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特別インタビュー
開発時定期的安全性最新報告(DSUR)が始まれば、くすりのライフサイクルを通じた安全性情報管理が必須となる

2009/10/05
アイ・エム・エス・ジャパン マネージメントコンサルティング シニアプリンシパル R&Dプラクティス担当 古川 綾 氏

アイ・エム・エス・ジャパン マネージメントコンサルティング シニアプリンシパル R&Dプラクティス担当 古川 綾 氏

グローバルな医薬品開発の世界で、大きな影響力を持つのが、1990年に発足されたICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)※の動きだ。中でも、今年中にも採択・合意(調和)に至ると見られ、広く注目を集めているのが「開発時定期的安全性最新報告(DSUR)」というガイドラインである。このガイドラインが合意され、各国で発布されると、日本・米国・ヨーロッパでくすりの開発を行っている世界中の製薬会社が、そのくすりについて毎年、安全性プロファイルを評価していくことになる。すでにどこかの国で販売しているくすりであっても、別の国で開発をしていれば、同様に評価することが求められる。しかも、開発段階のデータのみならず、他国での販売後に集積されているデータも合わせて評価する。いわば、世界中の色々な使い方のデータをすべて集めてそのくすりのリスクを評価する-自社製品のライフサイクル全般(臨床試験段階から承認申請、市販後まで)において、毎年、グローバルなリスク評価活動を実行するーことが求められる。社会的にくすりの安全性への関心が高まる中、規制当局や製薬企業も従来にも増して緻密な管理を行おうとしている。
グローバル医薬情報およびソリューションプラバイダ企業として知られるIMSの日本法人、アイ・エム・エス・ジャパン(IMS JAPAN)では、このDSUR実装に向けてのコンサルティングにも力を入れている。R&D領域のコンサルティングの責任者であり、医師・薬剤師など医療関係者向けに安全性情報を提供するポータルサイト「安心処方infobox」の企画・運営責任者でもある古川綾氏(R&Dプラクティス担当シニアプリンシパル)に、医薬のリスクマネジメント(安全性情報管理)の現状と将来について聞いた。

(聞き手:21世紀医療フォーラム取材班チーフ 池畠宏之 構成:21世紀医療フォーラム取材班 桶谷仁志 文責:日経BPクロスメディア本部プロデューサー 阪田英也)

※ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)=日本・米国・EUそれぞれの医薬品規制当局と産業界代表で構成され、さらにオブザーバーとして3組織(世界保健機関(WHO)、カナダ保健省、欧州自由貿易連合(EFTA))が参加している。日本の規制当局は厚生労働省、産業界代表は日本製薬工業協会(JPMA)だ。ICHの目的は、日米欧各国の医薬品開発・承認申請を効率化、標準化することによって、結果としてよりよい医薬品を、より速く患者のもとに届けること。その目的達成のために、医薬の品質、安全性、有効性などをテーマにした数多くのガイドライン(科学的・倫理的に適切と考えられる指針)を作成している

――グローバルでDSURが施行されると、安全性情報の網羅性とスピードがより重要になりますか。

古川 そうですね。今、くすりは世界中で開発されています。日米欧のみならず、アジアや南米などでも。すでに販売されているくすりであっても、様々な適応症や剤型などの追加開発が盛んに行われています。また、製薬会社が行う開発治験だけでなく、医師主導の臨床研究も多く行われています。そのような多岐にわたる治験や研究ならびに市販後において観察されるくすりの副作用を網羅的に、迅速に集約しリスク対応をおこなってい必要があります。CoX2阻害薬の例でも、臨床研究で認められた新たな副作用を評価し、それが、類似医薬品の安全措置に生かされている。規制当局と製薬会社が一体になって、世界のどこかで観察された有害事象をただちに安全措置に反映し、くすりのリスクを最小化しようというのがDSURの本質だと理解しています。こういう視点での網羅性、すなわち”新たなリスクを全世界で網羅的に集約”することを実現する取り組みだと。しかし一方で、もうひとつの網羅性も重要です。それは、1医師の視点でみた閲覧の網羅性です。世界中で起こっている事象に基づいてとられた安全措置を、迅速に網羅的に閲覧できなければ、リスクは回避できないわけです。現在、日本では約2万種類の医薬品が販売されています。それらの薬について、新たな認められたリスクについて、使用上の注意の改訂という安全措置が、毎月行われています。平成20年度で80件、平成19年度で104件の通知が出ています。そういった次々に出される情報を網羅的に直ちに把握しておくことが求められます。

こうした網羅的な情報の収集を実現するために推進されたのが、情報共有のグローバル化と電子化です。製薬企業は、自社の開発・販売しているすべての薬に関する副作用情報を、医療機関などから収集する義務を負っています。医師が確認された副作用を規制当局あるいは製薬企業に報告する義務を負っているのと同様です。製薬企業は、収集した副作用情報について、ある一定の期間内に規制当局のしかるべき機関に、電子的に報告することになります。そして、その情報は、日米欧の規制当局間で共有されますから、情報は網羅的に行き渡ります。一方、製薬企業においても、収集した副作用情報を社内のすべての拠点でグローバルに共有し、分析、評価しなければなりません。製薬企業側にも、情報共有のための組織や情報インフラが必要なのです。

――そうしたインフラは、すでに出来上がっているのでしょうか。

古川 ICH の合意を受けて、2003年には、製薬企業から規制当局への副作用報告は電子的に行う制度が施行されていますので、規制側のデータ共有のためのインフラは整備されています。製薬企業の側の対応は、会社ごとにばらつきはあるものの、グローバルな安全性情報管理のための組織づくり、システムづくりは過去10年間で急速に進んでいます。

いまICHが手がけている「開発時定期的安全性最新報告(DSUR)」は、集約された情報を用いて安全性プロファイルとして副作用の発現リスクを同定し、リスクを最小化するプログラムを策定していこうとしています。前述のように、くすりを販売してからではなく、くすりの開発段階から、毎年、新たなデータを蓄積するごとにくすりのリスクを評価し、管理できるようにするのです。くすりのライフサイクル全体を包括する安全性の管理が目的です。ここでいうライフサイクルというのは、「薬の寿命」だと考えてください。薬が開発され、販売され、そして特許期間を終えてジェネリック医薬品が発売されるようになる。

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