主な出来事:Ca拮抗薬論争、糖尿病合併例が標的、真っ向勝負型の介入試験
主なガイドライン:WHO高血圧管理のガイドライン(1996)、JNC-6、WHO/ISH1999
主な臨床研究:HOT、UKPDS、STOP-Hypertension2、CAPPP、NICS-ET、NORDIL


 1990年代後半は、Ca拮抗薬の安全性をめぐる論争で幕が開く。火を付けたのは米国のPasty、Furbergという2人の研究者である。Pastyは、レトロスペクティブな検討から、Ca拮抗薬(ニフェジピンカプセル、ジルチアゼム、ベラパミル)を投与していた高血圧患者の心筋梗塞の発症リスクは利尿薬やβ遮断薬を用いていた症例より60%も高く、しかも用量依存的にリスクが増す、と指摘した。また、Furbergは過去(1982~1993年)に行なわれた16の無作為試験をメタ分析し、Ca拮抗薬投与群の死亡率はプラセボ群を大きく上回ることを示した。そして、彼らはCa拮抗薬の長期的な安全性に疑問を投げかけ、「高血圧治療の第一選択薬には利尿薬、β遮断薬などすでに効果が確認している薬剤が望ましい」とアピールした。

 間髪を入れず反論が巻き起こった。その矛先は主にFurbergのメタ分析に向けられた。彼が、メタ分析に採用した論文のほとんどは1990年以前の古いもので、短時間作用型Ca拮抗薬のデータに基づいている。確かに、短時間作用型Ca拮抗薬は急速な降圧に伴う反射性の交感神経緊張が心筋虚血のリスクを高める。しかしこれは周知の事実で、当時すでにCa拮抗薬は徐放剤や長時間作用型に主流が移っており、PRAIZE(1995年)、TOMHS(1993年)などよって、長時間作用型Ca拮抗薬による虚血性心疾患の予防効果や心不全の改善効果が示されていた。そうした中で過去の成績だけをメタ分析し、その結果をCa拮抗薬全体に当てはめようとするのは科学的ではない、というのが反対派の主張である。なかには米国のMesserliのように、「Furbergのブイヤベース(メタ分析)には肝心の材料が欠けている」と手厳しく批判した研究者もいた。Ca拮抗薬が広く用いられていたわが国でも、短時間型Ca拮抗薬のリスクは認めつつも「長時間作用型Ca拮抗薬を使用する限り問題ない」と受け止めた専門家が多かった。

 Ca拮抗薬と虚血性心疾患をめぐる意見の対立は、その後も続くが、1997年にWHO/ISH特別小委員会が、「Ca拮抗薬の長期安全性への危惧については明らかな証拠がない」とするレポートを出し、議論に一応のケリをつけた。しかし、この安全性論争はその後もくすぶり続け、最終的な決着は2002年のALLHATまで持ち越された。

 一方、この時期、診療面で新たな課題として浮上してきたのが合併症、とりわけ糖尿病を抱えた高血圧患者への対応である。高血圧と糖尿病はともに冠危険因子で、2つが重なると冠動脈疾患や脳卒中の発症率が、非糖尿病、正常高血圧者の6~7倍にものぼることが種々の疫学調査で明らかになってきたからだ。

 糖尿病を合併した高血圧患者をどう治療していくべきか。この問いに最初に答えを出したのは1998年に実施されたHOT Study(1980年代後半の記事も参照)である。Ca拮抗薬を基礎治療薬としたこの試験では、血圧が低いほど心血管疾患の発症が少なく、139/83mmHgで最低となること、その傾向は糖尿病合併例で顕著で、拡張期血圧80mmHg未満を降圧目標とした群のイベント発症率は85~95mmHg群の2分の1であることが示された。

 また、2型糖尿病を合併した高血圧患者を対象としたUKPDS(1998年)は、ACE阻害薬あるいはβ遮断薬を用いて心血管イベントの予防効果をみたもので、ここでも厳格な血圧コントロールが心血管合併症や細小血管障害を有意に減少することが明らかにされた。

 既にJNCは1993年の第5次報告、1997年の第6次報告で、糖尿病を合併する高血圧の降圧目標値を130/85mmHg未満としていたが、2つの介入試験の成績はその妥当性を裏づけることになった。この基準は、WHO/ISH 1999やJSH2000でも踏襲された。

 しかしその後、HOT、UKPDSのエビデンスをもっと重視すべきだという声が高まり、ADA(米国糖尿病学会)の勧告(2002年)、JNC 7(2003年)、ESH/ESCのガイドライン(2003年)、JSH2004などでは、降圧目標値をさらに低い130/80mmHg未満まで下げた。“Lower the better”を一層徹底したのである。

 1990年代後半になると大規模介入試験も様相が変わる。従来のプラセボ対照試験に代わり、降圧薬同士を比較するスタイルが主流になったのである。むろん、新しい薬の有効性をみるにはプラセボ対照試験が望ましい。しかし、すでに有効性の確立した薬剤があるにもかかわらずプラセボを用いることには倫理面からの批判もあり、参加者の賛同を得にくくなっていた。また、多くの降圧薬が開発される中から最も望ましい薬剤を選択するため、その優劣を測る必要性が出てきたという事情もあった。

 口火を切ったのはSTOP-Hypertension2(1998年)である。70~84歳の高齢高血圧患者6628例を、従来の降圧薬群(利尿薬、β遮断薬)と新しい降圧薬群(Ca拮抗薬、ACE阻害薬)に無作為に割り付けて4年間追跡した。結果は、心血管疾患の発症および死亡の抑制効果は、すべての薬剤で同等というものであった。以後、CAPPP(利尿薬・β遮断薬vs Ca拮抗薬・ACE阻害薬、1999年)、日本のNICS-EH(利尿薬vs Ca拮抗薬、1999年)、NORDIL(利尿薬 vs Ca拮抗薬、1999年)などが相次いで行なわれ、この流れは2000年以降さらに加速していくのである。