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自治体病院に自主的な経営権を

2010/05/17
医療ライター 須藤公明

都道府県あるいは市町村が経営する自治体病院の独立行政法人化が加速している。昨年度までは21だったが、この4月1日に21が仲間入りし、42と一挙に倍増、さらに今年度中に11が移行する計画だとされる。その背景にあるのは、自治体の財政難で、病院の赤字を補填する力が弱っていることだ。

つまり、独立行政法人に移行することによって経営の自由度を拡大し、それをテコに収支を改善、地域医療体制の維持と改善に結び付けることを大きな狙いとしているわけだ。

現在、全国には930の自治体病院があり、その約70%が赤字経営に陥っているといわれる。そしてすでに、経営が成り立たず閉鎖されたところや統合されたところも相次いでいる。地域医療の崩壊につながりかねない事態である。ただ、逆に言えば、3つに1つには少し欠けるものの、黒字の病院もあるということになる。しかし、全体を合計すれば年間に1850億円ほどの赤字である。大雑把な計算では、国民1人あたり1500円、一家4人ならば6000円ほどの負担になっている。

ここにきて自治体病院の独立行政法人化に拍車がかかっているのは、先行したところに経営改善の成果が出始めているからだ。その典型は、2004年度に独立行政法人に衣替えした国立病院だろう。それまでは赤字経営だったのが、2008年度には300億円の黒字を計上するまでになった。文字通り、経営体として豹変したのである。また、沖縄の病院でも、赤字から黒字へ、金額にして4億6000万円ほどの経営改善効果があった事例が報告されている。自立を促す策が功を奏したわけである。

なぜ、独立行政法人化によって、このような成果を生み出すことができたのか。それは当事者能力の増大と経営システムの改善によるものにほかなるまい。まず「人」では、自主的な経営判断の尊重と権限や責任の明確化がある。その結果、意思決定がスピーディーにできるようになる。「物」では、診断設備や医薬品、備品類などの調達を合理化し、それが「金」の面でコスト引き下げという効果をもたらした。金銭では、企業会計原則の導入によって、資産状況や収支が明確かつ透明になったことも見逃せない。

赤字経営が黒字経営に転換すれば、当然、経営陣はもとより、従業員のモラールもアップする。それは、さらなる改善に取り組む原動力としても機能する。そして、当然のことながら、そのような成果に対してはきちんと報いればいい。待遇、報酬が“親方日の丸意識”の他の行政関係組織と同じでは、知恵を絞り、工夫を凝らす甲斐がなくなってしまうからだ。ただ、自治体病院の場合、自立した経営で黒字を実現、拡大することが重要なのは間違いないが、その先にも果たしてもらわなければならない役割がある。

地域医療再生と時代に即した医療システム構築

崩壊の危機にあるといわれる地域医療をいかに立て直し、少子高齢社会に見合った医療システムを構築するか――今、自治体病院に望まれているのは、この課題への対応である。その意味では、独立行政法人化は、地域医療での中心的な役割を担ってもらうための措置、ステップと考えてもいい。もとより、地域医療の再生は、単一の病院だけでできることではない。地域の特性を考慮したグランドデザインを作成、大学病院や民間の病院、診療所との連携、役割分担を図るネットワークづくりが欠かせない。

現在、小児科や産科の医師不足が深刻な問題になっている。そこで東京都は、都立大塚病院を中核病院とし、周囲の診療所と連携する形を整えた。大病院で出産したい妊婦の要望を受け入れつつ、初期や中期の健診などは診療所が受け持つシステムである。同様の体制は、生活習慣病などでも必要である。全国的に見れば、地域医療再生に中心的な役割を果たすのは、自治体病院が大半となるだろう。そのためには、健全経営の実現が不可欠であり、独立行政法人化をはじめ、経営の自由度を拡大することが急務になっている。

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