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医師偏在の是正策は、インセンティブとスカウト

2010/02/22
医療ライター 須藤公明

医師の診療科別の増減は、2009年4月に財務省が財政政策等審議会で配布した資料にまとめられている。それによると、1996年から2006年までの10年間に医師の総数は8.3%増加した。診療科別では精神科の20.0%を筆頭に、泌尿器科、皮膚科、整形外科がいずれも15%以上の増加だった。その一方、産婦人科は10.6%の減少、外科は7.7%の減少に見舞われた。この診療科別の増減には社会的なニーズの反映もあるが、「精神的にも肉体的にも『きつい』ところが敬遠されている」という指摘もある。

地域医療でよく問題にされるのは救急だが、この分野では“緊急に手術が必要”というような事態が頻発する。外科や産婦人科、小児科でも同様であり、このような時間と競争し、体力も要求される分野が「きつい」として敬遠されているわけだ。また、「医療過誤で訴訟されやすい」ということも、これらの分野の共通点だとされる。だが、救急搬送もままならない事態が発生する地域の人々から「万が一の場合、不安で仕方がない」という声が出るのは当然だし、その解決は社会的な急務となっている。

その解決策を示唆する1つが、12月初めに社会保障審議会から発表された。診療報酬の2010年度改定の基本方針である。そこでは「救急、産科、小児科への手厚い配分」が重点項目とされ、医療再生の方向を示唆するものとなった。その根底にあるのは、診療報酬をインセンティブにという発想だろう。さらに「病院勤務医の負担を軽くするため看護師などの医療従事者を増やす医療機関を評価すべき」という提言、「高齢化による患者の増加で、医療現場は疲弊してきている」という指摘もなされている。

診療報酬の改定をめぐっては「救急などだけに重点配分するのには納得できない」など、異論が続出することも予想される。一口に医師といっても、勤務医と開業医では労働条件も報酬も全く違うのだが、それについて詳しく論じている余裕はない。ただ、「医療は算術」でもなければ「医療は仁術」でもないことは確認しておきたい。そこでいえば、診療報酬が医師の少ない科を充実させる有効な手立て、インセンティブになる可能性があるのならば、たとえ部分的にでも、その導入実験をしてみる価値はある。

地域ごとの医師の優遇策を。
また、外国人に医療の門戸を開く

報酬については、全国一律という制度も見直してもいい。それは「中央集権から地方分権へ」という時代の流れに沿うものでもある。さらに「地域社会への貢献」という視点から、救急、産科、小児科など医師不足が深刻な分野では、病院か診療所かには関係なく、助成金の支給や税制上の特典、あるいは海外の先端医療機関での研修など、地域ごとに特色ある優遇策が打ち出されてもいい。地域の医療を立て直すには、地域それぞれが知恵を絞った魅力ある方策を示すことこそ不可欠だからだ。

もとより、金銭的な誘導策には限界がある。それ以前に、医師の数には限りがある。そこで議論されるのが、医療行為の一部を他に委ねることは不可能なのか、ということだ。看護師や薬剤師などを活用する仕組みづくりである。産科でいえば、かつては助産婦が活躍していた。もとより、一定の知識や技術、資格が要件となるものの、そのようなシステムが編み出されてもいい。診療科目限定の医師が誕生させてもいいのではないか。ちなみに会計の分野では、公認会計士に準じる新たな資格創設の検討が開始されるのだという。

即効薬的な手立てには、もう1つある。介護で外国人に門を開いたように、医療も外国人に門を開くことだ。もとより資格や言葉の問題などがあるが、現在の問題解決のためには、海外からのスカウトという方法が検討されてもいい。人々の命に関わるだけに簡単な話でないことは分かっているものの、かといって事実上の無医村が拡大するのでは、厳格な資格も社会的には意味をなさないものになってしまう。現在の日本の医療には、グローバルな視点・思考も、ローカルな視点・思考も、きわめて乏しいように思える。

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