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薬の相互作用
CYP2B6が関与する相互作用
日経DI2015年3月号

2015/03/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年3月号 No.209

嶋本 豊、杉山 正康(杉山薬局[山口県萩市])

 薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)2B6は、CYP2Bサブファミリーの中で唯一、ヒトの生体内で機能することが知られている。主に肝臓で発現しているが、当初、その発現量は総肝CYP量の0.5%以下と極めて少なく、薬物代謝への寄与度は低いと考えられていた。しかしその後、CYP2B6の肝発現量はCYP2D6とほぼ同じであり、総肝CYP量の1~11%を占めることなどが示されている1)。また、米国で頻用される医療用医薬品200品目のうち、約4%はCYP2B6で代謝されることも報告されている1)

 CYP2B6の発現量にはかなりの個人差がある。これは、遺伝子多型のためと考えられる。50種類以上あるCYP2B6の遺伝子多型のうち、最も多いのはCYP2B6*6であり、日本人の16.4%に存在することが報告されている2)。一般にCYP2B6*6を持つ人では、その酵素活性が低下するが、基質にによっては活性が上昇することもある。

 従って、主にCYP2B6で代謝される薬剤(表1)は低用量から開始するなど、薬効の変動に注意する。可能であれば、使用前にCYP遺伝子検査を行うことが望ましい。

表1 CYP2B6の基質と遺伝子多型の影響(下線は遺伝子多型の影響を受ける薬剤)

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CYP2B6の基質と相互作用

 CYP2B6は一般に、高脂溶性の中性または弱塩基性薬剤を基質とし、N-脱メチル化、ヒドロキシル化を触媒することが多い。メサドン塩酸塩(商品名メサペイン)には光学異性体のS体とR体が存在するが、CYP2B6は選択的にS体を代謝する。メサドン、シクロホスファミド水和物(エンドキサン)、エファビレンツ(ストックリン)、ネビラピン(ビラミューン)、プラスグレル塩酸塩(エフィエント)、プロポフォール(ディプリバン他)などはCYP2B6遺伝子多型の影響を受けることから、主にCYP2B6で代謝されると考えられる。セレギリン塩酸塩(エフピー他)、トラマドール塩酸塩(トラマール)は主にCYP2D6と3A4で代謝されると考えられていたが、近年、CYP2B6が深く関与することが示されている。その他、多くの薬剤がCYP2B6による部分的な代謝を受ける。

B6の阻害薬と誘導薬

 in vitro実験を基にしたCYP2B6阻害薬の報告は多数ある(表2)。このうち、パロキセチン塩酸塩(パキシル他)、ボリコナゾール(ブイフェンド)、エファビレンツ、メマンチン塩酸塩(メマリー)などは競合阻害、クロピドグレル硫酸塩(プラビックス他)、チクロピジン塩酸塩(パナルジン他)、メサドン、エチニルエストラジオール(プロセキソール他)は、CYPのヘム破壊や共有結合に起因する不可逆的阻害であることが示されている。クロピドグレル、チクロピジン、メサドンは、CYP2B6で代謝されることから、自殺基質といえる。

表2 CYP2B6阻害作用を持つ主な薬剤(下線はCYP2B6阻害機序が明らかな薬剤)

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 中でも抗血小板薬のチクロピジンは、CYP2C19の不可逆的阻害薬でもある(2D6>>3A4>1A2の順に可逆的阻害作用も示す)。これは、CYPによる代謝過程で生成する活性中間体(S-オキシドなど)がCYP2C19と共有結合するためと考えられ3)、CYP2B6の不可逆的阻害も同様の機序で起こる可能性がある。また、クロピドグレルのCYP2B6阻害効果は、ヘム破壊や、代謝過程で生成する2-オキソ体(薬理活性体[チオール体]前駆物質)との共有結合などに起因すると推測されている4)。一方、プラスグレルのCYP阻害効果は非常に弱い。

 CYP2B6誘導薬としては、リファンピシン(リファジン他)、カルバマゼピン(テグレトール他)などの典型的な核内受容体活性化薬のほか、自己誘導する薬剤の報告もある(表3)。

表3 CYP2B6誘導作用を持つ主な薬剤(下線は自己誘導する薬剤)

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注意すべき相互作用

 CYP2B6が関与する相互作用としては、CYP2B6阻害薬と基質との併用に注意する(表4)。特に、不可逆的阻害薬であるクロピドグレル(ケース1)、チクロピジン、メサドン、エチニルエストラジオールは阻害効果が強く、投与中止後も持続する可能性が高い。また、メマンチンは臨床用量でCYP2B6を阻害する恐れがある5)

表4 CYP2B6が関与する主な相互作用

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 その他、ラロキシフェン塩酸塩(エビスタ)、セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト)、パロキセチン、フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール、ルボックス他)、アムロジピンベシル酸塩(アムロジン、ノルバスク他)、フェロジピン(スプレンジール、ムノバール他)、エゼチミブ(ゼチーア)、フェノフィブラート(トライコア、リピディル他)、モンテルカストナトリウム(キプレス、シングレア)、ロラタジン(クラリチン他)、ザフィルルカスト(アコレート)など、汎用薬によるCYP2B6阻害の可能性にも留意する。

 一方、CYP2B6の基質の中では、エファビレンツ、メサドン、ケタミン塩酸塩(ケタラール)、シクロホスファミド、クロバザム(マイスタン)、トラマドール(ケース1)などの薬剤が、阻害や誘導の影響を受けやすいと考えられる。また、遺伝子多型の影響を受けるプラスグレル(ケース2)や主にCYP2B6で代謝されるセレギリン、クロチアゼパムにも注意が必要である。なお、CYP2B6で部分的に代謝される薬剤に関しても、主経路が阻害された場合にCYP2B6の寄与度が高まる可能性がある。

 誘導に起因する相互作用に関しては、代謝促進により薬効が減弱する場合が多いが、シクロホスファミドや抗血小板薬など、代謝により薬理作用を示す薬剤では薬効が増強し得る。

相互作用への対応例

 当薬局での実際の対応例を示す。

 ケース1のAさんは脳梗塞再発予防、骨粗鬆症、高血圧、腰痛、薬剤性胃腸障害の再発予防のため、(1)~(3)を服用している。今回、腰痛が悪化したため、トラムセット(一般名トラマドール・アセトアミノフェン)と、副作用予防目的でプリンペラン(メトクロプラミド)が追加された。各薬剤の代謝に関わるCYP分子種は、プラビックス(クロピドグレル)が2C19、1A2、2B6、3A4、ブロプレス(カンデサルタンシレキセチル)とセレコックス(セレコキシブ)が2C9、タケプロン(ランソプラゾール)が2C19、3A4である。これまで、CYPの競合阻害によるプラビックスの効果減弱やその他の薬剤の副作用(過降圧や胃腸障害など)の有無を定期的に確認していたが、異常はなかった。

 トラマドールの効果は未変化体(主にセロトニン作用)と活性代謝物M1(μ-オピオイド作用)の双方に起因し、CYP2B6と2D6によってM1に変換されるため、これらの阻害薬の影響を受ける。一方、プラビックスはCYP2B6を強力に阻害し、セレコックスも特異的CYP2D6阻害作用を持つ。

 そこで薬剤師は、トラマドールの血中濃度が上昇し、セロトニン作用が増強する恐れがあると判断した。Aさんには、落ち着かない、イライラする、体が震えたり固くなる、汗が出て脈が速くなる、ふらつくなどの症状や、プリンペランが無効な吐き気や便秘などに注意し、これらの症状が表れたら連絡するよう伝えた。2週間後の来局時に確認したところ、これらの副作用症状は認められず、トラムセットにより腰痛も和らいだため服用を継続中である。

 ケース2のBさんは高血圧、陳旧性心筋梗塞、脂質異常症のため上記の薬を服用中で、病状も安定。6カ月前にバイアスピリン(アスピリン)とエフィエント(プラスグレル塩酸塩20mg、分1)が開始され、その後エフィエントは維持用量まで減量され継続している。

 エフィエントの代謝および活性化には、CYP3A4>2B6>2C9≒2C19>2D6の順に関与すると考えられる。

 アムロジピンとアトルバスタチンは主にCYP3A4で代謝されるため、3A4を競合阻害する可能性がある。またアムロジピンはCYP2B6を阻害するが、アトルバスタチンは誘導する可能性もある。従って併用薬が全くない場合に比べて、エフィエントの薬効は変動しやすくなると考えられる。Bさんには、出血傾向や血栓症など抗血小板薬の副作用に常に注意するよう指導している。

参考文献
1)Drug Metabol Drug Interact.2012;27:185-97.
2)Eur J Clin Pharmacol.2002;58:417-21.
3)Biochemistry.2001;40:12112-22.
4)Mol Pharmacol.2011;80:839-47.
5)Eur J Clin Pharmacol.2004;60:583-9.

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