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特集 :降圧薬 その処方、どうして?
ACE阻害薬
日経DI2015年4月号

2015/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年4月号 No.210

 ACE阻害薬はARBよりも「降圧力に劣る」と評価されがちだ。その原因は承認時の用量設定の低さにある。しかし、最近はその実力が再評価され、少しずつ注目を浴びるようになってきた。

 実は、心血管イベントや生命予後改善効果のエビデンスは、ARBよりもACE阻害薬の方が明らかに優れる。

 図6は、ARBとACE阻害薬それぞれの冠動脈イベント抑制効果を調べたメタ解析の結果。ACE阻害薬はARBよりもオッズ比が一貫して低い。特に、対照群との血圧差が0でもACE阻害薬はオッズ比がマイナスになっている(約9%、有意差あり)が、ARBは逆にプラス(約8%)となっている。

図6 ARBとACE阻害薬の冠動脈リスク抑制効果

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中立的なメタ解析グループ「BPLTTC」によるARBとACE阻害薬の比較。ACE阻害薬は対照群との降圧差がゼロでもリスクを下げる(約9%)ことが示されている。各試験名は省略した。(J Hypertens.2007;25:951-8.)

 佐藤敦久氏は、「血圧差が0でもイベントを抑制するということは、つまり、ARBで繰り返し宣伝されてきた“降圧を超えた効果”を、実はACE阻害薬の方が持っていたことを端的に示している」と解説する。

 これ以外にも、ACE阻害薬がARBより優れるという報告は幾つもある(Eur Heart J.2012;33:2088-97.やJ Am Coll Cardiol.2013;61:131-42.など)。ACE阻害薬が再評価されつつあるのは、こうした発表が知られるようになってきたことが大きい。

 とはいえ、ACE阻害薬には咳の副作用と、配合薬がないという弱点がある。このため実際の臨床では、高血圧だけでなく心不全、CKDなどにも、ARBが多く用いられているのが現状だ。下の処方数ランキングを見ると、ACE阻害薬の処方数は、ARBと比べて大幅に少ないことが分かる。

ACE阻害薬の処方数ランキング

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(データ提供:メディカル・データ・ビジョン)

 比較的多いのは、エナラプリル、イミダプリル、ペリンドプリル辺り。エナラプリルは1日1回投与が可能な長時間作用型のACE阻害薬として初期に発売され、慢性心不全の適応もあるため、選ばれているものとみられる。

最大用量と持続時間で評価

 ACE阻害薬を選ぶポイントは、最大用量と効果持続時間だ。海外と同じだけの用量が使えれば、高い降圧効果や心保護効果が得られ、海外の優れたエビデンスも生きる。また持続期間が長ければ、降圧効果が持続し、心組織のACE活性も長く抑制できる。

 日本と海外の最大用量の違いを比較したものを表4に、持続期間の指標となるトラフ・ピーク(T/P)比を図7に示した。「総合的に判断すると、ペリンドプリルが優秀で、海外でのエビデンスも豊富なので、私は最も使っている。他にイミダプリル、トランドラプリルも比較的使う」と佐藤氏は説明する。

表4 ACE阻害薬の日本および海外の最大用量

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単位はmg。3種類が海外と同用量で使用できる。(佐藤敦久氏による)

図7 ACE阻害薬のT/P比

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ACE阻害薬のトラフピーク(T/P)比。薬の効果が切れる次回服用直前の降圧値(トラフ値)を、一番効いている時の最大値(ピーク値)で割った比。100%に近いほど効果の持続性が高いといえる。図にはないが、イミダプリルも80%前後とされる。(J Hum Hypertens;2004:18:599-606.)

ACE阻害薬を増量する
○心不全などに対する心保護

 この処方は、ACE阻害薬に他剤を併用するのではなく、増量することから始めたもの。ペリンドプリルは8mgが国内の最大用量だ。佐藤氏は、「他剤併用より増量を優先するのは、ACE阻害薬の積極的適応がある心不全や左室肥大などのケースが多い」と語る。

 血管障害の一次予防には降圧力が優先されるため、ACE阻害薬を使っていれば次にCa拮抗薬や利尿薬を併用するのがセオリー。しかし、「心不全や心筋梗塞、動脈硬化が強い人はRA系が亢進しているので、そこをブロックする方が臓器保護効果が期待でき、ACE阻害薬を最大用量まで上げる必要が出てくる」(佐藤氏)。

 例えば、日本循環器学会の「慢性心不全診療ガイドライン2010年改訂版」でも、ACE阻害薬について「薬剤の忍容性がある限り増量を試みる」とある。増量により生命予後の改善が期待できるからだ。「ただ、ACE阻害薬は増量すると薬価が高くなってしまうので、Ca拮抗薬を積極的に増量する場合に比べると少ない」(佐藤氏)という。

ACE阻害薬を就寝前に
○全体的降圧効果と咳対策

 Ca拮抗薬の項でも紹介したが、就寝前に投与すると早朝高血圧の是正に有効なことが多い。佐藤氏は、「ACE阻害薬を就寝前に投与すると、朝に投与するのと比べて1日全体の降圧効果が強まるのに加え、早朝高血圧も是正しやすくなる」という。

 就寝前に投与すれば、夜間高血圧(non-dipper型)の患者は正常型(dipper型)に是正できるだけでなく、正常型の患者では夜間血圧を過度に下げないという。「ただし、T/P比の高い長時間作用型のACE阻害薬を使うのが条件」(佐藤氏)だ。

 また、面白いのが、「就寝前に投与すると咳が出にくくなる」という点。「ACE阻害薬が継続できなくなる原因の9割は咳。その抑制目的もあり、ACE阻害薬はほとんど就寝前に投与するようにしている」と佐藤氏は話す。

 なお、ACE阻害薬の咳対策にはもう1つ方法がある。佐藤氏は、「ACE阻害薬にCa拮抗薬や利尿薬を併用していると、咳を抑制できることが経験的に分かってきた。メカニズムは不明なのだが、特にCa拮抗薬では咳の発生率が半分くらいに減少する。なので、ACE阻害薬を使う時は、かなり早い段階でCa拮抗薬を加えたり、たまに最初から両薬を併用することもある」と語る。咳の減少効果をまとめた論文は、現在投稿中だという。

 ただ、咳は自然経過で軽快する。「約8割はいずれ出なくなるので、薬局でもそのように患者に説明してほしい」と佐藤氏は話している。

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