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CaseStudy
アップル薬局おきたま店(山形県東置賜郡)
日経DI2015年2月

2015/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年2月号 No.208

 アップルケアネット(本社:東京都江戸川区)は、東北と関東にわたる9都県に、24軒の保険薬局を展開している。このうち約半数の店舗には、管理栄養士が1人ずつ常駐。同社では、2014年6月から、薬剤師と管理栄養士が共同で考案した「食生活チェックシート」を用い、来局した患者に食生活の聞き取りや栄養指導を行っている。

 食生活チェックシートを発案したのは、同社薬事部主任の薬剤師・山内新氏。同氏は以前から、生活習慣病の予防・管理における栄養指導の重要性を認識していたが、「栄養指導を行うために必要な食生活の聞き取りに時間が掛かる、聞き取りを行う薬剤師や管理栄養士によって、内容にばらつきが生じるといった課題があった」と話す。

 加えて山内氏は、管理栄養士が専門知識を持っているにもかかわらず、薬局では事務の業務に追われて、本来の職能を十分に発揮できていないことも問題視していた。「薬剤師は、『塩分は1日6gまでに抑えてください』という指導は行えるものの、それを実現する具体的な方法までは提案できない。その点で管理栄養士の専門知識をもっと生かすべきと考えた」と山内氏は話す。

 食生活の聞き取りの簡便化・均一化を図り、栄養指導の介入の機会を増やすにはどうしたらよいか─。そこで考案したのが質問票、すなわち食生活チェックシートをs用いる方法だ(写真1)。

写真1 アップルケアネットが考案した「食生活チェックシート」

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栄養指導に必要な情報の聞き取りを簡便化・均一化するために考案した。栄養相談の件数が多い高血圧、高LDLコレステロール血症、貧血の3疾患を対象とした。高血圧に関しては、より詳細な聞き取りを継続して行うために2種類用意。いずれも、患者が回答しやすいよう質問数を4~5に絞った。

質問数を絞って使いやすく

 食生活チェックシートの作成に当たっては、山内氏のほか、同社管理栄養士の八鍬千恵子氏、我妻聡子氏、上松聡子氏が中心となり、約3カ月かけてチェック項目を吟味した。患者が短時間で回答でき、かつ栄養指導に最低限必要な情報を得られるよう、質問数は4~5個に絞り、選択式とした。

写真左から順に、アップルケアネット薬事部主任の山内新氏、アップル薬局おきたま店店長の吉田高啓氏、同店管理栄養士の我妻聡子氏。

 対象は、高血圧、高LDLコレステロール血症、貧血の3疾患。「高血圧編I」のシートを例に、チェック項目を詳しく見ていこう(ケース1左写真)。

ケース1 降圧薬の効果が不十分な64歳女性

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 このシートでは、味付けの傾向や、塩分を多く含む食品の嗜好を把握するための質問が中心となっている。注目すべきは、食生活の現状を把握するだけでなく、実効性のある栄養指導のプランを立てることを重視している点だ。

 例えば、「嫌いな味はありますか」【1】という質問。一見、減塩とは無関係に思われるこの質問を入れた理由について、我妻氏は、「栄養指導は、その内容はもちろん、いかに実践・継続してもらうかが重要。酸っぱい物や辛い物が苦手な人に、レモンやトウガラシなどを使った減塩レシピを勧めても実践してもらえないため」と説明する。

 また、味噌汁・スープ類の摂取頻度が高い患者では、調理法を変えるなどして1食当たりの塩分量を減らすことができれば、トータルでの減塩達成度に大きく貢献する【2】。しょうゆやソースなどの調味料に関しても同様だ。

 さらに、減塩に対する認識も確認する【3】。まだ減塩を試みていない人や、うまく減塩できない人には、実践しやすい簡単な方法を、既に減塩を試みている人には、新しいレシピや「なるほど」と思わせるような工夫を提案する。

栄養指導にお薬手帳を活用

 このようにして完成した食生活チェックシートは、次の方法で運用している。

 まず、薬の交付時など、薬剤師が栄養指導が必要と判断した患者にチェックシートを渡し、その場で回答してもらう。山内氏によると、Do処方が続いているが検査値がなかなか改善しない人、生活習慣病の境界領域や健康診断で高値を指摘された人、食事療法について相談してきた人などが主な対象だという。この時、薬剤師は、薬物治療の有無や検査値、その他の嗜好品、次回来局日などを聞き取り、余白に記入。また、チェックシートに回答してもらったこと、次回に栄養指導を行うことについて薬歴に記録しておく。

 そして、薬剤師からチェックシートを受け取った管理栄養士は、回答を基に、次回来局日までに栄養指導のプランを立て、患者用指導箋を作成する(ケース1、ケース2)。

ケース2 LDLコレステロール高値を指摘された82歳男性

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 指導内容は個々の管理栄養士に委ねられているが、チェックシートの各項目への回答に応じた基本的な指導方針は、社内で共有しているオリジナルのマニュアルを参照する。マニュアルには例えば、味噌汁をよく摂取する人への指導例として、「具だくさんの味噌汁:具の量の目安は、お椀に片手一杯くらい」「オススメの汁物:けんちん汁、きのこ汁、豚汁」などと書かれている。

 栄養指導の肝となる指導箋は、“プレミアム感”を持たせて患者のやる気を引き出すために、あえて手書きで作成している。ぱっと見ただけで分かるよう、食品や献立のイラスト、アップルケアネットの管理栄養士が考案したオリジナルレシピ(写真2)の写真も活用。栄養指導を実践・継続してもらうためのポイントは、「あれこれと禁止して食生活の幅を狭めるのではなく、前向きに取り組めるような代替案を提案すること」と我妻氏は話す。

写真2 管理栄養士が作成したオリジナルのレシピ集

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コレステロール低下や貧血予防につながるメニューを管理栄養士が考案。自宅で調理して写真を撮影し、レシピや栄養価とともに小冊子にまとめている。「今後、レシピのラインアップをもっと増やしていきたい」(我妻氏)とのことだ。

 お薬手帳に貼って残せるよう、指導箋のサイズをA6判以内に統一している点も工夫の一つ。患者が後から読み返せるメリットがあるほか、患者の都合で栄養指導の時間が取れない場合でも、指導箋を手帳に貼って渡すという必要最低限の介入は行える。

 患者1人につき、複数枚の指導箋を作成し、来局するたびに指導を行う。一度で完結させるのではなく、指導に継続性を持たせることで、その間、患者にも継続して食生活に注意を払ってもらえるというわけだ。

 栄養指導は、混雑具合や患者の体調などに応じて、投薬カウンターや待合、栄養指導用のブースで行う。管理栄養士は指導結果などを薬剤師にフィードバックするが、薬剤師が同席することもある。

栄養指導事例は全店で共有

 14年6月に、管理栄養士がいる12店舗で食生活チェックシートを導入して以来、聞き取りや栄養指導を行った件数は半年間で140件に上るという。一部の店舗では、訪問薬剤管理指導の際にチェックシートを持参し、在宅療養患者への栄養指導も開始した。

 「検査値の改善度合いなど、生活習慣病の予防・管理における栄養指導の有効性は、これからデータを取って分析していきたい」(山内氏)とのことだが、既に効果が表れた例もある。

 薬物治療を行っているものの、コレステロール値がなかなか下がらなかった50代の男性Aさん。食生活チェックシートにより、仕事柄、間食する習慣があることが分かった。管理栄養士は、「間食は特別な時だけにしてみてはどうですか」とアドバイス。3カ月後、LDLコレステロール値が150mg/dLから83mg/dLに改善した。Aさんは、「無理なく間食を控えられた」と笑顔で報告してくれたという。「特に男性の場合、栄養相談を躊躇する人は多かった。食生活チェックシートが取っ掛かりとなり、患者との距離がぐっと縮まったと実感している」と我妻氏は話す。

 各店舗での栄養指導の実施状況と内容は、一覧表にまとめ、全店舗で共有(写真3)。今後、チェック項目、患者の回答、栄養指導の内容とその効果を合わせて評価し、チェック項目の見直しも行っていく予定だ。

写真3 栄養指導を行った事例をまとめた表

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食生活チェックシートによる聞き取りの結果と、管理栄養士による指導内容をリスト化してアップルケアネットの全店舗で共有。他店での指導内容も参考にできる。

 「将来的に、地域の人々に『薬局は栄養・健康相談ができる場所』と認識してもらえるよう、管理栄養士と薬剤師が互いの職能を理解し合い、研鑽と工夫を重ねていきたい」と山内氏は話している。(内海 真希)

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