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CaseStudy
法円坂薬局(大阪市中央区)
日経DI2015年3月号

2015/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年3月号 No.209

 法円坂薬局(大阪市中央区)は、数多くのHIV感染症患者が受診する国立病院機構大阪医療センターの門前に位置しており、多数の抗HIV薬の処方箋が持ち込まれる。初めて抗HIV薬の院外処方箋を応需したのは2001年。それ以降枚数は増え、現在では全処方箋の約1割を抗HIV薬を含む処方箋が占める。

注意点多い抗HIV薬処方箋

 当初から抗HIV薬の処方箋応需に中心となって取り組んできたのが、同薬局の元管理薬剤師の中村美紀氏(現在は関連薬局のきらめき薬局[大阪市中央区]管理薬剤師)と、法円坂薬局薬剤師の迫田直樹氏だ。

法円坂薬局の元管理薬剤師の中村美紀氏(左)と、法円坂薬局薬剤師の迫田直樹氏。

 中村氏は「HIV感染症患者は共通して、他人に感染を知られることに対する不安が強く、プライバシー保護が非常に重要。名前を呼ばれるのを嫌がるだけでなく、薬剤の交付時には、薬剤名が分からないようにしてほしいなどの要望も多い」と話す。また迫田氏も、「抗HIV薬は併用薬や食事に関する注意点が多く、保険関係の確認事項もある。患者とコミュニケーションしやすい環境を整えることが重要」と語る。

表1 HIV感染者の処方箋応需で気を付けるべき点(取材を基に編集部まとめ)

 抗HIV薬の処方箋を応需する際の主な注意点をまとめたのが表1。抗HIV薬は大きくてカラフルな剤形が多く(写真1)、交付時には薬を目立たなくする工夫が必要だ。また、抗HIV薬は非常に高額。患者の自己負担額を抑えるために、自立支援医療制度や重度心身障害者医療費助成制度などが適用されるが、薬局で毎回、受給者証の確認や関係書類への記入が必要となる。さらに在庫確保のため来局予定を患者や病院に確認しておかなければならないなど、手間が掛かる。

写真1 主な抗HIV薬とその大きさ

カラフルなものが多く、一円玉(直径2cm)と同程度の長径のものもある。

薬の説明は色や形で

 法円坂薬局は待合のソファとカウンターの距離が2~3mほどしかない。そのため、プライバシーが漏れないよう細心の注意を払っている。

 例えば、受付時の番号制導入がある。受付で患者に番号札を渡し(写真2)、薬の準備ができたら薬局内のモニターに番号を表示し(写真3)、チャイムを鳴らせる仕組み。「呼び出す時に他の人に名前を知られることを嫌がる患者への対策として、3年ほど前から番号制を導入した」と中村氏。

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 薬剤交付時にはカウンター上に薬袋を置かず、薬剤師が手元に置き他の人に見えないようにしながら説明を行う(写真4)。薬袋は中身が見えない銀色のビニール袋に包む。番号制や銀色のビニール袋は、HIV感染症患者だけでなく全ての患者に採用している。

 患者に薬の説明を行う際は、薬の名前や疾患を一切言わない。「今日から青色の薬がオレンジの楕円形の薬に変わりましたが、先生から聞いていますか」などと、色や形で表現する。

 このほか、カウンターでの会話が他の人に聞こえなくなるよう、カウンターに「ヤマハプライバシーシステム」を取り入れた(写真5)。このシステムは、スピーカーから音を流すことで会話内容をマスキングする機器で、使用する薬局は最近増えている。HIV感染症患者には、こうしたプライバシーに配慮した取り組みが必須となる。

写真5 法円坂薬局の待合

待合とカウンターの間は2~3mしかなく、「ヤマハプライバシーシステム」(上写真)を設置して会話が他者に聞こえないようにしている。

大型の錠剤で分包時に注意

 抗HIV薬は、調剤時にも注意を要する。特に一包化する場合。サイズが大きい薬剤が多く、薬が分包機のマスからはみ出て、分包中に破損してしまう恐れがある。

 迫田氏は、「1錠当たり5000円を超える錠剤もあり、破損すると損害額は無視できない。そのため、マスの中につまらないよう、錠剤をピンセットで整列させてセットする」と話す(写真6)。

写真6 抗HIV薬の一包化風景

1錠が大きいために、錠数が多いと分包機のマスからはみ出て作動時に破損することがある。そのため、ピンセットで並べてセットする。

 さらに、患者からは薬の包装や受け取り方に関する要望が多い。例えば、 写真7にある抗HIV薬の空ボトル。抗HIV薬は、ボトルのまま患者に渡すことが多い。その場合患者が空容器を自宅で捨てるのをためらい、薬局で廃棄してもらうため持参することがある。

 写真8は、患者が家からインスタントコーヒーの空き瓶を持ってきて、そこに詰めて持って帰るというケース。薬剤ボトルを1つにまとめたい、薬のボトルは目立つ、などの理由があるようだ。

 また、写真9のようなケースもよくある。ボトルのラベルを全て剥がして、真っ白なボトルにして交付してほしいという要望だ。抗HIV薬の多くは写真10のように、剥がすことを前提にしてラベルが貼り付けてある。

 薬剤情報提供文書や明細書など、疾患の特定に結び付きそうなものは受け取りを嫌がられる。法円坂薬局では、薬袋や薬情などには、「感染症内科」と書かないようにしている。「分包した包装に薬剤名を入れないよう希望されることもある。きめ細かく対応するために調剤前に患者の意向を確かめる必要がある」と迫田氏は話す。

副作用はあまり踏み込まず

 最後に服薬指導に関して。抗HIV薬は食事による薬物動態の変化や、薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)が関係する相互作用を起こしやすい(表2)。そのため服薬指導時には、食事が取れているかといった生活習慣に関して質問することが多いという。また、他の疾患で別の医療機関から薬を処方されることもあるので、「他の医療機関で出た薬の飲み合わせが心配なら、いつでも薬局に電話するよう話している」(中村氏)。

表2 主な抗HIV薬の用法・注意点(編集部まとめ)

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抗HIV薬は、食事による薬物動態の変化や、CYPを介した薬物相互作用に注意が必要なものが多い。

 ただし、副作用についてはあまり踏み込んだ話をしないようだ。

 中村氏は、「抗HIV薬は耐性化を避けるためにも、しっかり飲み続けてもらうことが最も重要で、薬局で安易に副作用の話をして服用を妨げることは避けなければならない。患者は副作用の内容や初期症状について病院で適切な指導を受けており、薬局ではさほど話さない」と言う。

 とはいえ、最低限の確認は行う。例えば、ツルバダ(一般名エムトリシタビン・テノホビルジソプロキシルフマル酸塩)では、消化器症状の副作用が出やすい。薬局では、「お腹が膨れたりげっぷが出たりしませんか」などと聞いている。また、ストックリン(エファビレンツ)では眠気やうつ症状が出ることがあり、「体調はどうですか」「お仕事中に何か問題になる症状など出ていませんか」などとやんわりと聞く。こうした聞き取りで得た情報は病院に報告し、対応を促している。

 「HIV感染症患者は薬を一生飲み続けなければならず、薬局との付き合いも長くなる。無理をしない範囲で、長期のサポートをすることが薬局薬剤師の役割だ」と中村氏は話している。(野村和博)

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