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症例に学ぶ 医師が処方を決めるまで
成人のてんかん
日経DI2015年2月号

2015/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年2月号 No.208

講師
神 一敬
(東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野講師)

講師から一言

 てんかん薬物治療の最終目標は発作を抑制し、患者の生活の質(QOL)を向上させることである。そのためには副作用を起こさずに発作を消失させることが求められる。

 今回はいずれも副作用を起こすことなく、新たな抗てんかん薬を導入できた例を提示したが、副作用については患者が主治医に直接伝えづらいこともあるだろう。薬剤師はそうした患者の訴えを聞き出し、処方医に伝えてほしい。特に新たに薬剤が追加された後に出現した気になる訴えは、処方医に遠慮なく伝えていただきたい。

 てんかんは大脳神経細胞の過剰な興奮により反復性の発作を生じる慢性の脳疾患である。有病率は約1%弱と頻度の高い疾患で、国内の患者数は約100万人といわれている。本稿では、てんかんの中でも、成人の局在関連てんかん(部分てんかん)の治療について、当科外来で経験した症例をその処方箋と共に紹介する。

 部分てんかんとは、部分発作(脳のある一部分から始まる発作)を生じるてんかんで、全般発作(脳全体が同時に興奮する発作)を起こすのが全般てんかんである1)(表1)。成人では、脳梗塞、皮質形成異常などの器質性脳病変に起因する症候性の部分てんかんが多い。

表1 てんかん国際分類(国際てんかん連盟1989年)

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 てんかん治療の基本は薬物療法であり、発作を抑えるために薬を内服する。一般に1剤目の抗てんかん薬で発作消失に至る患者は約50%、2剤目では約15%、3剤目以降はその率が極端に低下する2)ものの、約70~80%の患者で良好な発作コントロールが得られる。

 従来、部分てんかんに対する第一選択薬はカルバマゼピンとされ、これで発作消失しない場合に、第二選択薬としてフェニトインやゾニサミドが使われてきた。しかし、2000年以降、部分てんかんに対する併用療法として、クロバザム(商品名マイスタン)、ガバペンチン(ガバペン)、トピラマート(トピナ)、ラモトリギン(ラミクタール)、レベチラセタム(イーケプラ)の5剤が認可され、治療の選択肢が増えた。これら5剤を、それ以前からある薬と区別するため「新規抗てんかん薬」と呼ぶ。新規抗てんかん薬の特徴として、幅広い治療スペクトラムを示す点、従来薬とは異なる作用機序を有している点が挙げられる(表2)。

表2 抗てんかん薬の作用機序

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 既に抗てんかん薬で治療を受けている患者に対し、新規抗てんかん薬を追加する、併用療法における有用性は既に確立されているが、海外では新規抗てんかん薬を第一選択薬として単剤でも用いる(表3)。

表3 てんかんの発作型による薬剤選択(英NICEガイドラインを一部改変)

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併用薬減と発作コントロールを両立

 初めに紹介する患者(症例1)は、28歳の男性。1歳ごろから発熱時にけいれん発作を起こすようになり、抗てんかん薬の処方が開始された。5歳以降も発熱時に、(1)恐怖感の前兆に引き続き、(2)一点を凝視し、言われたことは分かるが答えられない状態となり、(3)上半身を硬直させ意識減損、(4)全身けいれんに至る─という発作が見られた。成人後も薬剤調整が行われ、全身けいれんはなくなったが、(1)~(3)の発作は3、4カ月に1回の頻度で繰り返していた。そこで詳しい検査をするため、当院を受診した。検査入院する1カ月前に発作を生じ、それまでの処方に加えマイスタン(一般名クロバザム)が追加されていた。

 入院精査の結果、この患者の脳波では左右中側頭部に棘波を認め、MRIでは明らかな異常はなく、FDG-PETでは右側頭葉に糖代謝低下を認めた。これらのことから、部分てんかん(右側頭葉てんかん疑い)と診断した。

 退院後は、当科外来にて薬剤調節を行った。アレビアチン(フェニトイン)は、有効成分が同じであるヒダントールに変更し、バレリン(バルプロ酸ナトリウム)とランドセン(クロナゼパム)は漸減・中止した。テグレトール(カルバマゼピン)は継続している。マイスタンは増量した。退院後は発作を起こすことなく1年が経過している。4剤併用でも発作が残存していた状態から、マイスタンの導入により、3剤併用で発作消失に至った症例である。

 マイスタンは、日本では2000年5月に部分発作(二次性全般化発作を含む)・全般発作に対して、他の抗てんかん薬との併用を条件として承認された。

 本剤は部分発作・全般発作のいずれにも有効で、第一選択薬が無効だった場合に併用することで強力な抗てんかん作用が期待できる。主な副作用は眠気・ふらつきである。また、ベンゾジアゼピン系の薬剤に共通した特徴である、耐性(慣れ)が一定の割合で出現する。

3剤併用でコントロールに成功

 症例2は22歳の女性。20歳時、自宅でテレビを見ている最中に、高い耳鳴りがし、周囲の音がこもったように聞こえづらくなった後に「あー」という声を上げて意識を失って倒れた。眼球と顔が左後方に引っ張られるようにねじれ、全身けいれんに至る発作が見られた。

 この初回発作から1年後に再び同様の発作を生じ、総合病院神経内科でてんかんと診断された。イーケプラ(レベチラセタム)が処方され、1日3000mgまで漸増されたが、1~2カ月に1回の頻度で発作を繰り返した。そこで精査・診断確定のため、当科を受診した。

 入院して検査したところ、脳波には明らかなてんかん性の異常は見られず、MRIでもFDG-PETでも明らかな異常はなかったが、病歴、発作症状から部分てんかん(右半球性局在関連てんかん疑い)と診断した。

 イーケプラは、日本では10年10月に部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する他の抗てんかん薬との併用薬として承認された。この薬の特徴として、これまでの抗てんかん薬とは全く異なる作用機序が挙げられる。主な作用点は、てんかん発作に関与する神経終末のシナプス小胞蛋白質2A(SV2A)である。SV2Aに加えて、N型カルシウムイオンチャネル阻害や細胞内カルシウムイオンの遊離抑制などにより、てんかん発作を抑制する。他の抗てんかん薬と相互作用しないため、併用療法に適した薬といえる。忍容性は高く、皮膚症状の合併も比較的少ない。中枢性の副作用は少ないが、イライラ感・易怒性の見られる例がある点には注意が必要である。この患者では退院時、イーケプラにマイスタンを追加し、以後、外来にて薬剤調節を行う方針とした。

 その後、マイスタンを40mg/日に漸増した。しかし、発作頻度は変わらなかったため、マイスタンは漸減し、代わりにトピナ(トピラマート)を追加した。

 トピナを漸増したところ発作は消失した。もともとやや肥満傾向だったが、トピナ開始後に適度に体重が減少した。抑うつなどその他の副作用もなく、経過は良好である。

 トピナは、日本では07年7月に部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する併用療法に用いる抗てんかん薬として承認された。欧米では全般発作に対する効果も確認されている。グルタミン酸系受容体による興奮性伝達とγアミノ酪酸(GABA)系受容体による抑制性伝達の両者を同時に調節し、強力な抗てんかん作用を発現するといわれている。

 ただし、注意力・記銘力低下、言語障害、抑うつといった中枢性の副作用を認めることがあり、治療脱落率が高い点が問題とされている。最近は25~50mg/週で慎重に漸増することで、副作用を軽減しつつ、長期継続が可能になると報告されている。また、体重減少、発汗低下、尿路結石、代謝性アシドーシスといった副作用にも注意する必要がある。

ラモトリギン単剤で発作を抑制

 症例3は、34歳女性。32歳の時、入浴後に突然、意識を失い、全身を硬直させて倒れた。3分ほどで硬直は治まり、5分ほどで意識も回復した。診察を受けた総合病院神経内科では脳波・MRIとも異常なく、経過観察とされた。

 この初回発作の6カ月後に自宅で再び同様の発作が生じたため、脳波を再検したところ、右前頭部棘波を認め、てんかんと診断された。その2週間後に職場で同様の発作を起こしたが、抗てんかん薬の開始は希望しなかった。

 精査・診断確定のため、当科に紹介され、外来で精査を行ったところ、脳波・MRIとも明らかな異常を認めなかった。発症年齢や前医で受けた脳波の所見から部分てんかんの可能性が疑われたが、部分てんかんを示唆する発作症状は聴取できなかった。そこで、特発性全般てんかんは否定できないが、部分てんかん疑いと診断して治療を開始した。若年女性で今後の妊娠・出産を考慮すべきであることから、ラミクタール(ラモトリギン)を選択した。

 ラミクタールは時間を掛けて漸増し、100mg錠の1日2回、朝夕食後投与(200mg/日)まで増量した。副作用は全くなく、2年間の発作消失を維持しており、経過は順調である。

 ラミクタールは、日本では08年10月に成人および小児の部分発作、強直間代発作、Lennox-Gastaut症候群の全般発作に対する併用薬として承認され、14年8月には、新規抗てんかん薬としては日本で初めて単剤療法での使用が認められている。欧米でも部分発作、強直間代発作などに対する第一選択薬として推奨されている。

 他の新規抗てんかん薬と異なり、小児例、特にLennox-Gastaut症候群の全般発作にも適応がある。認知機能に対する影響が少なく、催奇形性に関しては、単剤療法でてんかんのない女性と同程度の頻度という報告があり、妊娠可能な女性に対する第一選択薬となっている。

 一方、本剤投与例では重篤な皮膚症状の合併が他剤に比べ多いことが知られており、投与は少量から始めて漸増する必要がある。とりわけ本剤の代謝を阻害するバルプロ酸ナトリウム(デパケン他)を併用している場合には注意が必要である。

参考文献
1)Epilepsia.1989:30;389-90.
2)N Engl J Med.2000;34:314-9.

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