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妊婦とくすりの基礎知識
ワクチン 麻疹・風疹・インフルエンザ
日経DI2016年11月号

2016/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2016年11月号 No.229

国立成育医療研究センター薬剤部
妊娠と薬情報センター
八鍬 奈穂/中島 研


「妊娠と薬情報センター」では、妊娠と薬に関わる情報を世界各国の文献から探索し、科学的に検証された情報を提供している。本コラムでは、同センターの業務に携わる薬剤師の立場から、妊娠と薬に関する基本的な情報を紹介する。

 「妊娠と薬情報センター」で、これまでに受けた約1万2000件の相談の中で、ワクチン接種に関する相談は約250件ある。妊娠に気付かず接種したケースや、接種後に規定の期間を空けずに妊娠したケースなどが多く、非常に心配する妊婦も少なくない。

 ワクチンの種類と特徴を表1にまとめた。今回はこれらの中で相談の多い麻疹ワクチン、風疹ワクチン、さらに季節的に接種機会が増えるインフルエンザワクチンの3つを取り上げ、ヒトでの使用について解説する。

表1 ワクチンの種類と特徴(『予防接種必携 平成27年度』『予防接種ガイドライン2016年度版』を基に作成)

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麻疹ワクチン
(弱毒化生ワクチン)

●妊娠中の麻疹感染
 妊娠中の麻疹の感染は、流産、死産、早産、先天奇形の増加につながる可能性があるとの報告がある1)。一方、妊娠中に麻疹に感染した60人から生まれた児に異常の増加は見られず、また妊娠初期に麻疹感染した19人においても、流産や死産の増加は見られなかったとの報告もある2、3)

●ワクチンの児への影響
 妊娠4カ月までに接種した37人の母親から生まれた子には、先天異常は見られなかったと報告されている4)。ただし生ワクチンであるため、理論的には胎児の感染リスクを除外できないこと、妊娠中の接種による影響に関するデータが少ないことから、日本の添付文書や米国疾病対策センター(CDC)の勧告でも禁忌となっており、妊娠中の女性に麻疹ワクチン接種を推奨することはできない。しかし、妊娠に気付かず接種した場合について、CDCは妊娠を中断する理由にはならないとしている5、6)

風疹ワクチン
(弱毒化生ワクチン)

●妊娠中の風疹感染
 母親が妊娠中期までに野生型の風疹に感染すると、児が先天性風疹症候群を起こす可能性があるが、母親が接種を受けたワクチンの弱毒化ウイルスによって先天性風疹症候群が起こったと証明された症例は、今までに報告されていない。

●ワクチンの児への影響
 受胎の3カ月前から3カ月後の間に風疹ワクチンを接種した女性321人の児を調査したところ、先天性風疹症候群と診断された児は1人もいなかった7)。また、受胎の3カ月前から3カ月後の間に風疹生ワクチン接種した女性680人の児(文献7の対象との重複例が含まれている可能性あり)の調査においても、先天性風疹症候群と診断された児は1人もいなかった。なお、この中には受胎の1~2週間前から4~6週後の間(ハイリスクな時期と考えられる)に風疹ワクチン接種を受けた女性から生まれた293人の子どもが含まれていた5)

 胎児に風疹ワクチンウイルスによる無症候性感染が起こる可能性は否定できないが、これらの報告を踏まえると、先天性風疹症候群が起こる可能性は極めて低いものと考えられる。ワクチン接種後に妊娠に気付くことや接種後2ヵ月以内に妊娠することがあり得るが、これらは妊娠を中断する理由にはならないとされている8、9)

インフルエンザワクチン
(不活化ワクチン)

●妊娠中のインフルエンザ感染
 一般人口集団と比較して合併症のリスクが高く、妊娠後半、特に妊娠第3三半期にはリスクが増加することが報告されている10、11、12)。また、インフルエンザによる流産13)、死産14)、早産15)のリスク増加も報告されている。そして、妊婦にインフルエンザワクチンを接種することによって、インフルエンザの重症度の低下や、入院・集中治療室(ICU)収容の必要性の減少、インフルエンザ活動期における早産と子宮内胎児発育遅延の発生率の減少─が報告されている16)

 そのため、世界保健機関(WHO)、米国予防接種実施諮問委員会(ACIP)は、妊娠週数に関わらず全ての妊婦に不活化インフルエンザワクチンを接種することを勧告している17)

●ワクチンの児への影響
 妊娠4カ月までにワクチン接種を受けた母親から生まれた650人の児において、先天異常の発生率の増加は見られなかった18)。また、妊娠第1三半期に接種した330人に先天異常の発生リスクの増加は認められなかったとの報告もある19)

 現在までに数百万人以上の妊婦がインフルエンザワクチンを接種していると考えられるが、有害事象はほとんど報告されていない17)。日本の研究では、182人の妊婦において妊娠中のインフルエンザワクチンの安全性を評価したところ、接種時の妊娠時期にかかわらず、有害事象は見られなかったと報告されている20)。従って、インフルエンザワクチンは有害転帰とは関連しない不活化ワクチンで、妊娠中のどの時期に接種しても安全であると考えられる。諸外国では、インフルエンザシーズンには妊婦はインフルエンザワクチン接種を受けることが推奨されている。

* * *

 以上をまとめると、麻疹や風疹のような生ワクチンは、妊娠が判明してからの接種は避ける必要があるが、妊娠に気付かずに接種した場合の児への重大な影響の報告はなく、妊婦への対応は慎重に行う必要がある。一方、妊婦がインフルエンザに感染すると、重症化や妊娠転帰の悪化を招くと報告されており、妊娠中においてもワクチンの接種が推奨されると考えられるが、妊婦への対応は各施設により異なっている。

チメロサールの胎児への影響は?

 「水銀の摂取と自閉症に関係があるのでは」と心配している母親に出会ったことはないだろうか。一部のインフルエンザワクチンは、水銀含有防腐剤であるチメロサールを含有しているため、接種を控えた方がいいのでは、といった話をよく聞く。しかし、大規模コホート研究では、チメロサール含有ワクチンを接種した子どもに自閉症スペクトラム障害を含む神経発達転帰の異常が増加しないことが示されている21)。妊娠中のチメロサール含有ワクチン曝露の安全性を調べた研究はないが、妊婦にも長い間使われてきており、有害事象の報告はない。

参考文献
1) Drugs in Pregnancy and Lactation, 7th ed. 2005
2) JAMA.1966;197:680-4.
3) N Engl J Med.1966;274:768-71.
4) Birth Defects and Drugs in Pregnancy.1977;PP315-6.
5) MMWR.2001;50:1117.
6) JAMA.2002;287:311-2.
7) MMWR.1998;47(No. RR-8)
8) AHFS drug information, 2005
9) MMWR.1989;38:289-93.
10) MMWR Morb Mortal Wkly Rep.2011;60:1193-6.
11) N Engl J Med.2010;362:27-35.
12) Lancet.2009;374:451-8.
13) Commun Dis Rep CDR Rev.1994;4:R28-32.
14) Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol.2009;147:115.
15) Health Technol Assess.2010;14:109-82.
16) PLoS Med.2011;8:e1000441.
17) WHO Position Paper Influenza Vaccines Weekly Epidemiological Record.2005;33:279-87.
18) Birth Defects and Drugs in Pregnancy, 1977;PP314-6,318,319,436,474,488
19) JAMA.2012;308:165-174.
20) Kansenshogaku Zasshi.2010;84:449-53.
21) Clin Infect Dis.2009;48:456-61.

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