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1990年代前半
老年者高血圧の降圧治療効果が証明される

2006/10/05
坂本 正

主な出来事:老年者高血圧の治療に有効性、JNC-Vで現場に混乱、Ca拮抗薬とACE阻害薬のエビデンス集積
主なガイドライン:厚生省・日本医師会編「高血圧診療の手引き」、JNC-V(1993)、WHO/ISH1993
主な臨床研究:SHEP、STOP-Hypertension、MRC-old、TOMHS、GLANT



 加齢が進むほど高血圧の頻度は高くなり、65歳以上では約6割に高血圧が認められる。ただ、高齢者の高血圧は収縮期血圧だけが高く、拡張期血圧は変わらないという特徴を持つ。『これは末梢血管の動脈硬化が進行しているためで、収縮期血圧の上昇はある意味で生理的なもの。したがって、不用意な降圧は、脳心血管事故のリスクを高める恐れがある』。

 1970年代から80年代にかけての老年者高血圧をめぐる議論を集約するとこうなるが、それに終止符を打ったのが1990年代に相次いで実施されたSHEP(1991年)、STOP-Hypertension(1991年) 、MRC-old(1992年)、STONE(1996年)などの介入試験である。

 例えばSHEP。60歳以上の収縮期高血圧患者だけを対象としたもので、約4700例を治療群(利尿薬、効果不十分の場合はβ遮断薬追加)とプラセボ群に分け、4.5年にわたって追跡した。その結果、治療群で脳卒中、心筋梗塞、全血管疾患の発症率がいずれも有意に抑制され、老年者の収縮期高血圧に対する治療の有効性が立証された。

 また、70~84歳という、より高齢の高血圧患者を対象としたSTOP-Hypertension(1991年)でも、治療群(β遮断薬、必要に応じて利尿薬追加)で心血管イベントの発生が有意に減少することが示された。続くMRC-old、STONEでもほぼ同様の成績が得られ、老年者高血圧に対する降圧治療のエビデンスが確立した。1990年代前半の最大のトピックスといえるだろう。

 こうしたデータを踏まえてJNC-Vでは老年者高血圧の治療基準を明らかにし、収縮期血圧180mmHg以上なら160mmHg未満に、160~179mmHgでは20mmHg下げ、可能であればさらに降圧することを明記した。この基準はその後さらに厳しくなり、2003年のJNC-7では、年齢に関係なく140/90mmHg未満を降圧目標としている。

 この時期、ガイドラインとしてはJNC-Vの他、WHO/ISH1993、英国高血圧学会の二次作業部会報告(1993年)、ニュージーランドの高血圧管理指針(1993年)、カナダ高血圧学会の管理指針(1993年)などが出されている。

 なかでも、大幅に改訂され、現場に混乱を与えたのがJNC-Vである。老年高血圧者に対する変更点についてはすでに触れたが、薬剤選択についても「初回治療薬として利尿薬、β遮断薬、Ca拮抗薬ACE阻害薬α遮断薬αβ遮断薬が使用可能」としながらも、「利尿薬、β遮断薬を優先すべき」と勧告したのである。高血圧治療のスタンダード薬として普及していたCa拮抗薬とACE阻害薬を二番手に置いたのは、長期比較対照試験が行なわれておらず、罹患率や死亡率を低下させる効果が証明されていないという理由からだった。しかし、合同委員会の本音がコスト削減にあることは明白で、これには批判的な意見も多かったが、以後のJNCガイドラインでは、エビデンスとともに医療経済的な要素が必須の要件となっていく。

 一方、欧米からはかなり遅れたものの、わが国でも初めて高血圧の診療指針が作られた。厚生省と日本医師会が作成した「高血圧診療のてびき」(1990年)である。JNCやWHO/ISHを下敷きにしたもので、海外のガイドラインと比べると見劣りはするものの、非薬物療法、特に食塩摂取制限などに関しては日本の実態に即した記載もなされており、高血圧の標準治療を普及させる上で一定の役割を果たした。

 1990年代前半、フィールドで高血圧治療の主役を担っていたのはCa拮抗薬とACE阻害薬である。JNC-Vでは「長期成績がなく予後改善効果が不明」と一蹴されたが、実はこの時期、着々とエビデンスを集積しつつあった。

 Ca拮抗薬で先陣を切ったのはSTONE(1995年)である。上海で行なわれたプラセボ対照試験で、対象は60~79歳の高血圧患者1600例(東洋人)。Ca拮抗薬を投与した群では、脳卒中の発症率が劇的に低下した。また、60歳以上の収縮期高血圧患者4600例を対象にしたSyst-Eurでは、Ca拮抗薬がプラセボとの比較で、脳卒中のみならず虚血性心疾患も有意に抑制することが明らかになった。

 一方、ACE阻害薬は、CONSENSUS(1987年)、SOLVD(1991年)、V-HeFT II(1991年)などで、心不全の予後改善効果が証明され、糖尿病合併高血圧を対象としたABCDではCa拮抗薬に比べ、心血管イベントの抑制効果が勝るという結果が得られている。

 こうした大規模介入試験の成績を裏付けに、Ca拮抗薬とACE阻害薬は1990年代後半以降、その存在感をいっそう際立たせていくことになる。

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