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薬を用いず、医者に頼らない江戸の患者学 ~現代でも通じる心の処方箋~

2009/10/08
21世紀医療フォーラム取材班ライター 油井富雄

生き方もまた健康の必要条件


続けて、即効性のある第4の“処方薬”である『長生飲』を紹介している。

<三欲(食欲・性欲、睡眠欲)に自制がきかず、思慮に煩悶や憂慮があり、感情や意志に平常心がなく定まらない者はこれを用いる。静座を一時、半日、あるいは一日、あるいは一昼夜、時間の長短は功を得るまで。この静座一味を調整し連続して服用する。精神が安定したら服用をやめる>

ばかばかしいと思いそうだが、静かに座するだけ。他の難しい課題は何もない。誰でもできそうだ。ただ効果があるまで――というのがポイントだ。

生き方もまた健康から身体を守る重要な要素である指摘も、『病家須知』には随所に見られる。その“処方薬”も二つ用意している。

『慎独丸』は<もっぱら人の言葉に従い、他人のいうことにこだわり、そそのかされ、人の意見ばかり求めることをやめさせる方法がある。神経質なほど貴重面、優柔不断、うわごと、憤怒、深情けや人を欺くことなどの病を治す。「守口」「防意」「熟思」「処審」の各等分を別々にふるいにかけ、粉末にしてから混ぜ合わせ丸薬とする。しゃべらず唾液で飲み下す。あとでお湯で送り込むと神験がある>とある。

「守口」は、無駄なおしゃべりはしない。「防意」は、自分の意思を守ること。「熟思」、しっかり考え、「処審」とは物事をつまびらかにすることだ。

大小便までも仁義の芳香を放つ


最後にあげる処方は『至善湯』は、まさに人生訓そのものだ。

<仁義の二味を等分によく混ぜる。毎日朝から夜まで服用して嫌にならなければ続ける。歳月を経るごとに自然に心が広く人間的にも豊かになる。唾液や大小便、汗や垢、毛髪などからも仁義の芳香を放つ状態になれば、身体は爽快になり、耳や目はますます良くなり、才知や徳行が増し、邪念や妄想を払い、動作や行動が自然と道にかなうようになる>

これを「常に仁と義の心で人々に接せよ」などと言われれば、ちょっと抵抗があるが、「嫌にならなければ毎日続けよ」と、強制ではない。しかも、大小便までも「仁義の芳香を放つ人になる」と大真面目に言われれば、ホントかなと思いながらも、少し憧れる世界がそこにはある。

抗うつ薬や精神安定剤などない江戸時代の心の処方箋、現代にも活用できるものも少なくない。

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