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CaseStudy
高齢の視覚障害者支援に注力 爪切りサービスで薬局を身近な存在に
日経DI2015年4月号

2015/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年4月号 No.210

 眼科クリニックの門前に位置するすずらん薬局沓谷店(静岡市葵区)。眼科の処方箋を持って同薬局を訪れる患者の約3割が何らかの視覚障害(ロービジョン)を有することから、視覚障害患者の支援に力を入れている。主な対象者は、緑内障や白内障、加齢黄斑変性などで、成人後に視覚障害となった高齢者だ。

 同薬局が視覚障害を有する患者の支援を始めたのは、眼科医から要望を受けたためだ。「『高齢になってから視力の低下が生じた場合、その状況に適応できず、引きこもりやすくなる。中にはうつ病になる患者もいる』と眼科医から聞き、何らかの支援ができないかと考えた」と、同薬局を運営するアイドラッグ(静岡県葵区)代表取締役で薬剤師の石川優子氏は話す。

視覚障害を疑似体験

 同薬局では、視覚障害者支援を開始するに当たり、見えないことを身をもって体験するスタッフ教育を実施した。

 静岡県訪問自立指導員(当時)で、歩行訓練士の黒瀬和成氏の指導の下、目隠しをした上で、介護者の指示に従って食事をしたり、町中のエスカレーターに乗るなどの実習を行った。

 この実習を通して、視覚障害を有する患者にとって、どのような場面が不便かを学び、どんな支援が求められるかを「スタッフ全員で考えた」と石川氏は説明する。

すずらん薬局沓谷店を運営するアイドラッグ代表取締役の石川優子氏(左から2人目)と、アイドラッグ統括マネジャーの加藤剛氏(右から2人目)、ずすらん薬局沓谷店の従業員たち。

 そうしたスタッフ教育を実施した上で、まず同薬局が取り組んだのが、生活便利グッズの取りそろえだ。

 「黒白を逆転させると、視覚障害者が見やすくなることを眼科医に教えてもらった」と石川氏。眼科医のアドバイスを受けながら、黒色の様々なグッズを集め、薬局内で展示・販売している(写真1)。黒地に白い文字の時計やカレンダー、黒いしゃもじやおたま、歯ブラシなど、現在、30点ほどの商品があるという。

写真1 視覚障害者向け生活便利グッズと薬袋の例

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薬局内で視覚障害者向けグッズの販売や機器を展示(左)。視覚障害者は黒色が見やすいことから、黒いグッズを多数取りそろえている(中央)。医師の指示で薬袋を大きな文字で記すことも(右)。

「手紙を書けた」との声も

 中でも、葉書や封筒の宛名を書くための定規は好評だ(写真1中央の右端)。この定規を用いると葉書や封筒の宛名を書く部分が黒の枠で囲まれ、視覚障害者でも書きやすくなるという。「『数年ぶりに手紙を書くことができた。生きていてよかった』と喜ぶ患者もいる」と石川氏。

 宛名書き用の定規や黒白反転のカレンダーは視覚障害者支援用に開発された製品だが、しゃもじや歯ブラシは、見やすい黒をキーワードに100円ショップや商店街などで見つけた物だ。

 グッズの取りそろえに関わった、すずらん薬局居宅介護支援事務所の夏井あつ子氏は、「同じ黒色でも、テカテカと光沢がある黒は見にくいので、光沢のない黒色の製品をあちこち探し回った」と語る。

視覚障害者向け生活便利グッズを集めたすずらん薬局居宅介護支援事業所の夏井あつ子氏(左)と、アイドラッグ取締役の石川恵子氏(右)。

 黒い歯ブラシは、竹炭の効果をうたう製品の中から探し出した。ブラシ部分に竹炭を練り込んであるので、全体が真っ黒。歯ブラシ自身を見つけやすいだけでなく、歯磨き粉が付いているかどうかも確認しやすいという。

 さらに店頭では、直接針に触れられる触知時計や拡大読書器、文字が大きなリモコンなど、視覚障害者支援の機器も展示・紹介している。夏井氏は、「シャワーヘッドも黒い方が使いやすいというので、患者さんに紹介した。何人もの患者さんが黒いシャワーヘッドを購入し、入浴が楽になったと言っている」と話す。

 薬袋などの書き方にも気を配る。「見えにくい患者さんでは、矯正視力の数値や、どのような大きさの文字で服薬指導書などの書類を作成すべきかの指示が眼科医から来る」とアイドラッグ統括マネージャーの加藤剛氏。この指示に対応する形で、薬袋には大きな文字を記載する(写真1右)。左右の眼で、点眼薬の種類が異なる場合は、どちらの点眼薬を用いればよいか分かりやすいように、目薬の容器ごとに左右を示すシールを貼っている。

爪切りサービスを実施中

 同薬局は、爪切りという全国的に見ても珍しいサービスを実施している(図1)。このサービスを開始したきっかけも、眼科医から爪が切れない患者が少なくないという話を聞いたことだった。特に足の爪は、視覚障害者には見にくく、切るのが困難だ。また、視覚に異常がなくても体が硬い高齢者では手が届かない。同薬局は、そのような患者や高齢者が、定期的に爪を切るために訪れる場になっている。「小さなサービスを積み上げて、敷居の低い薬局を目指している」と、石川氏は強調する。

図1 爪切りサービスのポスター

 爪切りは医療行為になるのではと議論になった時期がある。しかし、厚生労働省は2005年7月、「爪そのものに異常がなく、爪の周囲の皮膚にも化膿や炎症がなく、かつ、糖尿病等に伴う専門的な管理が必要でない場合」は、爪を切ることは「医行為」ではないという解釈を出している(医政発第0726005号)。

 これを受けて同薬局では、専門のケアが不要と眼科医が判断した患者に限って、爪切りサービスを提供している。予約制とし、アイドラッググループの別店舗にいる看護師もしくは介護福祉士が来局して、爪を切っている。料金は、手の爪のみが300円、手足の爪は500円だ。

 爪切りサービスを主に担当しているアイドラッグ取締役で看護師の石川恵子氏は、「長い間、足の爪を切れずに困っていた方がたくさんいた」と実情を語る。独居のため切ってくれる家族が身近にいなかったり、家族と同居していても毎回頼みにくいなど、爪切りサービスへの潜在的な需要は大きいようだ。「毎回、次回を予約していく高齢の患者さんは少なくない」と言う。

介護保険の代行申請も

 すずらん薬局沓谷店では、視覚障害患者への介護保険の説明や代行申請も、眼科医と連携して行っている。

 まず眼科医から、「この患者さんは介護保険を使っておらず、家にこもりがちなので何とかしてあげられないか」という情報が薬局に寄せられる。その情報に沿って、アイドラッググループの居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーが、患者・家族に対して介護保険の内容を説明したり、要望があれば申請を代行する。さらに、アイドラッググループは、視覚障害者のみを対象としたデイサービスを有し、視覚障害者のニーズに沿う介護サービスも提供している(別掲記事)。

 「地域包括ケアの中で求められる薬局の役割は調剤だけではないはず。患者さんのニーズにきめ細かく応えることで、薬局の存在意義を示していきたい」と、石川優子氏は語る。(小板橋 律子)

視覚障害者に特化したデイサービスを事業化

 すずらん薬局沓谷店を運営するアイドラッグは、5つの薬局と2つのデイサービス事業所、居宅介護支援事業所などを有する。デイサービス事業所の1つ「秋桜」は、視覚障害者に特化したデイサービスを提供している。

 通常のデイサービスは、視覚に障害がない高齢者が主な利用者だ。そのため、「視覚障害を有する利用者は、けがをしないよう、車椅子に座らされる時間が長かったり、他の利用者向けのプログラムを利用できないなど、疎外感を抱く場面が多々あると聞いた」とアイドラッグの石川優子氏。その問題点を解消するには、視覚障害者のみを対象とするのが一番と考えて、このデイサービスを事業化したという。

 民家を改装した施設の定員は10人。こぢんまりした施設であることから、視覚に障害がある高齢者でも、「廊下を十数歩行った右手にトイレがあるなどをすぐに覚えて、健常者と変わらない身のこなしで行動できている」と石川氏は説明する。

 デイサービスの利用者は、同じ境遇の仲間に出会うことができる。「悩みを分かち合える仲間と気兼ねなくわいわい楽しめるので、周囲から明るくなったと言われる利用者が多い」と石川氏もうれしそうだ。同施設を見学した際には、利用者の会話を邪魔しないよう配慮する介護者の姿が印象的だった。

デイサービス「秋桜」の施設内には、視覚障害者に見やすい黒地に白い文字の時計やカレンダーが使用されている。

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