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1980年代前半
日本にCa拮抗薬とACE阻害薬が登場

主な出来事:高齢者に対する降圧治療の有効性を証明、Pageの「モザイク説」修正版発表
主なガイドライン:JNC IIおよびIII、WHO/ISH初の合同ガイドライン
主な臨床研究:MRFIT(米国、1982年)、EWPHE(欧州、1984年)、MEC(英国、1985年)、IPPPSH(欧州、1985年)
主な新薬:塩酸プラゾシン(α遮断薬)、塩酸ニカリジピン(Ca拮抗薬)、塩酸ジルチアゼム(Ca拮抗薬)、塩酸ラベタロール(αβ遮断薬)、カプトプリル(ACE阻害薬)、アテノロール(β遮断薬)、ニフェジピン(Ca拮抗薬)


 1980年代に入ると、新しい降圧薬として、カルシウム(Ca)拮抗薬とアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害薬などがわが国にも導入され、相次いで行われた大規模臨床試験で、脳卒中や心血管イベントの抑制に降圧薬療法が有効であることが明らかになった。これらの臨床試験のデータを踏まえて高血圧のガイドラインが書き換えられ、新たな高血圧の管理基準や標準的な治療基準が示された。1980年代から降圧薬治療もいよいよEBM(Evidence Based Medicine)の時代に入るのである。

 新たに登場したACE阻害薬(カプトプリル)やCa拮抗薬(塩酸ニカルジピン、塩酸ジルチアゼムなど)、α遮断薬(塩酸プラゾニン)は、降圧作用は従来の利尿薬とほぼ同等で、利尿薬のような代謝系への副作用(低K血症、高尿酸症、高脂血症、耐糖能低下など)はなかった。これらの新薬は、初めは段階的治療の併用薬として使われたが、やがて利尿薬に替わって、step1の段階から使われるようになった。

 1980年代は高血圧に関する大規模な介入試験が各国、各地域で実施され、その結果が相次いで発表された。VA研究の後に行われたANBPSOslo研究は主に利尿薬を用いた臨床試験で、これらの試験では降圧薬は脳卒中発症には抑制効果を示したが、虚血性心疾患の抑制には効果が認められないというものだった(その後、有効性を示す試験結果も出ている)。

 β遮断薬が開発されてからは、利尿薬とβ遮断薬との比較試験(MRCなど)やβ遮断薬とプラセボとの比較試験(IPPPSH)が行われ、その後、Ca拮抗薬やACE、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が登場すると、これらの新降圧剤を用いた介入試験や比較対照試験が花盛りとなる。

 老年者では高血圧の頻度が高く、心血管疾患リスクも高いが、老年者に対する降圧薬治療の有効性を示すデータは少なかった。有効性を証明する大規模臨床試験の結果が報告されたのは、1985年以降になってからである。
 
 1980~85年に発表された主な大規模臨床介入試験は以下の通り。

・ ANBPS(オーストラリア、Australian National Blood Pressure Study、1980年):軽症高血圧(収縮期血圧200mmHg未満、拡張期血圧95~105mmHg)の30~69歳、3427例に対する利尿薬治療を施した結果、心血管死亡率が3分の2にまで減少した。

Oslo研究(ノルウェー、Oslo study、80年):軽症高血圧(収縮期血圧150~179mmHg、拡張期血圧110mmHg未満)の40~49歳の男性患者785例に利尿薬を投与、脳卒中は減ったが、総死亡率、心血管死亡率は減らなかった。

EWPHE(欧州、European Working Party ON High Blood Pressure in the Elderly Trial、1984年):60歳以上の高齢高血圧患者840例(収縮期血圧160~239mmHg、拡張期血圧90~119mmHg)を対象に、利尿薬で、心血管死亡、心血管合併症に対する抑制効果認めた。全死亡では有意差なし。心血管事故の発症は、拡張期血圧より収縮期血圧に相関することを示唆した。

 実は1981年に東京都養育院は「Prospective study on the treatment of mild hypertension in the aged」において、高齢高血圧患者(91例、平均年齢76歳)に対する治療(利尿薬)の有効性を世界に先駆けて示している。

 その後の高齢者に対する大規模臨床介入試験としては、STOP-Hypertension(スウェーデン、Swedish Trial in Old Patients with Hypertension、1991年)やSHEP(Systolic Hypertension in the Elderly Program、1991年)、STOP-Hypertension-2(1999年)などが発表されており、老年者高血圧例の降圧薬治療(主に利尿薬、β遮断薬)が脳卒中を抑制した(冠動脈疾患の抑制は軽度)という結果や、Ca拮抗薬やACE阻害薬の予後改善効果を認めたという報告を出している。

MRFIT(Multiple Risk Factor Intervention Trial、米国、1982年):年表の1970年代前半参照。

MRC(英国、Medical Research Council study、1984年):軽症高血圧(収縮期血圧200mmHg以下、拡張期血圧90~109mmHg)の35~64歳、1万7354例を対象とした試験で、利尿薬とβ遮断薬投与によって、脳卒中発症の抑制効果は認められたが、冠動脈心疾患、心血管病発症率はともに変わらなかったと報告。

IPPPSH(欧州、International Prospective Primary Prevention Study in Hypertension、1984年):40~64歳の合併症のない本態性高血圧患者(拡張期血圧100~125mmHg)6357例を対象に行われ、β遮断薬では、突然死、心筋梗塞、脳血管障害に対する抑制効果は認められず、喫煙者の心血管イベント発生は、非喫煙者の2倍などのデータを発表。

 これらのデータを踏まえて、米国合同委員会やWHOの高血圧の診断・治療ガイドラインは改訂を迫られた。

 1980年のJNC IIでは、JNC I同様、降圧薬開始血圧は、リスクがない症例では拡張期血圧≧105mmHg、収縮期血圧上昇や差室肥大、喫煙習慣、コレステロール値上昇などのリスクがある症例では90~104mmHgとし、降圧目標はともに<90mmHgとした。第一選択薬はサイアザイド系利尿薬に加えて、新たにループ利尿薬(JNC Vまで腎機能障害合併例には推奨)が入った。JNC III(1984年)では、さらにβ遮断薬が加わった。

 1983年には、WHO/ISHが初めて合同で軽症高血圧の管理ガイドライン(WHO/ISH1983)を発表、降圧薬開始血圧は、拡張期血圧>95mmHg、降圧目標は<90mmHgとした。その後のWHO/ISH2003では、高血圧患者を血圧分類と危険因子、合併症あるいは臓器障害を総合的に判断して、低リスク、中リスク、高リスクとして治療基準を決定。降圧目標は低・中リスクは収縮期血圧<140mmHg、高リスクは同<130/80mmHgと設定した。女性や高齢者にも同じ血圧管理を求めた。高リスクでは高価な降圧薬を用いても費用対効果は高いが、低リスクではすべての層で安価な利尿薬を第1選択薬に推奨している。

 ところで、高血圧の成因に関しては、Irvine H. Page(米国)が1942年に唱えた「モザイク説」が有名だが、その修正版が1982年に発表された。Pageは最初、高血圧の成因論として、化学物質、血管反応性、血管内径、循環血液量、神経因子、血液粘調度、心拍出量、血管弾性という8因子が互いに影響し合って高血圧が発症するという「モザイク説」だったが、修正版では、その後の知見を加え、遺伝、環境(食塩、ストレス)、解剖学的因子(大動脈狭窄症、腎動脈狭窄など)、適応減少(細胞膜ポンプを介するNa+、Ca+などの調節)、神経因子、内分泌、液性因子(種種の血管収縮性あるいは拡張性因子)、血行動態(血液量、粘度、心拍出量、腎内血行動態)の8項目を規定因子として改訂した。

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