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記者の眼

身近な動物はSARS-CoV-2に感染するのか?
イヌは心配なさそうだが、ネコとフェレットは要注意

 約2カ月前の4月6日。米国のAP通信がニューヨーク発のニュースとして、ブロンクス動物園の2頭のトラと3頭のライオンが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査で陽性反応を示したことを報じた。米国でのCOVID-19流行により、動物園は3月16日から休園していたが、3月27日にマレートラの「ナディア」から症状が出現した。5頭は、乾いた咳、喘鳴、食欲不振などの症状を示したという。その後、幸いにも5頭全てが回復したそうだ。

 SARS-CoV-2はコウモリに由来するのではないかとか、中間宿主はセンザンコウではないかといった仮説も提唱されているが、こうなると、他の動物とヒトとの間でSARS-CoV-2感染は起こるのかが気になる。5月13日には、日米の共同研究で、同じネコ科の動物でペットの家ネコを対象に調べたところネコ-ネコ間で感染が起こることがNEJM誌に報告された(「SARS-CoV-2はネコからネコへ感染する」)。この研究では、ヒト-ネコや逆にネコ-ヒト間の感染は確認していないが、可能性はあるとして注意喚起している。

 さらに5月29日には、中国の獣医学研究者が、フェレット、ネコ、イヌ、ブタ、ニワトリ、アヒルを対象にSARS-CoV-2感染を研究した論文がScience誌に掲載された。動物にウイルスを感染させる実験は、SARS-CoV-2の2つの株(武漢の海鮮市場の環境から採取されたF13-E株と武漢の患者から見つかったCTan-H株)を用い、バイオセーフティーレベル4の施設で行われた。

 フェレットは呼吸器ウイルス感染症の研究でモデル動物に用いられることが多い。鼻腔内に105plaque-forming units(PFU)のF13-E株とCTan-H株を、それぞれ2匹ずつのフェレットに接種した。接種から4日後、RT-PCR検査で様々な組織のウイルスRNA量の定量を試み、Vero E6細胞を用いて感染力を調べた。その結果、4匹とも鼻甲介、軟口蓋、扁桃からウイルスが見つかったが、それ以外の組織(肺、心臓、肝臓、小腸など)からは検出されなかった。そのため、フェレットでウイルスが増殖するのは上気道のみであることが示唆された。

 次に感染後の経過を調べる目的で、F13-E株とCTan-H株をそれぞれ3匹ずつのフェレットに鼻腔内接種した。接種から10日後にCTan-H株グループの1匹が、12日後にF13-E株のグループの1匹が、発熱と食欲不振の症状を発症した。ELISA法でSARS-CoV-2に対する抗体検査を実施したところ、6匹とも抗体ができていたが、症状を発症した2匹は他の4匹よりも抗体価が低かった。

 次にネコに感染するかどうかを調べるため、生後6~9カ月のネコ7匹にCTan-H株を鼻腔内接種した。また、ネコからネコへの飛沫感染を調べるために、感染していないネコのケージを隣に設置した。ウイルス接種から3日後のネコでは、鼻甲介、軟口蓋、扁桃、気管、肺、小腸などからウイルスが検出された。しかし6日後には、ウイルスは上気道のみで、肺や小腸からは検出されなくなった。

 生後6~9カ月の3組のペアで、ネコからネコへの感染を調べたところ、接種から11日後に3組中1組で、鼻甲介、軟口蓋、扁桃、気管からウイルスRNAが検出された。他の2組からは12日後の段階でウイルスは検出されなかった。抗体検査を行ったところ、ウイルスを接種された3匹と、飛沫感染が起こったと考えられるペアの1匹で、抗体価が上がっていた。

 念のため、生後70~100日の幼ネコを対象にして、飛沫感染が起こるかどうかを調べた。するとウイルス接種後に死亡した幼ネコが現れ、鼻腔から気道を通じて肺まで粘膜上皮細胞に大量の病変が見つかった。ネコの場合は幼ネコの方が、感染に脆弱であることが示唆された。

 次に生後3カ月のビーグル犬を対象に、CTan-H株の感染実験を行った。5匹にウイルスの鼻腔内接種を行い、感染させていないビーグル2匹と同室で過ごさせた。ウイルス接種から2、4、6、8、10、12、14日後に、口腔咽頭スワブと直腸スワブを用いてウイルスRNAの検出を試みたが、見つかったのは2日後の直腸スワブ(2匹)と6日後の直腸スワブ(1匹)のみで、それ以外のサンプルからは検出できなかった。このため、SARS-CoV-2はイヌには極めて感染しにくいことが示唆された。

 イヌと同じ方法で、ブタ、ニワトリ、アヒルの感染実験を行った。ウイルスを接種した個体と、同室で飼育した感染させていない個体を調べたが、全てのサンプルでウイルスRNAは検出されなかった。そのためブタ、ニワトリ、アヒルはSARS-CoV-2に感染しないことが示唆された。

 これらの結果から著者らは、身近な動物の中で感染しやすいのはフェレットとネコだったが、その理由として、SARS-CoV-2が細胞に侵入するときの入り口になるACE2のアミノ酸配列を挙げている。ACE2のアミノ酸配列は、動物の種類により数多くのバリエーションがあることが知られているが、ネコとフェレットでは2個しか違わないそうだ。一方、SARS-CoV-2に感染しやすいということは、逆にCOVID-19の治療薬やワクチンの評価を行う場合に、モデル動物になり得るということでもある。

 一般家庭の場合、イヌは屋外を散歩させている途中に、他のイヌとすれ違っても感染する心配はまずなさそうだ。一方ネコはあまり屋外に出さないように用心すべきかもしれない。

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