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医薬分業が規制改革の俎上に
日経DI2015年4月号

2015/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年4月号 No.210

 3月12日の昼下がり、東京・霞が関にある中央合同庁舎の講堂には、張り詰めた空気が漂っていた。前方、ロの字型に配置された長机には、緊張した面持ちの5人の登壇者と、厚生労働省の審議官、規制改革会議の委員など20人以上が並ぶ。両壁にはテレビ局のカメラクルーや一眼レフを携えた報道陣がずらりと構え、マイクを片手に会場の様子を伝えるリポーターの姿もあった。後方に50席ほど設けられた傍聴席は、抽選で選ばれた一般傍聴者で満席となった。

 講堂で開催されたのは、「医薬分業における規制の見直し」をテーマに掲げた、規制改革会議の公開ディスカッションだ。

 規制改革会議は内閣総理大臣の諮問機関で、国民や経済界などから寄せられた声を基に様々な規制改革について議論する審議会。中でも国民の関心が高いテーマについては、世論を喚起することを目的として、不定期の公開ディスカッションが開かれる。

 「医薬分業は長い歴史を持ち、国民にとって身近な制度だが、国民目線ではあまり議論されてこなかった」。規制改革会議の健康・医療ワーキング・グループ(WG)座長で日本総合研究所(東京都品川区)副理事長の翁百合氏は、医薬分業を取り上げた理由をこう説明する。

 実は、医療に関わる規制の緩和が同会議で取り沙汰されるのは、今回が初めてではない。過去には、OTC薬のインターネット販売規制の見直しや保険外併用療養(いわゆる混合診療)の範囲拡大などが取り上げられてきた。

 これらは薬剤師に関わるテーマではあるものの、関心度はそれほど高くなかった。それが今回は、医薬分業という薬剤師の職能の根幹を成すものだけに、多くの薬剤師が注目した。折しも、薬歴未記載や無資格調剤などの報道が相次いでおり、公開ディスカッションを機に“分業バッシング”の嵐が巻き起こるではないかと、戦々恐々と見守った薬局関係者は少なくなかった。

6月答申に向け議論継続

 公開ディスカッションで具体的に話し合われたのは、(1)医療機関と薬局が物理的に離れているという構造の問題、(2)院外処方のコストとメリットの問題─の2点。関係団体の代表者や有識者が7分間ずつプレゼンテーションを行い、現状認識や問題意識を提示した後、規制改革会議の委員を交えての質疑応答が行われた。

 登壇したのは、関係団体を代表して日本医師会副会長の今村聡氏、健康保険組合連合会副会長の白川修二氏、日本薬剤師会副会長の森昌平氏、有識者として東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科医療経済学分野教授の川渕孝一氏、日本在宅薬学会理事長の狭間研至氏。

 本誌は後日、この5氏に対し個別にインタビューを実施し、公開ディスカッションの感想などを聞いた。

 蓋を開けてみると、公開ディスカッションでは医薬分業そのものを否定する声は誰からも挙がらず、上の2つの論点に対する意見交換に終始した。終了直後の記者会見で、規制改革会議議長で住友商事相談役の岡素之氏は、「議論に着手したばかりで、結論が見えているわけではない」と語った。今後、健康・医療WGを中心に議論を続け、何らかの方向性や提案が決まれば、今年6月に予定されている実施計画の答申に盛り込む方針だ。

着地点見えない構造規制

 医療機関と薬局が物理的に離れているという構造的独立に関しては、規制改革会議と日医が国民目線で規制緩和の必要性を投げ掛けたのに対し、厚労省と日薬、健保連が規制の維持を主張、防戦する形となった。

 従来、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則などにより、保険薬局は保険医療機関から経済的および構造的に独立していなければならないとされてきた。だが近年、薬局と医療機関が隣接するケースで、敷地の境界にフェンスを設け、両者間を往来する際に遠回りしなければならない例がしばしば見られ、患者の利便性が損なわれていると指摘する声が増えていた。それを受けて14年10月、総務省は厚労省に対し、「医療機関からの経営上の独立性が十分に確保されている場合は、構造上の独立性に関する規定は緩やかに解釈するのが相当」と、規定の解釈を見直すようあっせんを行っていた。

 内閣府は今年2月末、一般市民を対象に医薬分業に関する意識調査を実施。それによると、医療機関と薬局の構造上の分離が必要と考える人は、3割にとどまった(図1右)。

図1 一般市民の医薬分業に関する意識調査の結果

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 規制改革会議の委員で大阪大学大学院医学系研究科教授の森下竜一氏は、「同一建物にコンビニエンスストアや喫茶店が入居している医療機関もあるが、経営母体はそれぞれ異なる。経営的独立を保ち、利益供与を伴う誘導を行わないという前提の下で、建前ではなく真剣に患者のメリットを考えるべきではないか」と主張した。

 前述の総務省のあっせんをはじめ、構造的独立規制は緩和すべきとの流れはできつつある。だが、その規制緩和がフェンスの撤廃だけを意味するのか、いわゆる“門内薬局”や“院内薬局”を容認することになるのか、全く見えていないのが現状だ。

 一般市民を対象とした内閣府の調査では、「医療機関で院外処方箋を受け取った時、どこの薬局に薬をもらいに行きますか」という問いに対して、「医療機関からなるべく近い薬局」と答えた人が69.1%に上った。国が医薬分業の理念の1つとして掲げる、かかりつけ薬局を持つことへの理解が、国民に浸透しているとは言い難い。

 日医の今村氏は、医療機関と門前薬局の境界にフェンスなどが設置されている状況について「国民目線では全くもって疑問」としつつも、「仮に医療機関の敷地内に薬局ができれば、複数の医療機関を受診する患者が幾つもの薬局を掛け持ちするという状況に拍車が掛かるのではないか」と指摘。そのため、かかりつけ薬局を持つことの重要性について、国民に周知することが先決だと強調する。

分かりにくい分業のコスト

 医薬分業の意義が国民に理解されていない現状は、コストとメリットに関する議論でも浮き彫りになった。

 健保連の白川氏は、院外処方では院内処方に比べ患者の自己負担額が増えることに着目(表1)。「コストに見合う効果があるのか疑問」と指摘した。

表1 院内処方と院外処方に掛かるコストの比較の一例

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花粉症で再診し、内服薬(14日分)と外用薬の先発医薬品が処方された場合の金額(薬剤料を除く)を比較した。健康保険組合連合会の資料と取材を基に編集部で作成。

 医薬分業の費用対効果に関しては、サービスを受ける国民、サービスを提供する薬局、保険財政といった立場の違いによって見方が異なるため、検証が難しい。また国民にとっては、処方監査や疑義照会といった薬剤師業務(サービス)の内容や、同じ薬を受け取るのに薬局によって支払額が異なる理由は分かりにくい。そもそも薬物療法の安全性担保や質向上といったメリットは実感が得られにくく、薬局が本来果たすべき役割を十分に発揮しているかどうかも、客観的に評価しにくい。

 加えて、公開ディスカッションでは、薬局が提供するサービスの質にばらつきがあることを指摘する声が相次いだ。

 規制改革会議委員で政策研究大学院大学教授の大田弘子氏は、「薬局の中でも、きちんと役割を果たしている薬局とそうでない薬局がある」と指摘。「薬剤師業務への報酬は一律ではなく、専門的職能を発揮し、充実したサービスを提供している薬局に重点的に与えるべきでは」と提案した。

 これに対して厚労省大臣官房審議官の吉田学氏は、「薬局(の質)が一様でないことは認識している」と認めたものの、「調剤報酬点数は中央社会保険医療協議会で合意を得た上で定められている」と、報酬の配分については言葉を濁した。

 「規制改革会議の議論の行方によっては、来年以降の調剤報酬改定、薬局運営や薬剤師の業務に関する法制度に波及する可能性もある」。ある薬局経営者は危機感をあらわにする。

現場の意識改革は不可欠

 公開ディスカッションの登壇者に共通する問題意識は、国民が医薬分業のメリットを十分に実感していないこと。薬剤師には国民の理解を促す一層の努力が求められるわけだが、そのためには現場の意識改革が不可欠だ。日在薬の狭間氏は、「薬剤師が変わらない限り、薬局は変わらない」と訴える。

 健保連の白川氏は、チーム医療や在宅医療への積極的な参画、後発医薬品の使用促進、地域に密着した健康情報拠点など、14年1月に公表された「薬局の求められる機能とあるべき姿」に提示されている薬局の機能について、「十分に発揮されていないのが現状」と苦言を呈した。

 日薬の森氏は、「医薬分業のメリットを国民に実感してもらえるよう、薬剤師は業務の“見える化”を進めるとともに、自己研鑽を続けていく必要がある」と語る。薬剤師一人ひとりが国民の声に真摯に耳を傾け、いかに行動につなげていくかが問われている。

構造的独立規制を撤廃する必要はない
日本薬剤師会副会長 森 昌平氏

 これまで、医薬分業の制度が国民に理解されておらず、正しく評価されていないと感じていた。分業のメリットについて公の場で話せる良い機会と捉えて、公開ディスカッションに臨んだ。

 特に理解されていないと感じたのは、分業の意義と、面分業の普及を進めてきた目的だ。分業の意義は、かかりつけ薬局・薬剤師が関わることで、薬物療法の安全性確保と質向上を実現すること。分業初期はマンツーマンが中心だったかもしれないが、医薬品の備蓄体制の強化など、各薬局がどの医療機関の処方箋でも応需できる体制の整備に努めた結果、フリーアクセスはかなり進んだ。

 そもそも薬剤師が職能を発揮し、適正な医薬分業制度を実現するには、医療機関からの経済的、構造的、機能的な独立が不可欠。構造的に一体化すれば当然、特定の医療機関と機能的にも一体化しやすくなる。あえて逆戻りするような規制緩和を行う必要はない。

 地域包括ケアにおいて、かかりつけ薬局の果たすべき役割は大きい。高齢患者など薬局で薬を受け取るのが難しいケースに対しては、フェンスの撤廃ではなく、訪問薬剤管理指導など、かかりつけ薬局・薬剤師が関わる解決策を考えるべきだ。

 今回、分業のコストに見合ったメリットが十分に実感されていないこともよく分かった。私たち薬剤師はその現状をきちんと受け止めた上で、安心して医療を受けてもらえるよう業務の“見える化”を進めるとともに、自己研鑽を積みサービスの質向上に努める必要がある。(談)

医薬分業への国民の理解が不可欠
日本医師会副会長 今村 聡氏

 そもそも薬局は医療機関と一体的な経営を行わないことが大前提。構造的な独立が経営的な独立を担保しているわけでもないのに、公道を挟むためにあえてフェンスを設けることは、国民に不便を強いるだけだ。経営的独立という大前提の下では、構造的独立規制はあまり意味をなさないと思う。

 特に都市部において、利便性すなわち医療機関からの近さが、国民が薬局を選ぶ際のインセンティブとなっているのが現状だ。さらに現在の調剤報酬体系では、自己負担額の低さも、患者が門前薬局を選ぶ動機になっている。仮に医療機関の敷地内に薬局ができれば、患者は当然そこに行くようになり、幾つもの薬局を掛け持ちする状況に拍車が掛かり、薬剤服用歴の一元管理などかかりつけ薬局の本来の機能を発揮しにくくなるのではないか。構造的独立の有無にかかわらず、国は本来あるべき医薬分業について国民に十分周知し、制度設計すべきだ。

 分業のコストとメリットに関しても、国の調査結果などを見ると、やはり国民に理解されていないことが根底にあると感じる。患者のニーズは一人ひとり異なる。医師はコミュニケーションを通じて患者のニーズをつかみ、患者に満足してもらえるよう柔軟に対処したり工夫する。薬剤師も同様だ。優秀な薬剤師がいるのは事実だが、大切なのはサービスの質の全体の底上げを図り、平均的な水準を高めることではないだろうか。(談)

構造的独立規制の緩和は慎重に
健康保険組合連合会副会長 専務理事 白川 修二氏

 門内や院内に薬局が入った場合、経営上は独立していたとしても、従属的な関係になることが強く懸念される。構造的独立規制は必要であり、その緩和は慎重になるべきだ。

 患者の利益は大切だが、患者の利便性の目的だけのために医療行政が行われるわけではない。医療機関の機能・役割を明確にして、病診連携が進められてきたように、患者の利便性を少々犠牲にしても、政策としてやらなければならないこともある。

 医薬分業は、処方箋を門前薬局に持っていくことではなく、複数の医療機関からの処方を1つの薬局が一元管理することを目指している。そうした医薬分業の目的を国民に周知する必要がある。そして薬局も、横のネットワークを整備するなど、どうしたら処方の一元管理ができるようになるかを業界として考えてほしい。

 薬剤師には薬の専門家としての機能が求められているが、現状ではその機能を十分に果たしているとはいえない。薬は飲めているのか、残薬はないか、薬を減らせないか、後発医薬品に変更できないか、薬剤師としてしっかり介入すべきだ。また薬局は、社会の様々な要望に応えるために、業容を広げる努力が必要だ。現状の仕事で満足して、そこそこ利益があればよい、という考えならば、医薬分業の意義は国民に伝わらず、薬局の存在意義が問われることになる。(談)

努力する薬局が報われる仕組みに
東京医科歯科大学大学院 医療経済学分野教授 川渕 孝一氏

 現在、調剤医療費は6.7兆円、うち技術料は1.7兆円を占める。これだけ大きな市場に多数の営利企業が関わっていながら、“真の競争”が起きていないのが現状だ。起きているのは、医療機関に少しでも近い場所を確保する“陣取り合戦”と、高給を掲げての薬剤師の争奪戦だ。このいびつな現状を見るにつけ、「一体、何のために医薬分業を進めたのか」と甚だ疑問に思う。value for money(金額に見合う価値があるかどうか)を基準に、ゼロベースで見直すべきだ。

 医療保険は介護保険と異なり、現物給付制度。本来は1物1価であるべきだが、調剤基本料などは、1物多価となっている。その上、処方箋枚数と集中率が大きければ調剤基本料が低くなるなど、 “取り締まり”の意味合いも比較的強い。さらにいえば、後発医薬品を処方されていない場合にも、後発医薬品調剤体制加算が算定され、患者の自己負担が増えてしまう。これもおかしな話だ。

 現物給付制度を維持するなら、調剤基本料と薬剤服用歴管理指導料を一本化し、薬局・薬剤師が知恵を絞る方向に働くような、メリハリのある加算を設けるべきだ。薬局の本来の姿が、医師の処方をチェックする第三者機関であるならば、医師への疑義照会率、重複投与や残薬の回避率によって一定の加算を付ける仕組みにすることも考えられるだろう。(談)

医薬協業は新たな治療戦略だ
日本在宅薬学会理事長 狭間 研至氏

 公開ディスカッションは、今の医薬分業の在り方には問題があると指摘しつつも、「薬剤師業務に意味がない」というトーンではなかった。

 かねて主張してきたことだが、これからは「医薬協業」の時代だ。これは、薬剤師の職能拡大ということではない。約15万人の薬局薬剤師という社会的リソースを活用した、新たな治療戦略と捉えるべきだ。

 従来、薬局薬剤師は「物と情報」を扱う対物業務を担うものと考えられていたが、情報通信技術(ICT)が発達した今では、それらはインターネットや機械に取って代わった。また、薬学教育は6年制になった。それゆえ、これからの薬剤師の業務は、専門知識や判断力を生かした対人業務へとシフトしていくべきだ。

 患者のニーズ、すなわち医療という枠組みの中で薬局・薬剤師が提供すべきサービスの内容も変化してきている。患者は本来、画一的なサービスを求めているわけではない。処方箋調剤に関していえば、処方監査や調剤、服薬指導といった薬を渡すまでの業務よりもむしろ、前回処方の妥当性の評価、次回処方への提案・介入といった、“アフターサービス”の質で差別化を図るべきだろう。

 医薬分業におけるパラダイムシフトは、既に起こりつつある。現場の薬剤師はピンチをチャンスと捉え、変化をいとわないでほしい。(談)

規制改革会議 健康・医療ワーキング・グループ座長 翁 百合氏 に聞く
国民から見ると医薬分業には疑問点が多い

 公開ディスカッションは、国民にとって身近な問題を取り上げ、関連する制度について多方面から議論することによって、国民に関心を持ってもらい、より良い制度について考えていくきっかけとするための場。当ワーキング・グループ(WG)にとって身近な問題は何かと考えたところ、浮かび上がってきたのが医薬分業というテーマだった。私たちは無意識のうちに「そういうものなんだ」と受け止めているが、よくよく考えてみると、不思議な点が多々ある。

 例えば、同じ薬なのに受け取る薬局によって支払う金額が異なることがある、そもそもどんなサービスにいくら掛かっているのかが分かりにくい、病院の目の前の薬局に行くのに道路を渡らなければならない─といったことだ。今年2~3月に、当WGのメンバーの協力を得てウェブ調査を行ったところ、この他にも様々な意見が挙がった(http://ewoman.jp/entaku/info/id/3329/times/)。

 厚生労働省はかかりつけ薬局を推進しているが、処方箋枚数と集中率の高い門前薬局の方が患者の自己負担額は少なくて済む。一方で、門前薬局に行く際にわざわざ道路を渡らなければならない。このような点に、国民が矛盾を感じるのも無理はないだろう。医薬分業を進めた目的やメリットについても、医療提供者は当然知っているのかもしれないが、利用者である国民にはなかなか理解されていないのが現状だ。

 もっとも、私を含む規制改革会議の委員のほとんどは、医薬分業の理念そのものに反対しているわけではない。医師の処方を薬剤師がチェックすることによって、安全性を担保したり治療の質を向上したり、薬価差益による利益追求を監視したりする。それが大切であることに異論はない。

 ただ、院内処方に比べ院外処方の方が患者負担が多くなることは確か。それゆえ厚労省が推進してきた施策の費用対効果や、国民がどのようなメリットを感じているかについては、検証・評価されてしかるべきではないだろうか。

 個人的には、薬局間でサービスの質にばらつきがあることも気になっている。医師との協働において、薬剤師の職能や薬局の機能をもっと有効活用していく必要があると思う。

 国民のニーズは多様化している。サービスの内容やメリットとコストを分かりやすく示し、それによって患者自らが選べるようにすべきだ。(談)

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