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江戸の看護書『病家須知』が示す現代医療へのヒント(その1)

2009/03/07
医療コラムニスト 21世紀医療フォーラム取材班記者 油井富雄

現代の医者頼みに警告。患者の自覚を促す

そして、数々の当時の病名を挙げ、「自分の力では避けられないものだと今の医者たちは考えていることが多い。まして素人が気づかないのは当然である。だから私はまだ病状の表れていない者に、病気を避けられるわけを教え、すでに病気にかかっている者には、その正しい手当てを分からせたい思いを抑えられず、自分の非力をわきまえず、思いつくまま筆を執り、ついに一冊の書物とした」と、この書を著わした理由を述べている。

現状の医学が及ばない病気は、現代でも少なくないが、200年ほど前だったらその比ではない。

続いて、内容の概略がある。第1巻には、「養生の心得から食事、睡眠、起居動作、呼吸、心のもち方の5つのとらえ方によって、健康にもなり病気にもなること」を述べ、「むやみに薬を用いることの害。病気で医者を呼び、薬をもらうも、その心得があることを述べた」と記す。

人は、食事、睡眠、呼吸によって命を保つ。また家族に始まり、職場、地域、国という社会生活を営みながら一生を終える。そこで起居動作、心の持ち様が問題となってくる。食事、睡眠、起居動作、呼吸、心のもち方の5つの要素が調和し健全であれば、健康な日々を送ることができるという考え方は、江戸時代も現在も、人類が存在する限り同じであろう。

健康保険制度が充実し、種々問題はあるものの、どこでも、誰でも医療の恩恵に預かることのできる現在の日本では、とかく医者頼み、薬頼みになりがちだ。資格制度もなく、技量的にはかなりいい加減な“自称医者”も医者として存在できた江戸時代の時代背景も考慮に入れなければならないが、医者にかかるにも、薬に頼るにも心得があるというのだ。

日本人に合った指導と看護の心得

全て、医者や薬が健康を保つものでない。自らの生活改善の努力が、健康維持や病気回復に重要な意味を持ってくることは、現代でも声高に叫ばれているが、江戸時代はなおさらだったのである。

第1巻の最後には、「看病人の三つの心得、すなわち病状が出ないうちに防ぎ、初期治療に努め、悪化しないように心配ること、死に至るまでのことと……」と、病人のいる家の手引き書とすることを述べている。

これが看護書、介護書の端緒といわれるのは、この一節の“看病人の心得”(原典表記)という言葉にある。症状が出ないうちに病気を防ぎ、初期治療に努める――まさに江戸時代の保健指導書そのものと言っていいだろう。

日本人には、日本人に合った看護や予防の仕方があるはず。現在の看護は、明治の中期に海外から入ったナイチンゲール思想に基づいた看護。それ自体、素晴らしいことなのだが江戸時代の看護の心得こそ、“日本人の看護”ということもできる。

読み物としても面白いだけでなく、“良い医者、良い医療”を創るだけでなく“良い患者”を創る歴史の処方箋が詰まっている『病家須知』を紐解いてみよう。(2回目につづく)

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