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医療報酬に技術や経験の評価を

2009/08/28
医療ライター 須藤公明

厚生労働省は、社会保障審議会の医療部会で診療報酬の改定論議を開始した。その最大の焦点は、いかにして病院勤務医の待遇を改善するかにある。すでに、その崩壊が社会的な問題になっている地域医療や救急医療を立て直すには、病院の医師不足を解決しなければならないからだ。医師不足の要因のひとつは、大学病院などによる引き上げであり、もうひとつは、仕事の内容と報酬の多寡が見合わないことによる人気のなさである。これらを解消しなければ、国民の健康維持、地域医療の存続は極めて難しいことになる。

すでに、残業に次ぐ残業を重ねて…などという勤務医の激務ぶりについては、様々な報告がなされている。それは看護師や介護師にも同様のところがある。かといって、単純に報酬を引き上げるわけにはいかない。診療報酬は、個人個人の負担もあるが、健保の財政に直結するものであり、医療費増大に一定の歯止めをかける必要があるからだ。基礎的な医療サービスについては、社会的に安心を提供すること、受益者が適正な負担をすることなど、様々な角度からの検討、配慮が不可欠だからである。

 そこで、第二次世界大戦後60年も過ぎたいま、医療制度について早急になすべきことは、国民皆保険のような従来の長所は引き継ぎつつ、将来の変化に対応できるシステムに再構築を図ることである。これは、政治体制もしかり、行政組織もしかりなのだが、部分的な手当てではなく、全体的な見直しが急務となっている。成長経済から成熟経済へ、人口増加社会から人口減少社会へという構造変化をみれば、それは一目瞭然だろう。新時代の健康維持のために、医療制度も抜本改正すべきときなのである。

 昨今の環境変化を勘案しつつ、どのような方法、考え方によって、勤務医の待遇を改善すればいいのか。その有力な手段のひとつは、規制緩和をテコに増収への道を開くことだ。例を挙げれば、混合診療や自由診療を解禁し、医師と患者の双方が納得できる医療システムを創り出すことである。その延長線上には、診療時間や検査の回数、投薬の内容などとは関係なく、治癒したらいくら、という請負方式を取り入れることもあるかもしれない。もとより、すべての医療をこの格好にすべきだというわけではない。

 だが当然、こういう方式の採用には「金持ちのための医療」など、反対意見が相次ぐことが予想される。しかし、翻って現在の医療制度が技術や経験を正当に評価する格好になっているかを見てみれば、そうではあるまい。臨床研修を修了したばかりでも、すでに1000に近い手術例を持っていても、料金はほぼ一緒なのではないか。「ハードよりソフト」「所有価値より利用価値」といわれる時代だけに、公正で透明な情報開示のもとに、医師の技術や経験も適正に評価し、それに見合った報酬を支払うシステムに改めるべきだと思う。

 病院の医師不足に話を戻すと、すべての診療科目に同じように起こっているわけではなく、濃淡がある。問題が深刻だとされているのは産科と小児科である。訴訟のリスクなどをその理由に挙げる向きもあるが、まずは深刻な事態に見舞われている科目の診療報酬を重点的に引き上げることが、問題解決への一歩になることは間違いない。救急医療についても、料金体系を見直すべきである。インセンティブを付与することで、社会的に不足している分野へ医師を誘導し、人的資源の配分を適正化するのである。

 国民の健康、救急医療体制を維持するために、産科や小児科などの勤務医の待遇改善は緊急の問題となっている。かといって、医師が過剰な科目、あるいは救急医療を手掛けない診療所などの報酬まで、一律に引き上げる必要はあるまい。そこはきちんとメリハリをつけるべきだ。改定にあたっては、地域特性を考慮してもいい。これは、地域ごとに中核病院を決定、サテライトに位置づける病院を選定し、日常の診療を中心とする施設との連携を確立するという、自律的な地域医療ネットワーク形成と絡み合う問題でもある。

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