難さがあります。しかしながら、社内で統一したルールで動かなければ、ワンオピニオンはつくれません。これが、「グローバルの壁」です。もう1つ、一般の方には分かりにくいかも知れないのが、「部門間の壁」です。実は製薬企業の組織の中では、開発部門と安全性部門は、全く別の部門になっていることが多いのです。これも理由があって、安全性部門は企業の利益に左右されず、独立した組織であるべきという考えが根底にあるわけです。しかし、その部門間にある壁も取り除いていかなければ、医薬のライフサイクル全体にわたるワンオピニオンをつくっていくことはできません。

――これまで開発と安全性情報のデータベースは、別々につくられていたのでしょうか。

古川 開発段階のデータベースと、安全性情報のデータベースは、目的が異なるので分かれています。開発段階の情報は、基本的に臨床試験単位となります。一方、安全性情報のデータベースは、安全性情報単位で、常に最新情報がアップデートされています。今回、DSURを作成するためには、対象のくすりに関して、すべての情報を一元的に集約する必要がありますので、開発から市販後の安全性情報を、1つの連続したプロセスとして一元的に管理し、分析ができるような、しかもグローバルな仕組みが求められます。そんな仕組みを構築し、適切に運用していくためには、会社組織の側でも、2つの壁を取り除く必要があります。

安全性情報も、画一的な制服から個別ニーズに対応したオートクチュールの時代へ


――そうしてつくられた製薬企業の安全性についてのワンオピニオンは、どのように医療関係者や患者に伝えられるのですか。先に言われた「医師の閲覧の網羅性」にも関連すると思います。

古川 一般に、製薬企業から医療関係者へ、医療関係者から患者さんへと伝えられます。製薬企業から医療関係者へは、MRや電子メール、インターネットや雑誌、講演会など、さまざまな方法を駆使して伝えられます。一方、患者さんは、やはり医療関係者から直接お話をきくことになります。企業からのワンオピニオンを、いかに患者さんにわかりやすく伝えるかは、とても重要な課題です。なぜなら、安全性情報提供のゴールは、“患者さんのリスクを回避すること“だからです。ご存知のように、くすりには少なからず副作用があります。その副作用をいかに最小化して、病気を治すかが重要なのです。ですから製薬企業の安全性情報のリリースにも定型な情報だけではなく、わかりやすく、例えばイラストや図解付きで出すなど、先方のニーズにこたえる双方向のコミュニケーションが求められています。

――医療関係者のそうしたニーズの背景には、インターネット時代の患者=医療消費者からの要請があると思うのですが。

古川 まさに、その通りです。いまや患者さんは、インターネットですばやく、簡単に、副作用の情報が得られます。安全性に対する関心が広く浸透してきたので、新聞にも、副作用の情報がすぐに出る。こういう情報をチェックできずに、外来に出た医師は、患者さんの話についていけなくて、質問に答えることができず、信頼を失うことにつながります。一方、患者さんも不安なのです。不安だから先生に聞きたい。したがって、先生方は、新聞やインターネットで誰でも見れる情報よりも深い情報を、副作用を理解するための情報を、患者さんに説明するために、必要としているのです。弊社が、2007年に全国医師1755名を対象に実施した調査において、約90%の医師が、副作用の発現時期や発現機序、対応処置、発現しやすい患者背景などの深い情報を入手したいと希望しているのもかかわらず、実際にそういった情報を入手できている医師はわずか10%未満でした。

――安全性情報に関して、製薬企業が競って、分かりやすい情報提供を心がけるようになってきたわけですね。

古川 残念ながら、まだ競うレベルまでには至らず、その入口にさしかかったというところでしょうか。製薬企業の担当者には、安全性情報を、患者さんを意識して発信すべきだというニーズが、やや見えてきてはいる。見えてはいても、まだ横並びの企業の動きを見ながら、少しずつ動き始めたという段階です。ただ、確実に、多くの企業がそちらの方向にシフトしてきていますから、DSURの合意は強い追い風になるはずです。規制を契機に、データベースが一元化され、整備されると、安全性情報のリリースにも、やはり大きな進展があると思いますね。

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