
2005. 11. 16
【AHA2005速報】
MMP阻害因子が心血管系イベント再発の予知因子――LIPIDサブ解析結果



細胞外基質などを分解するためプラークの不安定化を促進すると考えられているマトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)。そのMMPの阻害因子(TIMP-1)の血中濃度高値が心血管系イベントの予知因子であるという、一見、逆説的な結果が、LIPID研究のサブ解析で明らかになった。報告にあたったBaker Heart Research Insttitute(豪州)のPaul Nestel氏らは「TIMP-1血中濃度増加はプラーク周辺におけるMMP(活性)増加に対する修復作用を反映している可能性がある」と考察している。
Nestel氏らはプラバスタチンによる冠動脈イベント2次予防作用を検討した大規模試験、LIPID研究よりイベントを来した250例(症例群)と対照250例を選択し、血中TIMP-1、Nt-pro-BNPと高感度C反応性タンパク(hsCRP)の血中濃度、ならびにその他の生化学マーカーなど主要な危険因子を比較した。すると症例群では血中TIMP-1濃度とNt-pro BNP濃度が対照群に比べ、いずれも有意(p<0.001)に高かった。CRP濃度は両群間に差を認めなかった。
そこで『治療と血清脂質値」ならびに「血中CRP濃度とNt-proBNP濃度」で補正後、TIMP-1濃度4分位数で分けた4群間の心血管系リスクを比較すると、TIMP-1濃度の増加に従い心血管系イベントリスクが増加する有意(p<0.001)な傾向を認め、最低群に比べ上位2群ではそれぞれ、心血管系イベント相対リスクが1.87倍と1.97倍(最高群)、有意(いずれもp=0.03)に増加していた。TIMP-1濃度は高血圧、糖尿病、肥満度(BMI)あるいは喫煙状態とは相関せず、またプラバスタチンによっても影響を受けなかった。なお、Nt-pro BNPも心血管系リスクを増加させる有意な因子だった。
以上のように、TIMP-1の血中濃度上昇が、心血管系イベントの予知因子であるという結果となった。TIMP-1はプラークの線維性皮膜を分解し、プラークを不安定化させるMMPの阻害因子であるためNestel氏は、血中TIMP-1濃度の増加がプラーク局所におけるMMP(活性)の増加に対抗する生態の防御反応を反映している可能性を指摘した。TIMP-1高値が左室機能低下と相関するというFramingham Heart Studyの結果 (European Heart Journal 2004年9月号1509-1516、現在、 [全文http://eurheartj.oxfordjournals.org/cgi/content/full/25/17/1509]を閲覧可能)を引きながら同氏らは、「血中TIMP1高値は、血管壁または心筋における修復過程進展のマーカーである可能性がある」と考察した。(宇津貴史、医学ライター)
訂正 発表者Paul Nestel氏の写真を誤って掲載しました。お詫びして再掲載いたします。
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