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Interview
飯原なおみ氏(徳島文理大学香川薬学部教授)
日経DI2015年3月号

2015/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年3月号 No.209

いいはら・なおみ
1983年東京理科大学薬学部卒業。屋島総合病院、香川大学医学部附属病院などを経て、2005年徳島文理大学准教授、11年より現職。専門は薬剤疫学。08~10年度文部科学省戦略的大学連携支援事業、11~12年度総務省健康情報活用基盤構築事業で電子処方箋のプロジェクトに関わる。

─医療情報のIT化やその活用に関わる研究者の立場で、昨今報じられている薬局チェーンでの薬歴未記載の問題をどうお考えですか。

飯原 薬歴は、患者の副作用を確認する上で大事です。また、薬歴の基となる調剤情報は、薬剤師が関わることで作り出されたものです。薬剤師の財産と言うべき調剤情報の記載を放棄していたとは、薬剤師として何をしていたのかと思ってしまいます。

 薬物の使用に関する情報には、医療機関で生まれる処方の情報、薬局で生まれる調剤情報と、患者が本当にその薬を飲んだかどうかという服薬情報の3つがあります。将来的には患者自身がお薬手帳に服薬情報を記録するようになるかもしれませんが、現状で最も正確な薬歴となるのは薬剤師が記録した調剤情報です。

─調剤情報には具体的にどのような利用の価値がありますか。

飯原 例えば薬局で後発医薬品に変更調剤することが増えています。どの後発品が交付されたのかを医師が知りたいと思っても、調剤情報が医師にフィードバックされないと分かりません。

 在宅医療にも有用でしょう。調剤情報をクラウドサーバーに保管して在宅で見られるようにすれば、薬剤師はどこにいても患者が使っている薬を評価できます。容体の急変した患者の問い合わせにも、瞬時に答えられるでしょう。今後、地域包括ケアシステムの構築に向け、地域で多職種が連携していきますから、薬剤師には、調剤情報を活用すれば何ができるのかを提案していってもらいたいと思います。

 カナダのケベック州では、調剤された薬剤を医師が確認できるようにして、処方する段階で飲み合わせを確認するシステムが地域レベルで構築されています。日本の現状からすると夢のような話ですが、調剤情報をベースに、患者の副作用歴なども併せて薬歴として登録していけば、「この患者がこの薬を飲むとアレルギー症状の副作用が出る可能性がある」という警告を発せられるようになるかもしれません。このような体制が地域で整備されれば、患者を薬害から守れると思うんです。

─地域における医療情報の共有化のためには、薬局ごとに生み出される調剤情報などをいかに共有化していくかも重要ですね。

飯原 デンマークの薬局を尋ねた際に、飲み合わせのチェックはどうしているのかと聞くと、デンマークでは薬局が地域に1つしかないので、その患者の調剤情報は全てそこの薬局で確認できるということでした。なるほど、と思うのと同時に、逆に日本は医療機関にも薬局にもフリーアクセスが可能な国なのだから、調剤情報を一本化して薬の履歴をきちんと管理する仕組みが必要だと痛感しました。

─香川県内で行われた「電子処方箋」という医療のIT化のプロジェクトに取り組んでおられました。これはどのようなものだったのでしょうか。

飯原 電子処方箋とは処方箋の電子化のことです。ただし私たちはそれだけではなく、ITのメリットを生かして医療機関にある病名や検査データを薬局でも見られるようにする、逆に薬局からも副作用やコンプライアンスの情報を医療機関に戻すなど、双方向で情報をやり取りすることを目指しました。

 最初のプロジェクトのテーマは「チーム医療における人材育成」でした。当時、病院内ではチーム医療の環境が整いつつありましたが、外来患者に対するチーム医療も必要だろう、それには医療機関と薬局の情報共有が必要だろうと、徳島文理大学学長の桐野豊先生が唱えられて、システムを作って実証実験を進めました。

 最終的には、医療機関は香川大学医学部附属病院など3病院と3診療所、薬局は香川県薬剤師会の協力の下で数十軒が参加しました。

─実証実験を通して、どのような課題が浮かび上がりましたか。

飯原 最大の問題点は、患者の個人情報の取り扱いです。病院では患者の個人情報保護に非常に神経を使っていて、何かあったらトップが責任を取る体制になっています。では、それを院外に出した場合に誰が責任を持つのか。この問題は今でもはっきりしていません。ある程度、国が方向性を示さなければ、地域における医療情報の共有化は広がっていかないと思います。

 また、この事業を経験して感じたのは、国民の理解が進まないと医療のIT化は進まないということです。医療情報を活用するには法的整備が必要ですが、それには国民の理解が不可欠です。個人情報というと、漏えいや悪用など不安の声ばかり聞こえてきますが、そうではなくて、IT化、共有化すればこんなにいい医療ができると訴えていくことが必要だと思います。

 薬局がチーム医療の一員であるという認識が、医師には希薄であるという点にも驚きました。病名を教えてもらえれば、薬剤師は服薬指導をしやすくなると言っても、「癌患者の病名が漏れたらどうする」と、リスクの部分ばかり指摘されました。医療機関の医師と薬剤師との間で、信頼関係が十分に構築できていないのだと痛感しました。

 そこで、まずはお薬手帳の電子化を進めることが重要だと思っています。

─医療機関と薬局の間で情報共有化をする前に、薬局間で情報のIT化、共有化を進めるべきということですね。

飯原 異なった薬局で薬をもらっている患者の情報を統合し、飲み合わせや重複を検討するのは基本的なことですし、薬局同士が集まればできることです。システムを軌道に乗せてから、医療機関と連携していけばいいと思います。電子お薬手帳が地域に広がれば、医師の考えも変わっていくでしょう。

 国民の理解という点でも、電子お薬手帳には意義があると思います。医療機関と薬局とが情報共有化する場合は、患者が知らないところで情報が電子的に行き来する形になりますが、電子お薬手帳なら、自分のデータがIT化されていることを身近に感じられると思います。

 電子お薬手帳は色々なところで実用化が進められていて、スマートフォンなどに情報を記録するものや、クラウド型のサーバーに記録してどこからでもアクセスできるようにするものなど様々です。調剤チェーンでは、患者を囲い込むために電子お薬手帳を利用しているところもあるようです。

 ですが、本来電子お薬手帳は情報を標準化して地域の全ての薬局で共有することを目指すべきです。そして、将来的に医療機関との連携も視野に入れておくことも大切だと思います。

インタビューを終えて

 2008年以降、電子処方箋のプロジェクトに関わってきた飯原氏ですが、「チーム医療の人材育成がテーマだったので参加したが、医療ITは全くの素人」と語ります。大学に勤める前、約20年間病院の薬剤部に勤務して院内でIT化、情報の共有化が進むのを経験してきた飯原氏は、大学に移り、保険薬局の置かれた状況を見て「20年前の病院と同じだ」と思ったそうです。「これをどうにかしなければという思いを強くした」と振り返る飯原氏の熱い口調が印象的でした。(橋本)

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