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降圧薬治療前夜
20世紀前半、血圧と予後の関係が明らかに

2006/09/12
坂本 正

 1628年に英国のWilliam Harvey が、血液は心臓から出て心臓に戻る「血液循環説」という画期的な考えを発表した。その100年後の1733年に同じく英国のStephen Hales がウマの頚動脈にガラス管を挿入し、血液が2.5mの高さまで上昇することを示し、血圧の概念を認識させた。血圧の単位に「mmHg」が使われるようになったのは、フランスのPoiseille が動脈内圧を水銀U字管を用いて測定することがきっかけになっている。

 1896年にイタリアのScipone Riva Rocci が、上腕にカフを巻き付けて、橈骨動脈の触診をしながら水銀圧力計によって収縮期血圧を測定する方法を考案した。その後、ロシアのNikorai Korotkov が脈瘤状血管で雑音を聴取したことをきっかけとして、聴診器による血圧測定法を考え、1905年に論文として発表した。収縮期と拡張期の2種類の血圧が測定されたのも、このときが初めてである。もっとも、コロトコフ音による測定法が普及し始めるのは、ドイツのBosdorff が1931年に、コロトコフ音が収縮期と拡張期の血圧をほぼ正確に示していると報告して以降のことである。

 血圧値が高いことが生理的に異常があるとの認識は20世紀初頭からあったが、測定した血圧値がどんな意味を持つのかについては、諸説が入り乱れた。同じ血圧値でも脳卒中や心疾患になる人とならない人がいるという個体差があり、はっきりしたデータがなかったためである。

 高血圧と身体の健康との関係を最初に明らかにしたのは、米国の生命保険会社だった。生命保険会社では、1911年以降、保険加入時に血圧測定をしてもらうことになり、その血圧と平均余命の関係を追跡していった。当初は1000人程度を8年間追跡したが、その結果、血圧が高く血管の緊張が高い人ほど死亡率が高いことが分かった。その後、母数が1万人、10万人、100万人と増えていくにしたがい、血圧と平均余命の関係はさらに明確になり、同時に「高血圧は体に悪い」ことが世の中に広まっていった。

 1948年に、米国政府は学問的に調査・研究することを目的に、NIH(National Institutes of Health)を開設、同時にFramingham 研究を開始した。
 
 高血圧の原因や治療法の研究も、相前後して始まっていた。今日使われている降圧薬が開発される以前の治療薬としては、Veratrum アルカロイド、thiocyanate、硝酸塩の3つが主として用いられていた。そして、1952年にヘキサメトニウムが市販され、降圧薬治療の幕が開け始めることになる。

 高血圧の歴史は100年、降圧薬治療の歴史は50年ほどである。100年前の間接法による血圧測定が、いまだに診断、治療、評価の基盤になっていることについては、批判と反省の声も高まっている。Korotkov の論文発表から100年経った今、高血圧の研究・診療に新たなパラダイムが求められている。

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