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Report
COPD治療は配合剤の時代に
日経DI2015年9月号

2015/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年9月号 No.215

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は以前、肺気腫と慢性気管支炎という2つの病名に分けられていた。現在は、肺気腫病変と末梢気道病変が様々な割合で組み合わさっているとされている。

 気流閉塞がある(息を素早く吐き出せない)と息切れを起こしやすいので、身体活動性が低下しADL(日常生活動作)も低くなる。そのため、「身体活動性の低い理由がCOPDによる気流閉塞であれば、それを取り除いてADLを改善させることが大事だろう」と、藤沢市民病院(神奈川県)呼吸器科部長の西川正憲氏は語る。呼吸機能の維持には、増悪を防ぐことも重要となる。増悪回数が多いほど生存率は下がることや、増悪は呼吸機能を低下させ、その繰り返しが疾患進行を早めることが分かっているからだ。すなわち、治療により増悪を減らせれば、呼吸機能や予後の改善が期待できる。

藤沢市民病院の西川正憲氏は、「気管支拡張薬の配合剤を使った患者の中には、翌日に効果を感じる人もいる」と話す。

気管支拡張薬は単剤から

 薬物療法について、日本呼吸器学会が2013年6月に発行した『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版』では、安定期の第一選択薬として気管支拡張薬の長時間作用性抗コリン薬(LAMA)あるいは長時間作用性β2刺激薬(LABA)を提示。まずはLAMAあるいはLABAの単剤を投与し、症状の改善が不十分な場合に併用を勧めている(図1)。これは、COPDによる気流閉塞に対しては早急な改善を目指すより、副作用に注意しつつ1剤ずつ効果を確認しながら追加していった方が治療の失敗が少ないとの考えに基づく。ただ、ガイドラインの責任編集委員の1人だった東北大学医学部呼吸器内科学教授の一ノ瀬正和氏は「2週間くらい様子を見て症状の改善が十分でなければ、併用に切り替えても差し支えない」と解説する。

図1 安定期COPDに対する管理アルゴリズム
(出典:『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版』)

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LAMA:長時間作用性抗コリン薬、LABA:長時間作用性β2刺激薬、+:加えて行う治療

東北大の一ノ瀬正和氏は「2週間程度の単剤投与で症状の改善が十分でなければ、併用に切り替えてもよい」と助言する。

 しかし併用する場合、2種類の吸入薬の使用となりアドヒアランスの低下につながりやすいことから、配合剤が求められるようになった。これらの配合剤として、グリコピロニウム臭化物・インダカテロールマレイン酸塩配合剤(商品名ウルティブロ)とウメクリジニウム臭化物・ビランテロールトリフェニル酢酸塩配合剤(アノーロ)がそれぞれ2013年11月、14年9月に発売された。また、チオトロピウム臭化物水和物・オロダテロール塩酸塩配合剤(スピオルト)が15年8月に承認を了承されており、まもなく薬価収載される見込みだ(写真1)。さらに、アクリジニウム臭化物・ホルモテロールフマル酸塩水和物配合剤は第3相試験の段階で、LAMA・LABA配合剤としてやがて4剤がそろうとみられる(表1)。

表1 わが国で発売済みまたは開発中の主なLAMA・LABA配合剤(8月28日現在、編集部作成)

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患者が配合剤の効果を実感

 治療効果については、併用の方が単剤より有効であることが示されている。例えば、グリコピロニウム・インダカテロール配合剤の有効性を、グリコピロニウム単剤(シーブリ)、インダカテロール単剤(オンブレス)、LAMAのチオトロピウム(スピリーバ)、プラセボと比較したSHINE試験で、配合剤はそれぞれの単剤に比べ呼吸機能を有意に改善していた(図2)。一ノ瀬氏は「LAMAもLABAも単剤では、1秒量(1秒間に吐き出せる量:FEV1)がプラセボに比べて約100~150mL増加するので、併用による追加効果は50mLくらいだと予想していた。ところが実際には、それ以上の改善効果が認められた」と解説する。

図2 グリコピロニウム・インダカテロール配合剤の効果(SHINE試験)

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気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)であるトラフFEV1を治療開始26週後に比較したところ、グリコピロニウム・インダカテロール配合剤群は各単剤群よりも有意に改善していた(主要評価項目)。また、チオトロピウム群、プラセボ群に対しても有意な改善効果が認められた。ベースラインのFEV1はいずれの群も1.3Lだった。(Eur Respir J.2013;42;1484-94.を一部改変)

 2剤を併用するよりも配合剤の方が、効果をより実感できる患者が少なからずいる。西川氏は、「別々に吸入していた患者十数人で配合剤に変更したところ、全員が『体が軽くなった』とか『動きやすくなった』との印象を述べていた」と語る。その理由については、吸入が1回で済むという利便性の高さや、2剤が同時に気道内に到達することが影響しているのではないかとみている。さらに、「単剤だと効果が表れるのに数日掛かっていたが、配合剤だと翌日には効果を感じているようだ」と付け加える。実際、投与翌日に息切れを自覚しなくなった患者もいるという(症例)。

症例 グリコピロニウム・インダカテロール配合剤が有効だった70歳男性(西川氏による)

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投与翌日には息切れを自覚しなくなり、投与10日目にオシレーション法(安静時呼吸で呼吸機能を調べる検査法)でも明らかな改善が認められた。

 現状でLAMAかLABAの単剤投与により症状の改善が認められている患者でも、配合剤に積極的に切り替える動きも出てきている。呼吸機能や症状のさらなる改善が期待できる上、配合剤であればデバイスは1つなので吸入アドヒアランスが低下する恐れも少ないからだ。「吸入薬を使っているCOPD患者で症状の改善が不十分であることが疑われたら、担当医に伝えるか、患者に医師に話すよう指導してほしい」と一ノ瀬氏は語る。

β遮断薬との併用も可能

 副作用に関しては、配合剤でも単剤のときと同様の注意が必要だ。LAMAの場合、前立腺肥大などによる排尿障害のある患者には禁忌だが、ガイドラインは「前立腺肥大症の患者ではまれに排尿困難症状が悪化する副作用があるが、薬剤の使用を中止すれば速やかに症状改善が得られる」と記載している。

 従って服薬指導の際、前立腺肥大症患者には排尿困難症状が出る可能性があること、それは服用をやめればすぐに改善することなどを説明する必要があるだろう。実際、西川氏は「夜間にトイレに行く回数が1回増えるケースが多いようだ。トイレの回数が増えても昼間の呼吸困難感がなくなる方がいいと考える患者もいるので、本人の希望を踏まえて判断している」と言う。

 また、以前は緑内障の患者には禁忌とされていたが、現在は閉塞隅角緑内障(日本では全緑内障の1割強とされる)に限定されていることに留意しておく。

 一方、LABAについては、「β2選択性が高いので、副作用を過剰に心配する必要はない」との見解を一ノ瀬氏は示す。高齢患者は心疾患などによりβ遮断薬を服用している場合が少なくないが、「β遮断薬の吸入に伴うFEV1の低下は10mLくらい、すなわちLABA単剤による拡張効果の減弱はせいぜい1割程度なので、β遮断薬とLABAは併用して差し支えない」と付け加える。

咳き込めば吸入できている

 配合剤に限った話ではないが、吸入薬の場合、吸入指導が鍵を握る。適切に服薬できるよう最初に丁寧に指導するだけでなく、処方後もきちんと吸入できているかを定期的に確認する必要がある。西川氏は、初回処方時に実物を見せて吸入デバイスの使い方を説明し、操作できそうかは確認しているが、診療時間は限られているため、実際に吸入してもらうところまでは実践できていないという。そこで、処方箋に「吸入指導をお願いします」と記載し、患者に「薬局で薬剤師の説明をよく聞いてください」と伝えている。

 2回目の診察時には、実際に吸入したときの状況を尋ねてみて、「吸入すると咳き込む」と答えた患者には、咳き込むのはきちんと気道内に薬が入っている証である旨を伝える。さらに、我慢できる範囲内であれば吸入を継続するメリットを説明する。また、残薬がある場合は、吸入しなかった理由を必ず尋ねるという。

 もしデバイス操作に問題がなさそうなのにもかかわらず効果が見られないときは、「一見吸ってはいるけれども、薬剤が口までしか入っておらず気道内まで届いていない可能性がある」と西川氏は指摘する。これは、吸入しているものの、口の中に入れれば効くと患者が誤解しているためだとみている。西川氏は、「薬局でも同様の確認をぜひ行ってほしい」と語る。

気流閉塞はCOPD患者の予後を悪化させる

 COPDは早期発見、早期治療が重要とされる。これまでの介入試験のデータを病期別に見ると、II期(中等症)、III期(重症)、IV期(最重症)のうち、II期が最もFEV1の減少が速い。また、山形大学附属病院第一内科・病院教授の柴田陽光氏が、40歳以上の一般住民を対象に行った高畠研究では、I期(軽症)に相当する気流閉塞を持つ人が最も減少していた。つまり、軽症、中等症の方が重症よりも呼吸機能は低下しやすい。一方、チオトロピウムとプラセボを比較したUPLIFT試験では、主要評価項目だったFEV1の年間低下率に有意差は認められなかった。しかし、中等症の患者に限定するとチオトロピウムがFEV1の低下を有意に抑制していた。すなわち、治療効果は早期の方が得られやすいと考えられるわけだ。

山形大の柴田陽光氏は、「早めに気流閉塞がある人を見つけ、早期に治療する必要がある」と訴える。

 高畠研究では、気流閉塞が強いほど生存率は下がっていた(図A)。さらにCox比例ハザード解析によれば、全死亡の独立した危険因子は年齢、性別、%1秒量(=1秒量÷予測1秒量×100)の3つで、BMI、ブリンクマン指数(喫煙量)、収縮期血圧、ALT、血清クレアチニン、HbA1c、トリグリセリド、総コレステロールはいずれも有意な因子ではなかった。

 気流閉塞の程度を年代別に見たところ、中等症相当の人は40代だと少ないが50代になると大きく増えていた。重症相当の人も50代は少ないものの60代になると増えていたため、柴田氏は「若年で気流閉塞がある人を見つけて早期に治療する必要がある。動くとすぐに息切れしたり、カゼでもないのに咳や痰が出るような患者を薬局で見かけたら、一度受診するよう勧めてほしい」と強調する。

図A 気流閉塞の重症度別に見た生存率のカプラン・マイヤー曲線(高畠研究)

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% 1秒量=1秒量÷予測1秒量×100(予測1秒量は年齢、身長、性別を基に算出)
(出典:PLoS One.2013;8:e83725.)

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