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早川教授の薬剤添削教室
高齢患者の疑義照会が跳ね返されたら…
日経DI2015年3月号

2015/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年03月号 No.209

 今回はたいよう薬局中山が処方箋を応需した91歳の女性、井上はつさん(仮名)の薬歴をオーディットします。高血圧と認知症で継続服用の処方箋を、井上さんの家族が持って新たに来局しました。また、プラザキサも処方されていました。ただし、効果が期待できない用量まで減量されていたため、対応した薬剤師は処方変更の提案を意図して疑義照会を行っています。残念ながら提案は受け入れられませんでしたが、高齢患者への薬物療法の適応については、様々な視点から検討する必要があります。多面的に評価すべき点を念頭に、オーディットの内容を読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。症例検討会には薬剤師12人が参加し、薬歴を作成したのは薬剤師A、発言者はA~Jです。(収録は2015年1月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『薬剤師の視点を連携に生かす「在宅アセスメント」虎の巻』(日経BP、2013)など。

今回の薬局
たいよう薬局中山(鹿児島市)

 たいよう薬局中山は、2014年4月1日に開局したばかりの新しい薬局である。応需している処方箋は月に2000枚ほど。主に内科や整形外科の処方箋に対応している。同薬局には、30代2人の薬剤師が常勤し、30代4人の薬剤師がパートで勤務している。

 電子薬歴を採用し、基本はSOAP形式で記載しているが、SOAP形式で表現しにくい場合は自由に記載している。

 薬歴には見出しを付け、患者の主訴を薬剤師目線で確認した上で記録している。また、患者の言葉はそのまま残すようにし、腎機能などの各種検査値、患者の年齢や生活状況などもできる限り記載している。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず薬歴の表書きを見ていきましょう(【1】【2】)。病歴や他科受診があることなど、初回に必要な情報は十分に書かれています。患者は大正生まれの91歳。超高齢ですね。「処方内容および指導事項など」を見て気になる点を挙げてください(【3】【4】)。

B 「今まで服用しているお薬」となっていますが、どれくらい前からでしょうか。

早川 罹病期間を知りたいと。

C 認知症の程度が気になります。

D 91歳なので、コンプライアンスがよいかを確認したいです。

E 60日処方の理由も聞きたい。あと、家族と同居なのか。初回は聞けなくても、何回目かには確認したいです。

早川 まとめると服薬管理を誰がしているのかが重要な鍵となりそうですね。

F プラザキサ(一般名ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)が出ているので心疾患もあると考えられます。

早川 今回が初来局ですが、これまではどうしていたのでしょうか。

F 通院先が院外処方に切り替わったそうです。

A 本人は来局せず、娘さんとお孫さんが来ました。この段階では、患者本人がどれくらい歩けるかなどは分かりませんでした。

B 91歳でリカルボン(ミノドロン酸水和物)は必要だろうか。

G リカルボンが出ているので、寝たきりではないと思いました。

早川 寝たきりだと薬を飲めないから?S情報に「本人は絶好調」とあります。

A ご家族に様子を聞いたところ、最初の回答がこれでした。とても印象に残ったので薬歴に残しました。

E イクセロンパッチ(リバスチグミン)が出ているので、同居している家族はいると思います。パッチをどこに貼っているのか、かぶれがないのかを確認したいです。

B きちんと服用できているか気になるので、残薬を確認したいです。

早川 実際の服薬状況は、どうでしたか?

A ご家族は明るく、服薬サポートは問題ないだろうと感じました。

早川 嚥下機能はどう推察しますか。

G 比較的錠剤の大きいプラザキサが出ているので、この時点では大丈夫だと思います。

早川 嚥下機能は保たれているという判断ですね。次にどこに焦点を当てて見ていくか優先順位を付けましょう。

処方内容は適切か

D まず、処方内容がこの患者さんに合っているかを検証したいです。

早川 では、そこから行きましょう。ちょうど7月18日の薬歴にプラザキサの話があります(【5】【6】【7】)。この日は患者本人 が来局しています。A情報にある体重は、小柄であることからの推測体重ですか。

A そうです。処方元に問い合わせたところ、2カ月前に測定したクレアチニン値は0.79mg/dLということでした。

早川 その回答を聞いた上で、クレアチニンクリアランス(CCr)値が30mL/分を下回れば禁忌になるということを伝えたのですね 。

A そうです。

早川 腎機能に焦点を当てて検討しています。プラザキサが処方されているので大事なことです。さらに広げて色々な点を検討しましょう。まず、プラザキサの適応症は何でしょうか。

E 心房細動。

早川 非弁膜性心房細動による脳梗塞などの発症予防です。でも、表書きの病歴には心房細動について書かれていません。ということは、この時点で最初に聞き取るべき項目は何でしょう。

B 脳梗塞の既往歴。

C 手術歴。

G 自覚症状。

早川 それをここで聞く必要がありますね。実際はどうでしたか。

A この時点では、確認できませんでした。頭の中では心房細動があるのかなというイメージを持っていましたが、過去のイベントまでは聞いていません。

早川 過去にイベントを生じていなければ、どんな心房細動と考えますか。

C 心電図検査などで指摘された無症状のもの。

早川 その場合は、患者・家族に何を聞けば確認できますか。

F 心電図検査を受けたかどうか。

D あるいは、医師から言われたか。

早川 医師から、脈に乱れがあるなどを指摘されたかどうかを聞けばいいわけです。これを確認できると、きちっと病気を捉らえた上で対応できますね。そうやって見たときに、ブロプレス(カンデサルタンシレキセチル)、アムロジピンの選択をどう評価しますか。

A 高齢なので心不全への適応もあるブロプレスの処方は適切だと思います。

早川 抗不整脈薬は出ていませんね。だから、症状がないと見た方が合致します。この患者は無症候性心房細動だと確認できれば、現病歴にも書き足すことができます。次に、プラザキサ投与がこの患者にとって適切なのかどうかを評価しましょう。無症候性心房細動患者へのプラザキサの投与は、どんな状態で推奨されますか。

A CHADS2スコア2点以上です。高血圧かつ75歳以上なので2点。

早川 プラザキサ投与は問題なしですね。それで初めて、投与量はどうかという話になります。腎機能評価は必須です。見た目から体重40kgと推測しCCr値を計算したのですね。

D プラザキサは成人常用量が1回150mgの1日2回で、腎機能の低い人には110mgを1日2回です。でもこの患者には、さらに少ない量が処方されています。CCrは30mL/分ぎりぎりでも、常用量よりさらに少ないので問題ないと思います。

早川 医師がどこを意識してこの用量にしているのかを聞きたいですね。薬歴には「150mg/日では脳梗塞予防効果によい結果が出ていない」と書かれています。

処方量の有効性に疑問

A はい。なぜプラザキサを選んだのかなと考えました。カプセルも大きいし。

早川 そういうのこそ、書いておいた方がいいですね。その一方で、蓄積性の副作用を考えて、低用量に設定されているという見方もできるわけです。

 次に認知症の重症度がどのレベルか知りたいですよね。認知症の症状として最低限確認しておきたいことを挙げてください。

D 日時や季節、曜日、食事内容を覚えているか。

E 会計に困らないかを確認します。

D 最初にした質問を最後にまた聞いて判断します。

早川 随伴症状や合併症について、押さえておきたいことはありますか。

E 不眠やうつ。

D 徘徊、被害妄想。

早川 症状や生活の状況を聞き取ったり観察した上で、治療薬を評価していくことが重要です。その中で、メマリーの用量が適切かなども評価できるでしょう。

メマリーがOD錠に

早川 次に9月12日を見てみましょう(【8】【9】【10】)。メマリーがOD錠に変更されています。その点、他の薬も含めてどう考えますか。

F ODになった理由が書かれていないので、それを知りたいです。

早川 ODへの変更に意味があるとしたら、どんな意味でしょうか。

F 嚥下機能が悪くなってきている。

H でもブロプレスは飲めていますよ。

早川 この時は、患者本人と娘さんが来ていますね。何を確認しますか。

I ご飯を飲み込めているか。

早川 嚥下機能が落ちてきていると仮定すると、ブロプレスとプラザキサはこのままでいいかを評価すべきですね。

A メマリーODはそのままで、プラザキサを、錠剤の小さなイグザレルト(リバーロキサバン)もしくはエリキュース(アピキサバン)に替えたいです。

F 嚥下機能が低下しているなら、リカルボンは注射に切り替わっているはずだけど……。メマリーは口腔内から吸収されないので、服用時は水をしっかり飲むように指導したいですが、水でむせる可能性もあります。一包化も検討すべきだと思います。

早川 メマリーがODに替わったタイミングで、一包化を検討するというプランが出ました。1つの選択肢ですね。

A 独居なのか否か、薬の管理者は誰かなどを家族に確認したいです。

早川 1点追加ですが、S情報にある血圧120/80はどう評価しますか。

A 大丈夫だと思います。

早川 それをアセスメントに書きましょう。

A なるほど、そうですね。

アムロジピンが減量される

早川 11月14日を見ましょう(【11】【12】【13】)。アムロジピンが減量されました。

J ふらつきなどの副作用があったのかな……。あと、カンデサルタンの変更は、薬局側から提案したものですか。

A もともとジェネリックの希望があったので、今回こういうのが発売されましたと説明したところ、変更を希望しました。

C 今回の処方箋では、メマリーはOD錠ではなかったのですね。

早川 単なるミスだったのか……。

F メマリーの処方でミスがあったとすると、アムロジピンが2.5mgに減量されたのもミスの可能性が高いのでは。

早川 まずは、減量すると言われていたかどうかを患者・家族に確認した方がいいですね。

G もし家族が同居しておらず、薬を飲ませるために患者のところに通っているなら、プラザキサを、1日1回のイグザレルトなどに替えると、朝にまとめて服用できるので家族の負担が減ると思います。

早川 この時点で、疑義照会をしたものの、「そのまま払い出すよう指示」されたと書かれています。

自分ならどう疑義照会する?

早川 これまでの検討を踏まえて、もう一度、疑義照会するとなると、どんな風に話したいですか。

A 「錠剤の小さい、飲みやすいお薬があります」とか、「1日1回に揃えた方が患者負担は少ないと思います」ということを提案するかな……。

早川 提案の仕方や観点が少し変わりましたね。皆さんはどう言いますか。

H 「家族に聞いたところ、夕食後は飲めておらず朝1回のお薬の方が確実に飲んでいただける」と、患者・家族の希望という言い方をします。

F 「一包化できる薬剤への変更はどうでしょうか」。

B まず、「血圧は安定していますが、アムロジピンは減量でいいのでしょうか」と確認した上で、もう1点気になることがあると追加するかたちで、1日1回の製剤への変更を提案します。腎機能とか添付文書の話を出すとあまりうまくいかないと思います。

E 自分なら、「製薬企業に確認したら適宜増減という文言がなく、エビデンス的に効果があるかが分からないので、保険適用のことも考えて110mgまで上げるか、もしくは他のお薬、できれば1日1回のものに替えていただけないでしょうか」と言います。

C 「患者さんが1日1回の服用にしたいということで、ワーファリンかイグザレルトなら、1日1回も可能です」と患者さんの希望として伝えた上で、選択肢を呈示して選んでもらいます。

J 腎機能や効果に関しては、製薬企業から医師に言ってもらう。その後、「患者さんの希望で」ということで、1日1回の薬剤への変更を依頼します。

G 問題があるかどうかを家族に確認し、特になければ、変更しなくていいと思います。患者やご家族が不満を持っている場合は、医師にもそう話します。

I 薬剤を切り替える際は、肝機能も確認すべきと思います。

早川 では、疑義照会の結果について、皆さんだったらどう書きますか。

J 直接話をして面倒くさそうに言われたのかとか、受付からの回答だったのかなど、状況まで書きたいです。

B 理由を説明してもらったのか、否か。

早川 それを誰が読んでも分かるように書くということが大事です。

E できれば表書きにも。疑義照会した日をきちんと書きたい。

早川 そうです。経過記録の中に埋もれさせておくものではなくて、薬剤師は確認し、対応はこうだったということを誰が見ても分かるようにしましょう。

F アセスメントも残しておきたい。

早川 何て書きますか。

F 効果が期待できない用量なので、イベントが発生しないか観察し続けるよう申し送りをするとか……。

早川 医師がそのままにしておいてと言ったことに対して、同意していないが、それによって悪いイベントが起こる可能性があるので、きちんとフォローしていくという自分の責任をアセスメントとプランに書いておきましょう。そうすることで、医師はこう判断したということの証明もできるし、自分の責任も保たれます。とても大切なことです。

たいよう薬局中山が応需した症例のオーディットの様子

参加者の感想

原崎 大作氏

 実は、今回のオーディットの前に予習しようということになり、Facebookを介して議論をしていました。これから先も同じような感じで、各薬局で薬歴を出し合って、こういうときはどうアセスメントするのが最適なのか、患者への説明方法、疑義照会のやり方などを議論していきたいです。


陳尾 裕介氏

 今回、自分が作成した薬歴を見てもらいました。皆さんから色々な意見をもらって、自分一人では考えつかないような見方や、知識の使い方があるということが分かりました。今後も定期的にこのようなディスカッションをしていきたいですし、そのためにも薬歴をもっと充実させないといけないと改めて思います。

二木 ひとみ氏

 「医師の処方に納得できないから患者さんに責任を持てないのではなく、そのような状況下でも患者さんをフォローしていくことが大切」という早川先生のお話が印象的でした。これまでは疑義照会が医師に受け入れてもらえないと、確認したからもう自分は関係ないと思いがちでした。しかし今後は、どんな状況でも患者さんをフォローしていきたいと思います。うちの薬局にも、認知症のために服薬が難しい患者さんがいるはずなので、患者さんやご家族のニーズをくみ上げられるよう努力を続けたいです。

全体を通して

早川 達氏

 初来局時の情報のみから、患者および家族の状況をたくさん推論することができました。これは参加者の皆さんの患者を見る目の確かさを示しています。この視点を患者面談に生かし、より良い指導や対応につないでいただきたいと思います。

 処方内容を薬物動態の面から検討していて、とても良い薬歴でした。それに加えて、参加者からは患者の身体機能や生活機能の面からのアセスメントが多く出されました。単に処方だけを見ているだけでは、その人の将来の病気、生活、進行を考えると不十分であることが分かり、色々な情報を推測、確認しながら、何が適切なのかという判断にもつながる議論ができたと思います。

 担当した薬剤師が疑義照会をしている場面もありました。どのように照会し、その対応と記載について深い議論ができました。

 全体として、多面的なアセスメントができたと思います。そのことが医師への疑義照会というよりは相談につながり、医師に対して説得力のあるアプローチになること、そして最終的に患者のためになることを理解できたオーディトでした。

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