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薬を用いず、医者に頼らない江戸の患者学 ~現代でも通じる心の処方箋~

2009/10/08
21世紀医療フォーラム取材班ライター 油井富雄

挿絵入りの『病家須知』の原本。庶民向けに書かれたため平易な文章と機知にとんだ表現が…

忍と忘を細末にして服用


医療を享受する患者側が“良い患者”とならないと、いくら良い医者が増え、良い医療システムが完成しても意味がない。
江戸の看護書『病家須知』(天保3年・1832年刊行)を著わした平野重誠(1790年~1867年)は、当時の名医に数えられるが、「医者や薬には頼るな」としている。
“良い患者”の条件の一つとして、病気は医者や病院、薬が治すものといった風潮を改善することも挙げておきたい。

新政権によって特定保健指導制度が、今後どうなるかは注目されるが、生活習慣病のリスクを軽減するための保健指導、予防意識の徹底は今後の患者側の大きなテーマだ。
『病家須知』でも、病家(病人という意味と病人を抱えた家族という意味合いがある)の日常の心構えや生活習慣を改善することで、病気の大半は克服することができるとしている。
この書の素晴らしさや面白さに一瞬うなってしまった場面がある。

<心の持病を治すのに、むやみに草根木根を用いず、鍼や灸を施さず、普通の薬剤より数段優れたる数種の薬方を記して、万民に授ける。―中略―ただ状況に応じて多少の加減があるが、人々が良く信じて、長く服用すればどんな疾病・病苦も治り、どんな事業も成功するであろう>(農文協版『病家須知』の訳文と原典を参照に筆者要訳)

なーんだ。医薬を用いないと言いながら、処方薬を示しているではないか――。と、思っていると、とんでもない。そんな読者の思いを見透かしたようなどんでん返しがある。

まず、最初に記したのが「和気散」。あまり聞いたことがない処方だと思いながら読み進めると<一切の気の衰え、怒気、抑うつ、不平の気を治す。“忍”の一字、“忘”の一字、この二つを細末にして言葉を発せず唾液を用いて飲み下す。また、まず“忍”を服用すれば、一時のわずらいを免れ、さらに続いて“忘”も服用すれば、死ぬまで憂いはなくなる>と、「和気散」の成分を説明しているではないか。

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