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Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
日本人高齢者に低用量アスピリンを投与すると、心血管疾患を予防できるか?
日経DI2015年2月号

2015/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年2月号 No.208

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

 「血液サラサラ」というのは、いったい誰が言い始めたかは分からないが、アスピリンや抗血小板薬が、血液をサラサラにする薬として広く使われている。日本には、患者が「少し頭が重い」などと言うと、医者が「念のためにMRIを撮りましょう」というような変な医療文化がある。そして、MRIの結果、脳卒中の症状が全くないのに古い脳梗塞の跡が見つかったりすると、「症状がないうちに見つかって良かったですよ。これから血液サラサラの薬を飲んでおけばいいのですから」などと言われる。

 アスピリンには血液を固まりにくくする作用があるが、血液が「サラサラになる」などということはない。さらに、心筋梗塞や脳梗塞の一次予防効果を示した研究は、これまでないと言っていい。にもかかわらず、脳梗塞の一次予防目的に大量のアスピリンが処方されている現状がある。

 最近、日本人を対象にした、心血管疾患の一次予防のランダム化比較試験(RCT)の結果が発表された。ぜひとも広く知ってもらうべき論文だ。

 結論から言うと、一次アウトカムで予防効果は示されなかった(ハザード比[HR]0.94、95%信頼区間[CI]0.77-1.15、P=0.54)。

表1 低用量アスピリン群と対照群における主要な心血管イベントの発生とハザード比

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 2型糖尿病患者を対象にした、心血管イベントの一次予防に関しては、日本人を対象としたRCT(JPAD試験)の結果が2008年に報告されており、アスピリンに有意な予防効果は見られなかった(HR0.80、95% CI 0.58-1.10、P=0.16、JAMA. 2008 ; 300 : 2134-41.)。このことから考えると今回の結果は、意外というよりは、むしろ予想通りと言った方がよいのかもしれない。

 二次アウトカムである非致死性の心筋梗塞(HR 0.53、95% CI 0.31-0.91、P=0.02)や一過性脳虚血発作(HR 0.57、95% CI 0.32-0.99、P=0.04)には予防効果を認めているが、二次アウトカムは10個設定されており、統計学的に有意な差が付いたのは上記の2個だけなので、その解釈は控えめにしておくべきだろう。

 実際に、非致死性の心筋梗塞がどれくらい起きているかというと、5年間の累積罹患率で、アスピリンなし群で0.58%、アスピリン群でも0.30%にすぎない。日本人の場合、高血圧、糖尿病、脂質異常のリスクを持つ人でも、5年間で100人に1人も心筋梗塞を起こさないわけだ。リスクのない人なら、心筋梗塞を起こす人はさらに少ない。

 一方で、輸血または入院を要する重大な出血は、低用量アスピリン群で有意に増えていた(HR 1.85、95% CI 1.22-2.81、P=0.004)。少なくとも、高血圧も糖尿病も脂質異常もない人が、MRIで無症候性の脳梗塞があるからと言ってアスピリンを飲む効果ははっきりせず、出血のリスクを高めることだけが明確に示されている。こうした無益で有害なアスピリン投与を減らすために、薬剤師として何ができるか、ぜひ考えていただきたい。もちろん、一番問題なのは医師なのだが。


 ようやく2型糖尿病薬の治療薬として第一選択の座を勝ち得たメトホルミン塩酸塩(商品名メトグルコ、グリコラン他)。実はそのエビデンスは1998年、つまり15年以上前に既に出版されている(UKPDS34)。

 この時点で既に、肥満のある糖尿病患者に対して、インスリンやスルホニル尿素(SU)薬には合併症予防効果が明確でなく、その効果が統計学的に明確に示されたのはメトホルミンだけだったのだ。

表2 メトホルミン群、インスリン、SU薬群と従来治療群における糖尿病関連合併症、糖尿病関連死亡、総死亡の発生とその相対リスク

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 このRCTでは、当初SU薬を投与したグループで十分な血糖コントロールができなかった場合にもメトホルミンを追加しているのだが、そうすると合併症予防効果が示されないどころか、かえって死亡が増えていた。それならば、SU薬を第一選択にしたり、SU薬にメトホルミンを併用したりするよりは、メトホルミンを第一選択にする方がよいではないか。

 糖尿病の診療ガイドラインでは、いまだに多くの糖尿病薬が横並びの第一選択になっている。だが、エビデンスから見れば、メトホルミンを第一選択にすべきということが、15年以上も前に示されている。SU薬やDPP4阻害薬のみが処方されている糖尿病患者の処方箋を見かけたら、こんなRCTがあるということを医師に伝えてみてはどうだろうか。

(本コラムは隔月で掲載します。)

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