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「国民総背番号制」で負担・給付を透明に

2010/06/14
医療ライター 須藤公明

少子高齢化の進行などを見据えつつ、いかにして医療保険制度を再構築するかが、きわめて重要な課題になっている。負担がかさむことから、企業の健康保険組合の解散が相次いだり、後期高齢者医療制度の見直しがなされたりしているのは、問題の深刻さを物語るものだ。医療の世界においても、人口が増加し、経済は右肩上がりという状態を前提としたシステムは、機能しなくなってしまったからである。となれば、基礎の基礎、つまり土台から作り直さなければならない。

そこで、負担と給付の関係をめぐって真っ先に取り上げられるのが「現在の保険料の負担は、本当に公平なのか」という問題である。逆に言えば「所得に見合った負担をしていない人々が存在するのではないか」という疑問であり、不満である。これには、俗に「クロヨン」と呼ばれるが、「勤労者は9割に対して、自営業者は6割、農業者は4割しか所得を捕捉されていない」という問題がからんでいる。極論すれば「保険料算出の基礎になる部分から大きな差があり、公平な負担という原則は絵に描いたモチ」ということだ。

この難問を解決する方法はあるのかとなれば、答えは1つに絞られるだろう。いわゆる「国民総背番号制」である。赤ん坊から老人まで、1人ひとりに固有の番号をつけることによって、諸々の事柄を管理するシステムである。所得や年金、健康保険や雇用保険、医療や教育、さらに住居移動などなどが管理の対象になる。その結果、所得でいえば、本業からの収入はもとより、株式、不動産、贈与、さらに副業からの収入もすべて捕捉できるようにする仕組みとなる。

所得を正確に捕捉できるようになれば、“保険料逃れ”を見逃すこともなくなり、それが医療保険の収支改善につながる。また、現在の後期高齢者医療制度は年齢で一律になっているが、高齢者であっても、それなりの所得のある人々には応分の負担をしてもらう制度を取り入れることもできる。「いくら年寄りだからといって、借家に駐車場、配当などで膨大な資産収入があるのに…」という不満、資産による格差を解消することにも役立つし、現役世代の負担を軽減するという効果も見込める。

この「国民総背番号制」は、医療と健康の見地からしても数々のメリットが期待できる。まず、保険料をいくら負担し、治療費をいくら支払ったかなどが一目瞭然になることがある。さらに、健康診断の結果、病歴、現在の投薬の状況などのデータを集積しておく「健康データバンク」と連動させることで、医療そのものの効率化にもつながる。あちこちの病院から同じ薬を…というムダをなくせるだろうし、救急の場合、検査の負荷を減らし、スピーディーな手当てを行うことも可能になる。

日本は今、「失われた10年」が「失われた20年」になりかねない状況に陥っている。そこからの脱却に不可欠なのは、新産業の創出もさることながら、それを推進する国民の心身の健康の増進にほかなるまい。そして、人々のモヤモヤした気分を吹き飛ばし、モラールをアップするには、何事によらず「見える化」が必要である。保険でいえば、負担と受益についての公正さ、透明さを徹底することだ。国民全体が健やかに暮らせるようにするためにも、医療保険制度の改革とリンクした国民総背番号制の実現が強く求められる。

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