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Interview
赤沢学氏(明治薬科大学 公衆衛生・疫学 教授)
日経DI2015年2月号

2015/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年2月号 No.208

あかざわ・まなぶ
1986年明治薬科大学薬学部卒業。薬剤師。製薬企業に勤務した後、米エール大学、ノースカロライナ大学などで公衆衛生学を学ぶ。2007年米国疾病予防管理センター医療経済学研究員、08年東京大学大学院薬学研究科研究員、09年金沢大学医薬保健研究域薬学系准教授を経て、10年より現職。

─薬局における患者登録制度の構築というプロジェクトの研究代表者を務めています。どういうものでしょうか。

赤沢 長期処方が出ている慢性疾患患者を薬局で登録し、28日とか30日に一度、薬剤師が電話や電子メールなど、あらかじめ患者と合意した方法で連絡して服薬状況などを確認し、その結果を記録していくものです。2014年度に科学研究費助成事業として開始しました。

 現状では、2、3カ月の長期処方でも分割調剤せずに全ての薬を渡して、何か問題があったり、途中で服用をやめたりしても、次に医師にかかるまで分からないのが実態ですよね。この問題に地域の薬剤師が何か貢献できないかと考えました。

 薬剤師が定期的に連絡して介入することで、例えば服薬アドヒアランスが改善したとか、患者が気付いていない副作用を発見できたとか、飲めない原因に気が付いて医師に処方変更してもらったとか、患者にどんなメリットがあったかを記録していきます。

─薬剤疫学や薬剤経済学がご専門ですが、どうして薬局での研究プロジェクトを行うことになったのでしょうか。

赤沢 以前、OTC薬やサプリメントも含めた併用薬を薬局に持参してもらい、薬剤師が飲み合わせなどの確認と指導を行う「ブラウンバッグ運動」をテーマとする研究に関わったことがあるのですが、実際には薬局薬剤師は色々な形で患者に介入しています。ところがその介入の結果を評価できるだけのエビデンスがありませんでした。

 そこで、日本アプライド・セラピューティクス学会の保険薬局委員会で議論する中で、「まずは薬局の薬剤師と一緒にエビデンスを作っていこう」ということになり、保険薬局経営者連合会との共同プロジェクトとしてこの研究を始めました。患者を登録し、薬剤師の介入の結果を長期間追跡してエビデンスを示していこう、薬局薬剤師の業務を“見える化”していこうというわけです。

 本当は、薬剤師が介入した場合と介入しなかった場合で服薬アドヒアランスにどんな影響があるかなどを比較したかったのですが、まずは観察研究として行うことにしました。

─対象はどういう患者ですか。

赤沢 36日以上の長期処方を受けていて、薬剤師が「問題になりそう」と思う慢性疾患の患者で、研究に同意してくれた方です。慢性疾患の中でも、効果を測るために検査値で評価ができる高血圧症や脂質異常症、糖尿病の患者を選んでもらっています。

 研究には医療機関は参加せず、検査値のデータは薬局で患者から聞き取ってもらっています。患者登録制度に参加した結果、検査値が安定すればいいと思っています。

 2013年11月から14年2月までに13薬局で37人の患者を登録し、うち34人について1年近く追跡してきました。

─1年くらいのフォローアップでどのような結果が出ていますか。

赤沢 まだ対象者が少ないので、定量的な数字としては示せないのですが、薬剤師と話をする時間が増えて、薬に対する不安が消えたという患者がいました。また、例えば「ダイエットをしているから昼は薬を飲めない」など、患者が「飲めない」とする理由を確認して、担当医に処方変更を提案した事例も幾つかありました。体調不良を聞き取って受診勧奨できた例もあります。

 薬剤師は薬を渡す時に色々と指導しますが、その結果がどうだったかを日常の調剤でフォローするのは困難です。その点、この研究は登録した患者を追跡することが仕事なので、自分が指導した結果がどうだったかを薬剤師は確認できます。これは大きな利点です。

 また、電話やメールで連絡をする際には処方箋に基づいて指導するわけではないので、患者が日常生活で困っていることなど、今までできなかった話ができるようになったという薬剤師もいました。これも大事なことだと思います。

 この研究の成果は、なるべく学会や研究会などで発表するよう、参加した薬局にはお願いしています。薬剤師がデータを集めてエビデンスを作り、それを発表するというのは大事なことだと思っています。

─今後はどのように進めますか。

赤沢 これまではパイロット研究の位置付けでしたが、15年度は50薬局で300人の患者に増やしていく予定で、参加する薬局を募集しているところです。それで最低2年間は追跡して、成果をまとめていきます。

─参加した薬局は、費用は持ち出しでやることになるのでしょうか。

赤沢 科学研究費はシステム作りなどに充てるので、そういうことになります。ただ、研究成果を業務に生かしてもらえると思いますし、これまであまり機会がなかった研究に参加して、学会などで発表していただくこともできます。

 「最低2年間追跡する」と言いましたが、今回の研究は、薬局をベースに薬剤師が臨床研究を行うための基盤作りだと考えています。だから、2年でおしまいではなく、構築したシステムを使って、登録した患者さんを10年間ぐらい追跡していければ、もっと色々な成果が示せると思います。

 昨年の調剤報酬改定の際に、長期処方患者へのリフィル制度の導入が議論されましたが、今回の研究の結果を基にして、改めて提案ができるかもしれない。また、現状ではこういう指導をしたら、こういう結果につながったと薬局薬剤師が把握する仕組みがないので、そういうものにも利用してもらいたい。

 実は私は明治薬科大学を卒業しましたが、薬剤師としての仕事はしたことがありません。だから理想論で言うのですが、「薬剤師の仕事は大変だから、フォローまでやらなくていい」というのはおかしい。患者に指導をしたら、その結果を確認するのは当然だと思います。

─薬学教育が6年制になって、臨床研究に対する意識は変化しましたか。

赤沢 6年制では、5年生で実務実習があるので、臨床研究の教育をするのはどうしても難しくなっている面があります。

 ですが、薬局をベースに薬剤師の視点でやれる研究はたくさんある。大事なのは疑問を感じる感性があるかどうかです。例えば、最近おなかが痛いと訴える人が多くいて、「薬の副作用かもしれない」と思った場合に、どういう人が訴えているのかを調べてみればいい。難しい話ではないのです。

 現場の薬剤師だから気付く臨床的な疑問は当然あるし、薬剤師だから解決できる問題もある。だから薬局薬剤師がもっと研究に参画し、その結果が薬剤師の仕事を変えていくようにまでなっていけばいいと思っています。

インタビューを終えて

 「これまで薬剤師に求められたのは、処方箋に従ってきちっと調剤をすることだった。だが今後は、地域住民の健康支援に取り組んだり、臨床研究に携わったりと、より広い役割が求められていくだろう」と赤沢氏は指摘します。ただし、実際にそうした多様な役割の担い手になるには薬剤師が関わる意義をアピールしていかなければなりません。そのためにも、エビデンスを示すデータの取得は薬局薬剤師の重要なテーマになりそうです。(橋本)

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