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Interview
日本薬剤師会元会長/アスカ薬局 佐谷 圭一氏
日経DI2015年4月号

2015/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年4月号 No.210

さや・けいいち
1961年、明治薬科大学卒業。薬局勤務を経て、63年アスカ薬局(東京都練馬区)開局。74年日本薬剤師会常務理事に就任、95年から98年まで中央社会保険医療協議会委員を務め、98年日本薬剤師会会長に就任し2002年に辞任。現在は同会顧問。著書に『十文字革命』(薬事日報社)など。

─薬歴の未記載が相次いで見付かっていることについて、どのように感じていますか。

佐谷 薬歴簿が電子媒体に移行し始めた頃から、いずれこうした問題が起こるのではないかと懸念していました。薬歴の未記載は、薬歴を書くためのシステムが整っていないことが一番の問題であり、正直なところ起こるべくして起こったと見ています。

 電子薬歴を使っている薬局では、服薬指導をしながら会話の内容を紙にメモ書きしておき、後に入力するといった手順を取っていることがほとんどです。しかし患者が待っていれば、薬歴に入力する時間が取れません。忙しさの中でメモがたまっていき、残業をしても薬歴入力が追い付かなくなる。もちろんいけないことですが、書けない事情があったのではないでしょうか。

 彼らを批判することは簡単です。しかし、それでは問題の根源は解決されず、同じことが繰り返されかねません。調剤する上で必要な薬歴をきちんと残せるような仕組みを作ることが大切なのではないでしょうか。そのためには薬歴がどうあるべきかを考える必要があります。薬歴は薬剤師にとって大切なツールですが、薬歴記載を目的化してはいけない。大切なのは、患者さんの薬物治療を管理するために必要な情報をいかに残すか、です。そこに立ち返って、無理なくできる仕組みを考える必要があるでしょう。

─忙しくても書けるような方策が必要だということでしょうか。

佐谷 そうです。当薬局では、処方箋の裏に手書きでメモを取り、それをそのままスキャンして薬歴として使えるシステムを取り入れています。算定要件に必要な項目は、あらかじめテンプレートを作っておき、チェックするようにしています。これなら、どんなに忙しくても「薬歴が書けない」ということにはなりません。報道では「メモしか残っていなかった」と伝えられていましたが、メモには患者から聞いた大切なことが書き留められています。必要に応じてコメントを加え、それを生かすことを考えればよいのではないでしょうか。

 POSの考え方に基づいたSOAP形式による記載は、情報を整理して伝える上では有効ですが、それにこだわり過ぎてはいけません。来局時に聞いた話を記載していき、何回かの来局を経たときにSOAPが完結しているのでもよいと思います。

─未記載でも服薬指導ができていたということは、薬歴の否定につながりませんか。

佐谷 薬歴がなければ、前回聞いたことも分からず、再度確認する必要があるなど、不便極まりない。早く薬を出すことに終始し、服用歴だけを参照して、患者さんの状態を確認せずに服薬指導を終えていると、そこに不便を感じないものかもしれませんが、だとすると残念ですね。

 そもそも薬歴は、私が薬科大学を卒業して1年目の頃、新しい眼鏡を作るために眼鏡店に行ったときに、店員から「前回に比べて乱視が進んでいますね」と言われて感心したことがきっかけとなって生まれたものです。その店員は、前回来店時の度数や購入したものなどを記録した顧客カードを見ながら話していて、その姿を見たときに「これだ !」と思ったのです。

 実は、その頃の私は薬局の仕事にやりがいを持てずにいました。来局者の話を聞いてOTC薬を選んで販売していましたが、川に薬を投げ入れているようなむなしさを感じていたのです。それが眼鏡店を参考に一人ひとりのカードを作り、どんな症状で来局し、どの薬を薦めたかを書き留めておくようにしたところ、仕事が一変しました。

 記録があるので「先日の症状は、お薦めした○○薬で治まりましたか」と質問できるようになったのです。すると「あの薬、よく効いたよ」と具体的な評価が返ってきます。それをまた書き留めておくことで、次はより良い提案ができます。さらに、「この薬でアレルギーが出た」「副作用が出た」といった情報も得られるようになり、リスクマネジメントにも生かせるようになりました。

─薬歴が薬剤師の仕事を変えたというわけですね。薬歴の点数化にも尽力されました。

佐谷 薬歴を活用すれば、人々の健康に貢献できると確信していましたから。日本薬剤師会の理事として、薬歴を調剤報酬で評価してもらうために奔走しました。診療報酬や調剤報酬は、実績ありきで点数が付けられます。厚生省(当時)からは院外処方箋を応需する薬局が1割になり、薬歴が使われている実績ができれば点数化できると言われました。そして86年にようやく「薬剤服用歴管理指導料」が新設された。点数化まで、実に12年も掛かりました。

 薬剤服用歴管理指導料は、薬剤師にとって初めての「インテリジェントフィー」と呼べるものです。施設に対する報酬でも単純な労働に対する報酬でもなく、薬の安全性と有効性を担保するための薬剤師の専門知識に対する報酬です。その根幹となるのが薬歴であるはずです。薬歴未記載が日常化している今の状態は、システムの問題はあるにせよ、薬剤師自ら「薬剤師は施設と単純な労働だけの職種である」と言っているようなものです。薬剤師という仕事をスポイルしているといえます。

─医薬分業に国民の厳しい視線が集まっています。

佐谷 薬歴未記入の問題をきっかけに、「薬歴はいらない」という議論や、さらに医薬分業そのものを否定する議論が起こることを心配しましたが、現在のところ薬歴も医薬分業も否定されているわけではないので、その点については安堵しています。しかし、以前に増して医薬分業のValue for Money(費用対効果)が厳しく問われているといえるでしょう。薬局が提供しているサービスがコストに見合ったものではないと考えられているのです。

 今後、保険薬局の経営は、ますます厳しくなるでしょう。調剤報酬が削られ、今以上に利益が出ない時代になるかもしれません。これまで薬局は、ある程度は儲かる業種でした。儲けることは悪いことではありません。しかし、薬剤師は医療職です。儲けることが目的化してしまってはいけない。お金は、あくまでも患者さんのために仕事をした結果に過ぎません。「儲からないなら薬局をやる意味がない」と考える人は、業界から撤退していけばいい。儲からなくても患者さんのためにやりたいと思う人や企業だけが残れば、それは今後の薬局業界にとって、むしろ良いことなのではないでしょうか。

 今の薬局バッシングは、Wake Up Callだと思っています。「薬剤師よ、目覚めよ」という警鐘なのでしょう。

インタビューを終えて

 薬歴を考案したきっかけが眼鏡店の顧客カードという話を聞いて、納得がいきました。患者サービスとして始めたものが、調剤報酬制度に取り込まれて形式化し、残業を要する余分な仕事となり、薬剤師不足も相まって今の未記載問題となったのでしょう。一方で、情報技術も患者ニーズも薬剤師に期待される役割も大きく変化しています。真に患者の役に立つ薬歴の在り方について、「初心」に立ち返り、ゼロベースで考え直すべきだと、佐谷氏の話を聞いて思いました。(橋本)

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