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特集:骨粗鬆症マネジメント
最新ガイドラインをひも解く 骨粗鬆症の新常識
日経DI2015年9月号

2015/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年9月号 No.215

 『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』(ライフサイエンス出版、2015)が今年7月に発行された。これは、日本骨粗鬆症学会、日本骨代謝学会、骨粗鬆症財団が合同で組織した「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会」によるもので、3年ぶりの改訂となる。

診断基準がシンプルに

 今回の改訂では、他疾患を除外した上で、「大腿骨近位部もしくは椎体における脆弱性骨折があれば、骨粗鬆症と診断できる」とされた(表1)。さらに、これらの部位で骨折を認める患者は、即、骨粗鬆症の薬物治療を開始すべきであることも明記された(図1)。これは12年改訂の「原発性骨粗鬆症の診断基準」を反映したもの。

表1 原発性骨粗鬆症の診断基準

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図1 原発性骨粗鬆症に対する薬物治療の開始基準

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 「骨密度をまず測定し、脆弱性骨折の有無などを検討した上で骨粗鬆症を診断するとしていた、これまでの診断基準に比べてシンプルなものとなった」と、ガイドライン作成委員会事務局長を務めた健康院クリニック(東京都中央区)副院長の細井孝之氏は説明する。

健康院クリニックの細井孝之氏は、「骨粗鬆症治療の第1目標は骨折予防」と語る。

 診断基準が簡略化されたことで、骨粗鬆症治療対象者が増えることも期待される。「現在、骨粗鬆症患者は1300万人と推定されているが、治療を受けているのはその2割程度」と鳥取大学医学部保健学科教授の萩野浩氏。骨密度測定装置を持たない診療所でも、新たな診断基準に沿えば、骨粗鬆症を診断し、薬物治療を開始できる。今回の改訂は潜在患者の拾い上げにつながることが期待されている。薬局でも、骨粗鬆症治療薬の処方箋を応需する機会がより増えそうだ。

骨密度よりも骨折で評価

 骨がスカスカとなる骨粗鬆症では、骨密度がその診断で重要と考えられがちだが、治療開始基準は骨密度よりも既存骨折の有無で評価される。これは、骨折リスク評価には、既存骨折が最もよい因子と考えられていることによる。

 骨折しやすさは骨強度で決まるが、骨強度イコール骨密度ではなく、骨密度が7割、残りの3割は骨質が影響する。ある程度の骨密度を維持している患者であっても、骨質が低下すれば骨折するというわけだ。骨密度測定装置は実用化されているが、骨質を評価できる装置はまだ存在せず、現在、活用し得る最も精度の高い指標は、骨折の既往となっている。

治療目標は骨折予防

 「骨粗鬆症は『骨折の危険性が増大する疾患』であり、骨粗鬆症診療の第1目標は骨折予防」と細井氏は強調する。一度、骨折したことのある患者は再度骨折しやすい。そのような患者に適切に介入し2度目の骨折を防ぐこと、加えて、骨折の危険性が増大した患者を拾い上げ、骨折予防のための介入を行い、できるだけ長く骨折を予防すること─これが骨粗鬆症診療のターゲットとなっている。

 骨密度低下における最大のリスク因子は加齢だ。「一般的に、骨密度は10年で約1割低下する」と細井氏は説明する。骨密度が加齢とともに低下するとなると、骨粗鬆症は“克服できない疾患”と考えがちではないだろうか。

 しかし、これは誤解だ。骨粗鬆症はマネジメントし得る疾患であり、既に海外では、ビスホスホネート製剤を中心とした薬物療法の普及と反比例する形で、骨折発生率が低下している(図2)。「日本国内でも骨折発生率は低下の兆しを見せ始めている」と細井氏は話す。

図2 オーストラリアにおける大腿骨近位部骨折発生率と薬剤の処方動向

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 ただし現在、骨粗鬆症の有病率が高い60代以降の年代には健康に気を使う活動的な人が多い。この年代に比べて、30代などの若年世代では基礎体力が低下し、また、カルシウムの摂取不足も深刻だ。今後、国内で骨粗鬆症による骨折が減るかどうかは、若年世代への啓発も含めた、長期的な視野に立った対策が不可欠と考えられている。

リスクに合わせて薬を選択

 現在、骨粗鬆症の薬物治療に用いられる薬剤は、活性型ビタミンD3製剤、ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、副甲状腺ホルモン(PTH)、抗RANKLモノクローナル抗体など、作用機序の異なる薬剤が複数存在する。

 今回改訂されたガイドラインには、「2011年版では触れなかった、イバンドロン酸、テリパラチド、デノスマブ3剤の有効性評価が加わった」と細井氏は説明する(表2)。

表2 骨粗鬆症治療薬の有効性評価

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 イバンドロン酸ナトリウム水和物(商品名ボンビバ)は、月1回の「静脈内ボーラス投与」型のビスホスホネート製剤だ。ボンビバ以外にも注射型のビスホスホネート製剤は存在するが、点滴静注製剤であることから投与に30分程度掛かる。これに対し、ボンビバの投与はワンショットで終わるため、患者だけでなく医療機関にもメリットがあり、処方が増えている。

 テリパラチドは、骨芽細胞前駆細胞の増殖と分化の促進などを介して骨形成を促進する。1日1回皮下注製剤であるフォルテオ(遺伝子組換え)と、週1回皮下注製剤のテリボンがある。フォルテオは24カ月、テリボンは72週の投与期間制限が存在する。

 抗RANKLモノクローナル抗体デノスマブ(遺伝子組換え)(プラリア)は、6カ月に1度皮下投与する薬剤。投与は院内で行われるが、低カルシウム血症の副作用を回避するため、カルシウム・天然型ビタミンD3・マグネシウム配合剤のデノタスチュアブル配合錠が院外処方されることが多い。低カルシウム血症は症状が多彩で見分けにくく、放置すれば死亡リスクもある。デノタスを毎日きちんと飲むよう指導し、服用状況もフォローしたい。

 骨粗鬆症診療におけるキードラッグはビスホスホネート製剤だが、「骨粗鬆症診療は数十年の長期戦。“持ち玉”である薬剤をうまく使って、骨折を予防し続けなくてはならない」と細井氏は語る。そのためには、患者の年齢や骨密度、併存疾患など、骨折リスクに合わせて薬剤を選択する必要があると説明する。薬剤選択でポイントとなるのが、どの部位の骨折を最も防ぎたいかだ。

 基本的に年齢によって骨折しやすい部位が異なる。椎体骨折のリスクがある50代~60代の患者には、SERM、活性型ビタミンD3製剤を、大腿骨の骨折リスクが生じる70代からは、大腿骨の骨折抑制効果が示されているビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体を選択する。ただし、70歳未満でSERMを使用していても骨密度が下がったり、新規骨折を生じる患者には、ビスホスホネート製剤など別の薬剤への切り替えを検討する。

 椎体骨折があり、骨密度がー3標準偏差(SD)と低い患者では、骨密度を増やす必要があるので、年齢によらず、テリパラチドを使うこともあるという。また、ビスホスホネート製剤を服用中にもかかわらず、新規骨折や骨の変形が生じた際は、骨折リスクがより高まったと考え、テリパラチドやデノスマブに切り替えると、細井氏は説明する。

ビスホは5年で休薬?

 キードラッグとされるビスホスホネート製剤について、副作用である非定型骨折のリスク上昇を理由に、「5年をめどに休薬すべき」という考えが広まりつつあるが、細井氏、萩野氏ともに、「それは誤解」と断言する。

「骨折リスクを評価せず、『ビスホスホネート製剤は一律5年で休薬』というのはあり得ない」と語る、鳥取大の萩野浩氏。

 「治療により骨折リスクが低下すれば休薬も選択肢となるが、骨折リスクを評価しないで、一律に休薬というのはあり得ない」と萩野氏。細井氏も、「骨密度がよほど大きく改善しない限り、5年を超えてもビスホスホネート製剤による治療を続けるべき」と語る。さらに、5年間の治療期間中に新規骨折が生じなければ、骨折リスクは下がったと考えられなくもないが、「大腿骨近位部や椎体の脆弱性骨折があるだけで薬物治療の対象となることを考えると、休薬していいとは言い切れない」と語る。一方、新規骨折を生じている患者は骨折リスクが高いので休薬すべきではないとの考えだ。

 ビスホスホネート製剤を休薬することで得られる非定型骨折回避のメリットと、休薬することで生じる脆弱性骨折のリスク。この2者を個々の患者で評価した上で、治療継続か休薬かを決める必要があることを薬剤師も知っておきたい。

 今年6月、日経メディカルonlineの医師会員を対象に、最も処方頻度が高いビスホスホネート製剤を聞いたところ、半数以上(58.4%)がアレンドロン酸ナトリウム水和物(フォサマック、ボナロン他)と回答した。これは、下の囲み記事内図Aで示す、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度の対象病院(DPC病院)における処方頻度とも合致する内容だ。ちなみに、2位はリセドロン酸ナトリウム水和物(アクトネル、ベネット他)22.6%、3位はミノドロン酸水和物(ボノテオ、リカルボン)の12.2%だった(アンケート実施期間は15年6月18~24日、有効回答数2675人)。

DPC病院で処方数が多いのは活性型ビタミンD3製剤
エルデカルシトールの処方が急増中!

 DPC病院80施設における骨粗鬆症治療薬の処方動向を調べたところ、一番人気は活性型ビタミンD3製剤のアルファカルシドールだった。アレンドロン酸よりも多く処方されていた。2011年に承認されたエルデカルシトール(エディロール)の処方が急増していることも分かった。

 エルデカルシトールは、骨密度を高め、椎体骨折を抑制する効果が認められている。ただし、高カルシウム血症のリスクから、血液検査を定期的(3~6カ月に1回程度)に実施すべきとされる。しかし、「血液検査をせずに、これまで処方していた活性型ビタミンD3製剤の延長上でエルデカルシトールを処方する医師が存在するようだ」と指摘する専門家がいる。エルデカルシトール服用患者では、血液検査が定期的に行われているか、高カルシウム血症を疑う症状を呈していないかなど、薬剤師として目を光らせたい。

図A 骨粗鬆症患者に対する処方動向

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 アレンドロン酸、リセドロン酸ともに、骨密度を高め、椎体、非椎体に加えて、大腿骨近位部の骨折予防効果が示されている。両者は、骨への親和性に差があり、アレンドロン酸に比べて親和性が低いリセドロン酸は骨に蓄積しにくく、休薬の効果が出やすい薬剤と推測される。ただし細井氏は、「親和性に差があるのは確かだが、臨床的な意義に差があるというデータはない」と言う。

 調査に回答した医師からは、アレンドロン酸を処方する理由として、「錠剤、ゼリー製剤、注射剤などの剤形がそろっており、患者のニーズに対応した処方が可能」(50代病院勤務医)という声が上がった。ただし、「月1回の経口製剤がないのは欠点」(60代病院勤務医)との評価もあった。一方、リセドロン酸については、「1日1回、週1回、月1回の経口製剤があり、服薬アドヒアランスに応じた使い分けが可能」(50代診療所勤務医)というように、月1回の経口薬を評価する声が目立っていた。

骨代謝マーカーで薬効評価

 今年改訂されたガイドラインでは初めて、「薬物による治療の効果は、骨代謝マーカーの変化により評価可能」とされ、図3のフローチャートによる薬効評価が推奨された。すなわち、治療開始前に骨代謝マーカーを測定し、投与開始3~6カ月後に再度、マーカーを測定して、最小有意変化(MSC)を超える変化がある場合に、「効果あり」と判定する。MSCは、日内変動幅の平均値を2倍したもので、これを超えた場合に有意な変化と評価する。

図3 骨代謝マーカーを用いた治療効果判定のフローチャート

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 骨代謝マーカーは、骨吸収マーカーと骨形成マーカー、骨マトリックス関連マーカーの3種類に分けられ、それぞれに基準値とMSCが定められている(表3)。現場では、MSCよりも基準値を目安に活用している場合が多いようだ。

表3 原発性骨粗鬆症診療で保険収載されている骨代謝マーカー

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 骨代謝マーカーを用いれば、骨量がどのように減っているかも分かる。骨吸収と骨形成のバランスが崩れることで骨量は減少するが、骨量減少には2つのパターンが存在する。1つは、骨吸収、骨形成とも増加するが骨吸収の方が上回ることから骨量が減る「高回転型骨粗鬆症」。もう1つは、骨吸収、骨形成とも減少するが、相対的に骨吸収が勝ることで骨量が減少する「低回転型骨粗鬆症」。前者には骨吸収を抑制する薬剤が選択されるが、後者に骨吸収を抑制する薬剤を選択すると、骨吸収抑制が過多となり、非定型骨折などの副作用リスクが高まる可能性が指摘されている。

 「特に、薬価が高い薬剤を使用する際は、薬効を判定した上で治療継続の有無を決める医師が増えている」と、北陸大学薬学部生命薬学講座教授の三浦雅一氏は説明する。日本骨粗鬆症学会の会員を対象とした調査で、「骨代謝マーカーを日常診療に活用している」という医師は7~8割だったと同氏。このように活用が進む骨代謝マーカーだが、日内変動しやすく、生体内のホルモンや運動、食事、薬剤、糖代謝などの影響も受けやすい。個人差も大きく、尿中マーカーは、腎機能の影響を受けるという特徴がある。

北陸大学の三浦雅一氏は、「薬剤師も骨代謝マーカーを理解し、患者に説明できるようになってほしい」と要望する。

 今後、薬局でも患者から検査結果について、相談される機会は増えるだろう。「骨粗鬆症治療薬を調剤する薬剤師は皆、骨代謝マーカーを理解し、患者の質問に答えられるよう勉強してほしい」と、三浦氏は要望する。

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