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特集:骨粗鬆症マネジメント
薬局で今日から始めたい 骨粗鬆症の予防とケア
日経DI2015年9月号

2015/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年9月号 No.215

【服薬指導編】
「続けてこそ効く」を理解してもらう

 「骨粗鬆症では薬の選択肢が豊富になり、様々な戦略が立てやすくなったが、患者が適切に薬を服用できなければ治療効果は期待できない。そこで力を発揮するのが薬剤師」。名古屋膠原病リウマチ痛風クリニック(名古屋市中村区)理事長で医師の田中郁子氏は、薬剤師の役割をこう語る。

 骨粗鬆症は自覚症状がなく、検査値も短期間では変動しないため、服薬アドヒアランスが低下しやすい。そんな骨粗鬆症の服薬指導では、患者のアドヒアランスをいかに高め、維持するかが課題となる。

 田中氏は、長期間の継続が治療の目標であることを患者に理解してもらう、これが骨粗鬆症の患者指導で、まず重要と話す。そのために「すぐには効果を実感できない薬と理解してもらうといいだろう」とアドバイスする。そして、「薬を飲めているかを毎回確認し、飲めない場合は何が問題なのかを聞き取って、その情報を医師にフィードバックしてほしい」と要望する。

 田中氏とともに骨粗鬆症患者のケアに当たる同クリニック薬剤師で、骨粗鬆症マネジャーの資格を持つ玉井千尋氏は、骨の成長は20歳がピークで、その後減少するが、治療により骨の減少を防ぐことができると患者に説明した上で、「『骨づくりをこれから一緒に始めましょう』と声掛けしている」と言う。

名古屋膠原病リウマチ痛風クリニックの田中郁子氏(右)と、同クリニックの薬剤師で骨粗鬆症マネジャーの認定を今春に取得した玉井千尋氏。

 健ナビ薬樹薬局古市場(神奈川県川崎市)管理薬剤師の金原知祥氏も、服薬をいかに継続してもらうかをいつも考えながら骨粗鬆症患者に接している薬剤師の一人だ。金原氏らは患者の服薬アドヒアランスを高めるために、生活指導に関する情報を“小出し”で提供し、患者の関心を維持している。

 例えば、骨粗鬆症の治療が開始された患者に対して、初回来局時に食事で十分量のカルシウムを摂取しているかを調べるが、その結果はあえて2回目の来局時に伝えるようにしている。そして、2回目の来局時には、食生活チェックの結果を基に食事内容の指導を行い、3回目の来局時に運動について説明する予定であることだけ伝える。

 このようなやり方で、患者の興味を維持し、特に服薬アドビアランスが低下しやすい服用開始後の数カ月間を乗り越えている。

第1期骨粗鬆症マネジャーが誕生

 日本骨粗鬆症学会は、今年4月、第1期骨粗鬆症マネジャー680人を認定した。骨粗鬆症マネジャーとは、骨粗鬆症の予防と改善、骨折予防を取り組む多職種からなる連携サービス(骨粗鬆症診療支援サービス[OLS])の担い手を指す。 今回認定された第1期生の職種別内訳は、看護師48%、薬剤師19%、理学療法士19%など。薬剤師の占める割合は2割弱と少なかったが、薬の専門家である薬剤師の参画を期待する声は多い。

 同認定を得るには、骨粗鬆症学会の会員であるなどの要件を満たし、指定の講義を受けた上で、試験に合格する必要があり、薬局薬剤師にとっての難易度は高いかもしれない。ただし、海外ではOLSの活躍で住民の骨折発生が減ることが示されている。骨粗鬆症ケアを実践するための知識とネットワークを得るためにもチャレンジしてみてはどうだろうか。

まずは詳細な聞き取りを

 ビスホスホネート製剤はカルシウムと結合すると吸収が悪くなるので、服薬時の注意点が多く、詳細な服薬指導が必要な薬剤だ。

 「何時に起き、何時に朝食を食べるか、何曜日なら飲みやすいかなどを聞き取った上で、服用後30分間、朝食まで時間を空けられるかどうかを確認し、難しい患者では、それを医師に伝えている」と金原氏。

 ビスホスホネート製剤の剤形は多様化しており、患者の服薬状況を知ることができれば、患者により適した剤形に変更できる。一方で、ビスホスホネート製剤が飲めないという患者には様々な理由があり得る。「認知機能の低下から飲み忘れている可能性もあれば、他科で処方される薬剤が多くて飲めないという場合もある」と田中氏。「なぜ、服用できないかが分かると、適切な剤形選択につながる」とも言う。

 また、ビスホスホネート製剤をどのような水で飲んでいるかも確認しよう。カルシウムを多く含むミネラルウォーターで服用すると吸収が悪くなるが、ミネラルウォーターといっても、カルシウム含有量は様々。「銘柄を聞いて、ミネラル含有量の高い硬水だったら軟水に変更してもらうとよい」と田中氏はアドバイスする。 利便性の高さから、昨今、月1回など服用頻度の低いビスホスホネート製剤が普及しているが、それらの製剤では、毎回の服用をより慎重に行うべきであることを患者に伝えたい。

 薬剤の保管場所も具体的に指示するとよいだろう。自己注射製剤であるフォルテオは、「5℃で保存」する必要がある。患者は家では冷蔵庫に入れて保管することになるが、その置き場まで指示しているだろうか。

 「大切な薬なので冷蔵庫の奥に入れておく患者がいる」と玉井氏。しかし、冷気の吹き出し口近くに保管すると、冷え過ぎて凍ってしまう危険性があると指摘する。ペプチド製剤なので凍結は厳禁だが、「凍らせないように」と言っても患者はどうしたらいいか分からない。田中氏は、「卵置き場は、どのメーカーの機種も冷やし過ぎない設計になっているので、『卵置き場で保管してください』と具体的に指示すれば、患者は実践しやすい」と説明する(図4)。

図4 フォルテオの保管は卵置き場で

 フォルテオに使用した針はペットボトルに入れて持ってきてもらうと、スタッフの針刺し事故防止につながるだろう。

薬剤の重複投与は要注意

 骨粗鬆症の治療を受けるのは、主に70代以上の高齢者。これらの患者の多くは、様々な疾患を抱え、複数の医療機関を受診している。また、自分が受けている治療内容を把握していない患者も多い。そのため、薬剤の重複投与には、注意を怠らないようにしたい。

 健ナビ薬樹薬局の金原氏は、「活性型ビタミンD3製剤が重複処方される患者がとても多い」と語る。活性型ビタミンD3製剤には、多数の後発医薬品が存在するので、お薬手帳をチェックしている医師でも把握しきれない場合があるようだとも話す。

 昨今、処方数が増えているエルデカルシトールは、他の活性型ビタミンD3製剤に比べて、高カルシウム血症のリスクが高い。重複処方がなくても、マグネシウム製剤やサイアザイド系利尿薬などが併用されたり、患者自身がカルシウムやビタミンDのサプリメントを摂取している場合、高カルシウム血症のリスクを高める。

 高カルシウム血症は、放置すれば不整脈を誘発し、生命に関わり得る。しかし、その症状は倦怠感やイライラなど非特異的なものが多く見分けにくい。金原氏は患者自身が自覚しやすい症状として、「頭痛や吐き気、普段と違って何かがおかしい」などを例示し、活性型ビタミンD3製剤を服用中に、そのような症状を呈した際は、高カルシウム血症の可能性も考え、医療機関を受診して血液検査を受けるようアドバイスしている。

 田中氏は、院内で投与される注射剤に対しても、薬剤師は目を光らせてほしいと要望する。院内で投与された注射剤の情報はお薬手帳に記載されないことが多く、複数の医療機関で注射剤を重複投与されていても気付きにくい。実際田中氏は、デノスマブに加え、月1回静注のビスホスホネート製剤であるボンビバが投与されていた症例を経験しているという。

 「骨粗鬆症の治療を受けていることが分かったら注射剤の投与を受けていないかを定期的に確認し、注射剤で治療されているという患者では、どのような薬剤が投与されているかをきちんと把握してほしい」と、田中氏は強く求める。

未治療患者に声掛けを

 遺伝的素因、生活習慣、閉経、加齢以外の特定の原因で、骨密度が低下した場合は続発性骨粗鬆症と称される。続発性骨粗鬆症を生じる原因としては、表4のような原因がある。

表4 続発性骨粗鬆症の原因

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 糖尿病が骨質を低下させることは有名だが、慢性腎臓病(CKD)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)も骨粗鬆症リスクとなることが明らかになっている。鳥取大の萩野氏は、「これらの基礎疾患を有する65歳以上の患者に接する薬剤師は、ぜひ患者に骨粗鬆症のリスクを伝え、骨密度の検査を受けるよう勧めてほしい」と言う。

 経口ステロイドに関しては、14年に改訂された日本骨粗鬆症学会の「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン」で、「経口ステロイドを3カ月以上使用中あるいは使用予定の患者」では、既存骨折や年齢、ステロイド投与量などを評価すべきとされた。加えて、骨折の危険性が高い患者には骨粗鬆症治療の開始が推奨されている。

 続発性骨粗鬆症も、適切な治療で骨折リスクを下げることができる。これらの患者に日々接する薬剤師こそ、骨折高リスクの患者に検査と治療を勧めることができ、骨折予防に貢献できるのだ。

【栄養指導編】
カルシウム不足の解消指導も薬局で

 健ナビ薬樹薬局古市場の管理栄養士である小笠原舞美氏は、「骨の健康維持にカルシウムが不可欠であることは、ほとんどの患者が知っている」と話す。しかし、簡便にカルシウムの摂取量を評価するため、健ナビ薬樹薬局が独自に作成した「食生活チェック」(図5)を実施してみると、十分量のカルシウムを摂取できている患者は、まずいないのが現状という。同様の結果は、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」でも示されている。現在、日本人女性はどの年代でも、カルシウムの必要摂取量、ビタミンDの推奨摂取量を取れていない。

図5 健ナビ薬樹薬局が患者の栄養指導に用いている「食生活チェック」

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 カルシウム源といえば牛乳や乳製品をイメージしがちだが、一律に乳製品を薦めるのではなく、バランスの良い食事を心掛けるよう指導したい(表5)。ケイ薬局(東京都台東区)薬剤師の宮原富士子氏は、「牛乳が苦手な患者は少なくない。カルシウムを多く含む別の食品を具体的に教えると効果がある」と話す。まずは、栄養指導をする前に、個々の患者で栄養摂取の状況を評価し、患者ごとに適したプランを立てるべきだという。さらに骨折予防には骨だけに注意するのではなく、筋力維持も念頭に蛋白質を十分取るよう指導することも大切という。

表5 骨粗鬆症患者に摂取が推奨される食品、過剰摂取を避けた方がよい食品」

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 健ナビ薬樹薬局では、バランスの良い食事を心掛けてもらうため、「牛乳・乳製品」「大豆製品」「小魚・その他」「カルシウムの多い野菜など」の4群に分けて摂取状況を調査し、4群の食材をバランス良く摂取するよう指導している。さらに、入れ歯でも食べやすい、火を使わずに短時間で調理できるなど、高齢患者のニーズに沿うレシピを紹介する。

健ナビ薬樹薬局古市場で管理薬剤師を務める金原知祥氏(左)と、同薬局の管理栄養士、小笠原舞美氏。

 この7月に改訂された『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』には、「サプリメント、カルシウム薬として1回に500mg以上を摂取しないように注意」と記載された。これは、心血管疾患のリスクが高まるとの指摘を受けたものだ。

 「サプリメントは過剰摂取などで健康被害を生じ得る。必要な栄養素は食事で取る努力をしてもらい、どうしても足りない部分のみサプリメントで補足するよう説明している」と、健ナビ薬樹薬局の金原氏。

 サプリメントに頼らず、バランスの良い食事を具体的に指導することが栄養指導の大原則といえそうだ。

【運動指導編】
筋力アップにロコトレを薦めよう

 ガイドラインは、栄養に加えて運動の重要性を指摘する。適切な運動は、骨密度を高めるだけでなく、筋力も増やすので転倒予防効果がある。その一方で、不適切な運動は転倒につながりやすく、骨折を生じる危険性があるので要注意だ。

 鳥取大の萩野氏は、骨折リスクの高い患者には、コモティブシンドローム(ロコモ)予防に推奨される運動(ロコトレ)を薦めるとよいと話す。ロコモとは、運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態を指す。筋肉を鍛える効果があるロコトレには、要介護予防の効果があるとされ、片脚立ちとスクワットが主に推奨されている(図6)。

図6 ロコモティブシンドローム予防に推奨される運動(ロコトレ)

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 健ナビ薬樹薬局では、患者の状況を確認した上で、このロコトレをアレンジして指導している。「何もつかまずに片脚立ちできる患者はほとんどいないので、安定感のある物につかまった状態での片脚立ちを指導している」と金原氏。スクワットとしては、手を腰に当てて椅子から立ち上がる方法を教えているが、手を付かないと立ち上がれない患者には、無理せず机に手を付いた状態でスクワットするよう教えている。金原氏らは、薬樹の理学療法士の指導を受けた上で、自らが実演しながら患者に説明する。患者が嫌がらなければ患者にも薬局内でやってもらう。「ロコトレを実践中の患者から、『脚に筋肉が付いた気がする』とうれしそうに報告を受けることもある」と小笠原氏。

 宮原氏も、帝京平成大学健康メディカル学部教授の渡會公治氏とともに、ロコモ予防に力を入れている。「骨だけを強くしても筋肉が減少すれば転んでしまう。転倒しないために筋力を付けるよう指導することも薬局の役割」と、宮原氏は話す。

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