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妊婦とくすりの基礎知識
非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
日経DI2016年4月号

2016/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2016年4月号 No.222

国立成育医療研究センター薬剤部
妊娠と薬情報センター
八鍬 奈穂/中島 研


「妊娠と薬情報センター」では、妊娠と薬に関わる情報を世界各国の文献から探索し、科学的に検証された情報を提供している。本コラムでは、同センターの業務に携わる薬剤師の立場から、妊娠と薬に関する基本的な情報を紹介する。

 医薬品には、妊娠中に服用すれば胎児に悪影響を及ぼすものがある一方、服用の中止により母体の症状悪化を引き起こすこともある。そのため妊娠と薬に関する相談には、正確な情報を基にした慎重な対応が要求される。

 そうした情報を広く提供すること、および妊娠結果を調査してエビデンスを創出することを目的に、国立成育医療研究センターには「妊娠と薬情報センター」が設置されている。筆者らは同センターの業務に携わっており、薬局などの現場で活用できる基本的な情報を、本コラムで紹介する。

 第1回は、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を取り上げる。NSAIDsには様々な種類があるが、各成分に特化した研究は少ないため、NSAIDs全体として評価している。

【妊娠前】
不妊に関与している可能性

 NSAIDsを消炎鎮痛目的で長期間使用している女性に、一時的な不妊が認められたとする報告がある1~4)。NSAIDsの標的分子であるCOX2は、炎症部位だけでなく排卵前期の卵胞にも発現し、卵細胞成熟および排卵促進を担うプロスタグランジンE2の合成に関与している。このためNSAIDsは排卵を間接的に抑制し、一時的な不妊に関与していると考えられている3)

 従って、妊娠を希望している場合、特に排卵の時期にはNSAIDsの使用を避けることが望ましい。

【妊娠初期】
先天異常の心配は不要

 NSAIDsと先天異常については、多くの調査がある。複数の疫学研究で、妊娠初期にNSAIDsを使用しても、先天異常の発生頻度は上昇しなかったという結果が得られている5~7)。また、妊娠初期の使用による心奇形のリスク上昇が疑われた時期があったが、その後の研究でこの関連も否定されている8)

 以上から、妊娠初期にNSAIDsを使用しても、先天異常について心配する必要はない。特に、妊娠に気付かずNSAIDsを使用したとしても、中絶する理由にはならないと考えられる。

【妊娠初期】
流産への影響は不明

 妊娠初期にNSAIDsを使用した場合に、複数の研究において流産率が上昇すると報告されている7、9、10)。一方、流産率には影響を与えないとする研究もあり11)、現時点で結論は出ていない。

【妊娠中期~後期】
羊水過少のリスクあり

 妊娠中の使用に伴う羊水量減少が報告されている。通常は使用を中止すれば羊水量が回復するが、長期使用例では出生後に腎機能異常を起こす可能性も報告されている12、13)。また、腎不全により無尿となった死亡例の報告もある14)

 羊水量減少の機序は明らかではないが、羊水の主要な産生源は胎児尿と考えられており、NSAIDsによる胎児の腎機能低下が関連している可能性が考えられている。

【妊娠後期】
動脈管への影響に懸念

 妊娠後期の使用により、胎児の動脈管の早期閉鎖が起こり、出生後に遷延性肺高血圧症や動脈管開存症が起きることがある。遷延性肺高血圧症児の母親においてNSAIDsの使用率が高かったとの報告もある15、16)

 従って、妊娠後期のNSAIDsの使用は禁忌とされている。影響が重大であるため、誤って使用しないよう患者に十分に説明する必要がある。

●アセトアミノフェンが第一選択

 妊婦の解熱鎮痛目的に用いられる薬の第一選択薬は、アセトアミノフェンである。動脈管開存症のリスクが認められないことから、妊娠後期にも使用される。近年、出生児の喘息との関連を疑う報告などが発表されているが、今のところ確証は得られていない。

 以上、NSAIDsに関して得られている知見をまとめた。NSAIDsは頭痛薬や感冒薬などに含まれており、使用機会が多い。妊娠中は特に、市販薬を安易に使用しないよう注意を促したい。

 なお、妊婦には薬剤の使用に関係なく先天異常が生じるリスクがあり、ベースラインリスクと呼ばれる。薬剤曝露による影響は、ベースラインリスクよりもその危険性が上昇するか否かを考える必要がある。

 先天異常のベースラインリスクは調査方法や地域などにより異なるが、一般には全妊娠の新生児の中で、出生時に判明する先天異常が約3%あると考えられている。

 また、自然流産については、妊娠と診断された人の約15%に生じるとされる。流産率は母体年齢が増加するのに伴って上昇し、40歳以上では約25%程度になるといわれている。

 妊娠中の女性に対しては、こうしたリスクを含めた情報を正確に伝えておくことが、薬剤師に求められる。

 別掲記事に、妊娠週数と薬剤の影響についてまとめた。基本的な知識として重要なので、参考にしてほしい。

参考文献
1)Br J Rheumatol.1996;35:76-8.
2)Br J Rheumatol.1996;35:458-62.
3)Rev Rhum Engl Ed.1999;66:167-8.
4)Rheumatology (Oxford).2000;39:880-2.
5)PLoS One.2011;6:e22174.
6)Reprod Toxicol.2001;15:371-5.
7)BMJ.2001;322:266-70.
8)Reprod Toxicol.2003;17:255-61.
9)BMJ.2004;328:109.
10)BMJ.2003;327:368-70.
11)Obstet Gynecol.2012;120:113-22.
12)J Pediatr.1988;113:738-43.
13)J Perinatol.1993;13:425-7.
14)Am J Obstet Gynecol.1994;171:617-23.
15)Pediatrics.1996;97:658-63.
16)Pediatrics.2001;107:519-23.

妊娠週数と薬剤の影響

 妊娠に対する薬の影響は、妊娠の時期ごとに異なる(図1)。通常は妊娠初期の先天異常に対する影響が重要視されるが、妊娠後期に重大な影響が出る場合もあり、それぞれの時期の違いを認識しておきたい。

図1 胎児の発生における危険期(妊娠と薬情報センター作成)

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●胚芽期(妊娠3週まで)
 all or noneの時期とも呼ばれる。この時期に多数の細胞で障害が起こると、通常は胎芽死亡となる。障害された細胞が少数であれば、完全な修復が可能で正常な妊娠が継続するといわれている。このため、先天異常に関しては、この時期における薬剤の影響は考慮する必要はない。

●胎芽期(妊娠4週~9週)
 重要な器官が形成される時期で、人体の構造的な異常に関して、薬剤に最も敏感な時期である。影響を受ける時期は図1の通り、器官によって異なるが、催奇形性のある薬剤やリスクが不明な薬剤は、この時期での曝露を避けるのが望ましい。

 ただし、実際にはこの時期になって妊娠を自覚することが多い。そのため、妊娠を希望している女性には、服用する薬剤のリスクを事前に説明しておくことが重要である。

●胎児期(妊娠10週以降)
 多くの器官の形成が完了し、胎児が発育・成熟する期間である。薬剤の影響としては先天異常よりも胎児毒性が問題となる。

 胎児毒性とは、薬剤が胎児の各器官に作用することで生じる発育への悪影響のことであり、先天異常とは区別される。NSAIDsの場合、羊水過少や動脈管開存症、肺高血圧症などが胎児毒性により生じる。胎児死亡などの重大な影響を及ぼす薬剤もあるため、適切な対応が求められる。

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