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2000年代前半
利尿薬の見直し機運の一方でARBの評価が進む

2006/10/11
坂本 正

主な出来事: ALLHAT発表、ARBのエビデンス集積、日本版のガイドライン作成
主なガイドライン:JSH2000、カナダ高血圧管理指針、ESH/ESCガイドライン、WHO/ISH 2003、JSH2004
主な臨床研究: ALLHAT、LIFE、SCOPE、VALUE


 2000年代は、史上最大規模の介入試験ALLHAT(2001年)の発表から動き出す。冠動脈疾患を1つ以上抱える55歳以上の高血圧患者4万2000例余りを対象に、利尿薬とCa拮抗薬、ACE阻害薬とを比較したもので、一次エンドポイントは致死的な冠動脈疾患と非致死的な心筋梗塞の発症である。この大規模試験によって、新規降圧薬のbeyond blood pressure effectが証明されるだろうというのが大方の見方であった。

 ところが、結果はこの予測を裏切った。平均4.9年の追跡で、一次、二次エンドポイントとも3剤間に有意差を認めなかったのである。しかも、利尿薬は他の2剤に比べて心不全の発症率が低く、脳卒中の発症率もACE阻害薬より低いことが明らかになった。ALLHATのレポートはこの理由を血圧差に求めた。利尿薬の降圧効果が、わずかながらもCa拮抗薬、ACE阻害薬を上回ったからである。そして、厳格に降圧することの重要性を改めて強調するとともに、利尿薬の見直しを訴えた。これを受けてJNC-7(2003年)では、「明確な適応薬剤がない限り、利尿薬を第一選択薬とし、2剤併用の場合も利尿薬との組み合わせを中心とする」という新たな薬剤選択基準を提唱した。

 しかし、ALLHATについては発表直後から多くの疑問が投げ掛けられた。試験デザイン(対象患者、併用薬)が利尿薬有利に組まれており、結果が必ずしも利尿薬の優位性を証明するものではないというのがその代表的なものである。事実、わが国でもALLHATのデータをそのまま日常臨床に当てはめることには懐疑的な意見が多かった。JNC 7と同じ2003年に報告されたESH/ESCのガイドラインでも、従来通り、利尿薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、RA系抑制薬を第一選択とし、どれを選ぶかは患者の病態を考慮して決めるという方針を採っている。ALLHATで提起された利尿薬の復権が適うかどうかは、今後のさらなる検証にかかっているといえるだろう。

 利尿薬の見直しが叫ばれる一方で、この時期、着実に地歩を固めていったのがARBである。同じRA系抑制薬であるACE阻害薬は、ACEの作用をブロックしてAI(アンジオテンシンI)がAIIに変換するのを抑える。しかし、AIIの産生系にはキマーゼ由来のパスウェイもあり、ACE阻害薬はこれを阻止できない。一方、ARBはAT1受容体を遮断するため、パスウェイに関係なくAIIの産生を完璧に阻害する。さらに、血中で過剰になったAIIがAT2受容体を刺激し、細胞増殖や線維化を抑制する利点もある。

 ARBの第1号は1993年に開発されたロサルタン(日本では1998年に発売)で、その後、カンデサルタン(1999年)、バルサルタン(2000年)、テルミサルタン(2003年)と相次いで臨床応用された。当初から評価が高かったことは、登場間もない1997年、JNC VIでCa拮抗薬、ACE阻害薬などとともに一次薬にランクされたことからもうかがえる。

 泣きどころはエビデンスの少なさだったが、2000年以降、ELITE II(2000年)、RENAAL(2001年)、Val-HeFT(2001年)、IDNT(2001年)、LIFE(2002年)、MARVAL(2002年)、CHARM(2003年)、SCOPE(2003年)、VALUE(2004年)などの介入試験が次々に組まれ、心不全、脳卒中、糖尿病腎症等に対する有効性が明らかにされている。ただ、ARBの本当の実力が試されるのはこれから。長期成績の蓄積が課題である。

 わが国での2000年代初頭のトピックスは、日本版のガイドラインJSH2000(日本高血圧学会)が作成されたことである。内容はおおむねWHO/ISHガイドラインを踏襲しているが、国内で行なわれた研究成果も多く採用し、日本の現状に則したものとなっている。

 そして、2004年にはさらに新しいエビデンスを取り入れたJSH2004が公表された。メタボリックシンドロームを考慮した生活習慣の修正、厳格な降圧、家庭血圧の利用による24時間にわたる安定した血圧コントロール、Ca拮抗薬、RA系抑制薬、利尿薬を中心とした上手な併用療法の実践などを重視しているのが、この改訂版の大きな特徴である。

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