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徹底マスター 薬の相互作用としくみ
カルニチン欠乏症を引き起こす薬剤と相互作用
日経DI2015年9月号

2015/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年9月号 No.215

 カルニチン(3-hydroxy-4-N-trimethyl aminobutyric acid)は、リジンがメチル化されたアミノ酸誘導体で、脂肪酸をエネルギーとして利用するために必須の栄養素である。ヒトでは主に肝臓と腎臓において、リジンとメチオニンから合成される。生合成量は推定10~20mg/日で、生合成の際にはビタミンC、B6、ナイアシン、鉄などを必要とする。また、カルニチンは牛や豚の赤身肉、鶏肉、魚肉、乳製品などの動物性食品の摂取によっても補われる。

 通常、生体機能の維持に必要なカルニチンは体内で合成される上、カルニチン合成に必要な必須アミノ酸や微量元素は、バランスの取れた食事で十分摂取できるため、欠乏症は起こりにくい。しかし、摂取不足(厳格な菜食主義者など)、合成低下(肝・腎機能障害)、先天的代謝異常(プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症、脂肪酸代謝異常症、カルニチントランスポーター[OCTN2]の遺伝子異常など)、血液透析や薬剤により、カルニチン欠乏症を発症することが知られている。

 カルニチン欠乏症は、筋肉症状(筋肉痛、ミオパチー、筋肉壊死など)、低血糖、脂肪肝などの脂肪蓄積、脳症、高アンモニア血症(肝性脳症)、心筋症・心不全などを引き起こす。重篤な欠乏症では不可逆的な脳・臓器障害を来すことが多く、低血糖による昏睡などで死に至ることもある。一方で、欠乏症に対するレボカルニチン塩化物(商品名エルカルチン他)の有効性が示されている。そのため、カルニチン欠乏症を引き起こす薬剤を把握し、早期発見・治療を行うことが極めて重要である。

カルニチンの生理作用

 カルニチンは、長鎖脂肪酸をミトコンドリア内に輸送するために必須の物質である(図1)。細胞質に存在するアシルCoA(活性型脂肪酸)はミトコンドリア内膜を通過できないが、カルニチン存在下でアシルカルニチンに変換され、ミトコンドリア内膜を通過する。その後、アシルカルニチンはマトリックスでアシルCoAに再変換されてβ酸化が始まり、ATPやNADH2が生成される。従って、カルニチンが欠乏すると脂肪酸からのエネルギー(ATP)やNADH2供給が滞り、中性脂肪の蓄積、糖新生の抑制、尿素サイクルの抑制、筋肉障害などを引き起こす。

図1 生体内でのカルニチン動態の模式図(筆者まとめ)

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 そのほか、カルニチンには、ミトコンドリア内の過剰な脂肪酸(アシルCoA)をアシルカルニチンとして細胞外に排泄する働きもある。アシルCoAは高濃度になるとミトコンドリア内膜の構造や機能に悪影響を及ぼすことから、カルニチンはミトコンドリア機能を保護しているといえる。また、この反応により遊離CoAが生じるため、カルニチンはミトコンドリア内の遊離CoA/アシルCoA比を調節する役割も担っている。なお、カルニチンには赤血球を安定化する作用もあるため、カルニチンが不足すると、赤血球の破壊が亢進し腎性貧血を来すことがある。透析患者の腎性貧血や筋肉障害には、腎機能低下や透析、蛋白質摂取制限などによるカルニチン不足が関係すると考えられる。

カルニチンの体内動態

 カルニチンは、血液を介して各組織に到達、取り込まれる。生体の全ての細胞に存在しているが、体内総量(約20g)の98%は筋肉組織(骨格筋、心筋)に、残りは主に腎臓と肝臓(1.6%)、細胞外液(0.6%)に分布している。

 余剰なカルニチンは主に腎臓から尿中へと排泄されるが、腎尿細管で再吸収が行われ、体内量が調節されている。なお、カルニチン、アセチルカルニチンは腎で再吸収されるが、アシルカルニチンや、バルプロ酸およびピバリン酸のカルニチン抱合体は再吸収されにくいことが知られている。

 カルニチンの消化管吸収、血液から細胞への取り込み(分布)、腎臓での再吸収は、主に細胞膜に存在するNa依存的高親和性カルニチントランスポーターであるOCTN2(SLC22A5)を介して行われる。OCTN2は、カルニチン、アセチルカルニチンやカルニチン分子構造類似物質を特異的に認識する1)。OCTN2遺伝子欠損マウスでは、心筋症、脂肪肝、筋力低下、高アンモニア血症、低血糖などのカルニチン欠乏症が表れる。ヒトにおいても、OCTN2遺伝子異常を有する患者は、全身性(一次性)カルニチン欠乏症を起こすことが報告されている2)

欠乏症を誘発する薬剤

 カルニチン欠乏症を引き起こす薬剤は、【A】カルニチン生合成阻害薬、【B】カルニチンと抱合(結合)して尿中に排泄される薬剤、【C】OCTN2阻害薬、【D】ミトコンドリア内遊離CoAや遊離CoA/アシルCoA比を減少させる薬剤─に分類できる(表1)。これらの薬剤の併用はカルニチン欠乏症の発症リスクを高めるほか、スタチン系薬や経口糖尿病薬と併用すると、筋肉障害や低血糖などが発症しやすくなる(表2)。

表1 カルニチン欠乏症を引き起こし得る主な薬剤

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表2 カルニチン欠乏症を引き起こす相互作用

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 枝分かれ脂肪酸であるバルプロ酸は、様々な発現機序によりカルニチン欠乏症を引き起こす。まず、バルプロ酸はカルニチン生合成酵素であるブチロベタイン水酸化酵素の阻害薬である。また、カルニチン抱合を受けたバルプロイルカルニチンは、ミトコンドリア内膜を通過し、尿中に排泄され、OCTN2阻害効果も示す。バルプロイルカルニチンは再吸収されにくく、過剰に尿中に排泄されるとカルニチンが欠乏する。さらに、バルプロ酸の代謝物がミトコンドリア内のCoAと結合して遊離CoAを減少させることも報告されている。

 また、カルニチンが欠乏すると、バルプロ酸の代謝はβ酸化からω酸化にシフトする。ω酸化による4-en-バルプロ酸(肝毒性誘発作用)やプロピオン酸(肝尿素サイクル阻害作用)の生成も、高アンモニア血症や肝障害の発症を助長すると考えられる。バルプロ酸の長期投与時や高用量投与時のほか、カルニチン欠乏症を起こし得る薬剤との併用時には、欠乏症の発症に注意すべきである(ケース1)。

 一方、ピボキシル基を有する抗菌薬では、重篤な低カルニチン血症に伴う低血糖、痙攣、脳症などを発症したケースが乳幼児を中心に報告されている。吸収後、代謝によってピボキシル基から生じたピバリン酸はカルニチン抱合を受けてピバロイルカルニチンとなり、尿中へ排泄されるが、腎で再吸収されにくいため、結果的にカルニチン排泄が増加し、血漿・細胞中のカルニチンの減少を引き起こす。特に長期投与、小児投与で発症しやすい3)とされるが、投与翌日~14日未満の発症例もある。

OCTN2を阻害する薬剤

 OCTN2を阻害する薬剤はカルニチンの輸送を特異的に阻害し、カルニチンの欠乏を引き起こす可能性がある。

 シスプラチン(アイエーコール、ブリプラチン、ランダ他)、ドキソルビシン(アドリアシン、ドキシル他)、シクロホスファミド水和物(エンドキサン)、イホスファミド(イホマイド)などはOCTN2の遺伝子発現を抑制する。シスプラチンの腎毒性4)、肝毒性5)、心毒性6)、ドキソルビシンの心毒性、シクロホスファミドやイホスファミドの心毒性や腎毒性は、カルニチン欠乏により増強することも知られているため、投与中は尿・血漿中のカルニチン値に注意する。また、4級窒素を有するβラクタム系薬のセフェピム塩酸塩水和物(マキシピーム他)も阻害作用を示すことが報告されている。

 強いOCTN2阻害作用を持つ薬剤の中には、カルベジロール(アーチスト他)、シンバスタチン(リポバス他)、ラロキシフェン塩酸塩(エビスタ)、ベラパミル塩酸塩(ワソラン他)、オメプラゾール(オメプラゾン、オメプラール他)、エゼチミブ(ゼチーア)など、日常診療でよく使用される薬剤もあるため注意が必要である(ケース2、ケース3)。特にオメプラゾールは、競合阻害(Ki=14.6μM)およびジスルフィド結合(共有結合)を形成する非競合阻害(IC50=5.7μM、Ki=5.2μM)の2つの機序で、低濃度でも阻害効果が認められている。プロトンポンプの阻害様式もジスルフィド結合の形成であることから、他のプロトンポンプ阻害薬についてもOCTN2阻害に伴うカルニチン欠乏に留意すべきだろう。

 なお、厳格な菜食主義者では、カルニチンの生合成能や腎での再吸収が高まり、カルニチン欠乏状態に陥りにくいが、筋肉組織でのOCTN2発現が低下しており7)、カルニチン欠乏時には筋肉障害が起こりやすいとされる。

 相互作用を回避する対応例を示す。

ケース1:てんかんと高血圧があるAさんは、10年前からデパケン(一般名バルプロ酸ナトリウム)、数年前からアテレック(シルニジピン)を服用している。散歩やジョギングを取り入れ、肉をほとんど食べず野菜中心の食事を行っていたが、肥満はあまり改善しなかった。薬剤師は、来局のたびにバルプロ酸によるカルニチン欠乏症について説明し、筋肉障害(手足の突っ張り、筋肉痛、脱力感)、肝障害(吐き気、眠気、息切れ、引きつけ)、高アンモニア血症による意識障害に注意するとともに、定期的に血液検査を受けるよう指導していた。

 ある時、Aさんは薬剤師の聞き取りに対し、「週に数回、特に運動時に手足の突っ張りが見られるようになった」と話した。処方医からは、肥満と運動不足による筋力低下が原因と説明されていた。薬剤師は、バルプロ酸によるカルニチン欠乏が脂肪蓄積(体重増加)や筋肉障害に関与している可能性を考え、まずは赤身肉や鶏肉、魚肉や乳製品などのカルニチン含有食品を少なくとも週に2~3回は摂取するよう提案した。約1カ月後の来局時、Aさんは、筋肉障害が完全に消失したと話した。

 その後、Aさんには逆流性食道炎のためオメプラール(オメプラゾール)が追加された。OCTN2阻害効果を有するオメプラゾールの併用により、カルニチン欠乏症が発症しやすくなると考えられたため、薬剤師はこれまで以上に欠乏症状に注意するよう指導した。

ケース2:Bさんは脂質異常症のため3年前からリポバス(シンバスタチン)を、逆流性食道炎の維持療法のため1年前からオメプラール(オメプラゾール)を服用している。いずれもOCTN2阻害作用を有するが、特にスタチン系薬のシンバスタチンは、横紋筋融解症、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇を伴う筋肉痛(ミオパチー)などの筋肉障害を発症する恐れがあり、カルニチン欠乏を併発すれば筋肉障害が発症しやすくなると考えられる。薬剤師は筋肉症状に注意するよう指導している。

ケース3:Cさんは糖尿病と高血圧のため、数年前からアマリール(グリメピリド)とブロプレス(カンデサルタンシレキセチル)を服用していたが、今回、血圧上昇のため、α1β遮断薬のアーチスト(カルベジロール)が追加された。カンデサルタンなどのアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)はインスリン抵抗性改善作用を持つため、低血糖には常に注意するように指導していた。

 カルベジロールはOCTN2阻害作用を持つため、カルニチン欠乏により糖新生が抑制される恐れがある。また同薬のβ2遮断作用が糖新生やグリコーゲン分解を抑制するほか、β1遮断作用は低血糖に伴う頻脈をマスクする可能性もある。薬剤師は、カルベジロールの追加により低血糖のリスクが高まる恐れがあることを説明し、異常な空腹感や脱力感、発汗、手足の震え、眼のちらつきなどの症状が表れたら、直ちにブドウ糖を摂取し、受診するように伝えた。

参考文献
1)Drug Metab Dispos.2009;37:330-7.
2)Biopharm Drug Dispos.2013;34:29-44.
3)Tohoku J Exp Med.2010;221:309-13.
4)Chemotherapy.2004;50:162-70.
5)Basic Clin Pharmacol Toxicol.2007;100:145-50.
6)Pharmacol Res.2006;53:278-86.
7)Am J Clin Nutr.2011;94:938-44.

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