日経メディカルのロゴ画像

特別インタビュー「治験・臨床研究の活性化に向けた戦略をどう描くか」

2009/07/22
国立病院機構大阪医療センター院長 楠岡英雄 氏

楠岡 日本国内で行われる治験では、基本的には日本の法律が適用されることになります。一方、アジアも含めたグローバルの場では、日本の法律や基準とは一部合わない場合や、これまで日本では経験したことのない状況が出てくることも考えられます。その点については、まさにこれから考えていかなければならない問題です。

日本に、グローバル治験の拠点をつくるという構想もあり、今年、厚労省で予算化されています。どういう拠点を作るかは、これから詰めていくことになりますが、場所として1カ所を拠点にするというのではなく、支援組織を作って、そこが問い合わせを受けてアドバイスをするような形になるのではと思います。グローバルな治験を、すべて1カ所の医療機関でやるのは無理があります。治験の領域によって、担当する医療機関は変わるけれども、支援機関のほうは一本化されていて、的確なアドバイスをしていくという形になるのではないでしょうか。

―最後に、今後の戦略についてうかがいます。治験・臨床研究をより活性化していくために、決め手になる戦略は何でしょうか。

楠岡 3カ年、5カ年の活性化計画を実施してきて、すでに治験を実施する側のいわゆる“プレイヤー”の体制は整ってきました。ネットワーク治験の体制整備、治験の人材対策、ITを含む効率化対策は、まだ課題は多いけれども、それなりに軌道に乗ってきています。製薬企業、医療機関の準備はできつつあるし、さらに規制当局の改革も進んでいます。

問題は、これまでプレイヤーにばかり目が向いていたために、肝心の患者さん、さらに国民への目線が不十分だったことではないでしょうか。治験・臨床研究を活性化させるのは、患者さん=医療消費者に、きちんとした、新しい医療を届けるのが最終目標です。ところが、そういう最終目標を明示した国民への呼びかけが足りなかったために、治験に参加する患者さんが、集まりにくいという状況が続いています。

―国民への普及・啓発という部分が、今後は一番大事になる、と。

楠岡 何より急がれることは、治験・臨床研究に関して、正確で、わかりやすい情報提供をしていくことでしょうね。「治験・臨床研究は、どういう意味を持っているのか」「 それが進まないと、最終的に、将来の国民がどんな不利益をこうむるのか」。 そうした知識を、国民の常識にしていかなければいけません。その上で、日本の医療に対する、いわばボランティア的な精神を、無理のない形で醸成していくことが必要です。

例えば、誰かが昨日、お医者さんに行ったら、「新しい薬の治験を引き受けてくださいませんか」と言われたとします。その時、周りの人の反応が、どうなのかが重要です。理想的にいうと、「それは非常に良いチャンスだ。ボランティアとして社会に貢献できるチャンスだから、ぜひやってみたら」とアドバイスしてくれる人が、周囲に数多くいて欲しい。ところが逆に、「別に引き受けなくても診療は受けられるんだし、第一、治験なんて危ないよ」という意見が周りに多いと、「やっぱりやめておこう」となる人が、多くなってしまいます。

―第Ⅱ~Ⅲ相の治験に参加すると、無料もしくは低価格で、最新の高度な治療が受けられるというベネフィットがありますね。一方、動物実験や第Ⅰ相の治験によって、リスクはかなり徹底して排除されているけれども、思わぬ副作用というリスクはまだ残っている。治験に参加すると、個人の責任で、そのリスクとベネフィットを両方、引き受けなければなりません。

楠岡 その点を、しっかり理解していただけるかどうかが、非常に重要です。リスクとベネフィットのバランスは、個々の薬によっても違いますから、説明する側は、一律に、同じような説明をするわけにもいきません。薬効は限定的だけれども、副作用の可能性は非常に低いという場合もありますし、稀に副作用が出る場合は強烈だけれども、大多数の人には、他の薬にはない、顕著な薬効が期待できるという場合もあるのです。

ですから、いま考えているのは、一般の国民や患者さんにもよくわかる形で、いまどんな治験が行われているかを、広く伝えるウェブサイトづくりです。全国の治験データは、製薬協がまとめて一般公開もしているのですが、これは専門家でないと意味がわからない内容になっています。一般の人が見ても、自分が患者として参加可能な治験かどうかが、わからないのです。これではダメなので、専門的なデータをしっかりかみ砕いて、誰が見ても理解できるような情報の形にして、刻々と公開していければと思っています。

さらに、一般の国民が、日頃から治験の現場を身近に感じていただくことも大事です。例えば、治験に参加するかどうかは別にして、現場を気軽に見に来ていただく。医師とかCRCなどのプレイヤーが日々に頑張っているところを見ていただき、心に留めていただく機会を作っていく。第Ⅱ~Ⅲ相の治験は、自分が該当の病気にならない限り、参加できないわけですけれども、健康なうちから治験の現場を見て心に留めていただいておけば、万一、病気になった時に、選択肢の1つとして思い浮かべてもらえるのではないでしょうか。

そんなところから、少しずつ、医療に関するボランティア精神を醸成していく必要があると思います。阪神淡路や新潟の大地震への対応を見ても、日本人の中には、ボランティア精神、つまり人助けをし、社会貢献をしたいという資質は十分にあります。それなのに、これまでは、我々、医療者や行政からのアプローチがあまり良くなかった。

「治験・臨床研究は、社会貢献のチャンスなんだ」「ボランティア精神の1つの発揮の場なんだ」ということが、一般にきちんと伝えられれば、状況は変わってくるのではないかと思っています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ