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DIクイズ1(A)
DIクイズ1:(A)抜歯時にステロイドが追加された理由
日経DI2015年2月号

2015/02/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年2月号 No.208

出題と解答:鈴木 広美、笹嶋 勝
(日本メディカルシステム株式会社[東京都中央区])

A1

長期間のステロイド治療で生理的なステロイド分泌が抑制されていることを考慮し、抜歯ストレスに対応できるよう十分なステロイドを補うため(ステロイドカバー)。

A2

高血糖、不整脈、浮腫といった短期間のステロイド使用で認められる副作用。

 Rさんに追加された処方を一般に「ステロイドカバー」と呼ぶ。健常人の副腎皮質では、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)が1日10~20mg基礎分泌されており、手術や外傷などのストレスが加わると、その分泌量は1日200~300mgに増加する。このストレス反応は視床下部-脳下垂体-副腎(HPA)軸で調整される。

 しかし、ステロイド治療中の患者では、HPA軸が十分に機能せず、内因性の分泌が抑制される可能性がある。そのため、生体がストレスに対応できるよう、薬剤でステロイドを補うステロイドカバーが行われる場合がある。

 ステロイドカバーの必要性は古くから指摘されているが、明確なエビデンスはまだない。国内では2002年に筑波大学の中野らが、ステロイド服用患者の抜歯時管理について報告している1)。これは全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチなどの基礎疾患を持ち、ステロイド服用中の患者50人を評価したもの。

 ステロイドカバーを行わなかった48人中47人でショックなどの有害事象は認めなかったが、1人で術中気分不快の訴えがあった。この患者は、10年以上の長期間、高用量のステロイドを服用していた。血圧低下はなかったが、比較的侵襲度が大きく、長時間の手術だったことからショック前駆症状の可能性が考えられた。ヒドロコルチゾン100mgの静脈内投与が行われた結果、症状は軽快した。

 このように、大部分の症例ではステロイドカバー無しで安全に抜歯できるものの、ステロイドの服用期間が長く、抜歯時のストレスが大きい場合には、ステロイドカバーが必要となる可能性がある。

 ステロイドカバーは、ステロイドを現在1週間以上内服、過去1年以内に3週間以上内服─など、HPA軸抑制が疑われる場合に考慮される。ステロイドを飲み始めたばかりの患者や、短期間の治療でも要注意となる。

 ステロイドの投与量は、ストレス強度に合わせて加減される。Rさんのように内服の場合もあれば、静注(ワンショット、または補液に添加)の場合もある。例えば、大腸内視鏡検査や口腔外科など侵襲・ストレスが軽度の場合は、検査や手術の当日にコルチゾール25mgまたはメチルプレドニゾロン5mgが静注される2)

 Rさんは当日のみでなく、3日間の内服を指示されている。Rさんの主治医は抜歯とはいえストレスの高い手術になると予測しているのであろう。

 Rさんは副作用を心配しているが、ステロイドカバーによる一時的なステロイドの大量投与では、長期使用で危惧される骨粗鬆症などの副作用が急増する心配はない。ただし、ステロイドの短期使用で認められる高血糖、不整脈、浮腫などの副作用は生じ得るので、このことはきちんと伝えたい。さらに、ステロイドの長期使用に伴う副作用を考慮した併用薬がある患者には、併用薬について、どのような指示が出ているかを確認する。

 また、HPA軸抑制が疑われる患者には、ステロイド使用の認識を持たせるべきであり、たとえ抜歯であっても、担当医にステロイドの服用状況を伝える必要がある。また、ステロイド服用中であることをお薬手帳に記載し携帯することが、事故などによるショック時の救命につながると伝えておきたい。

こんな服薬指導を

イラスト:加賀 たえこ

 抜歯をする時には体にストレスが掛かります。その場合、体はステロイドホルモンを多く分泌して、体調が急変しないよう対応しますが、ステロイド治療中の患者さんの中には、このストレス反応がうまく働かない場合があります。そのため、今回、多めのステロイドが追加されたのでしょう。

 ストレス反応として、体内のステロイドホルモン分泌量は通常の10倍以上に増えます。今回Rさんに処方されたのは、それに対応する量とお考えください。なお、服用中にだるさや動悸、むくみなどが生じることがあるので、その際は、お知らせください。

参考文献
1)日本口腔科学会雑誌 2002;51:335-9.
2)外科治療 2008;98:367-71.

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