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特集:薬剤師キャリア考
薬局にこだわらず 外の世界へ飛び出し 活躍の場を広げる
日経DI2015年1月号

2015/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年1月号 No.207

 薬剤師の活躍の場は、薬局以外にも多くある。薬剤師として患者と接する仕事を希望するのであれば、病院薬剤師やクリニカル・リサーチ・コーディネーター(CRC)になる道がある。

 患者と直接関わらないが、何らかの形で医療に携わる道を選ぶ人も少なくない。企業の研究職や開発職に就く、大学で研究員となる、薬学教育に携わって未来の薬剤師を育てる、行政の仕事に携わるといった選択肢もある。マスコミや医療系の広告業界で活躍する薬剤師もいる。さらに弁護士や医師など別の資格を取得し、転身するといった道も考えられる。

 調査の自由回答では、「介護食のプロデュースをしたい」といった新たな事業を目指す人や、「薬剤師が抱える業務上の不便さなどを解決できるソフトウエアを作り、薬剤師がより患者に向き合える環境にしたい」「全国の薬剤師がインターネットを通して情報共有できるツールを作成し、薬剤師の地域差、経験差を解消したい」など、IT系の仕事を希望する声も聞かれた。

 薬局以外に進んでも、薬局で働いた経験を生かしたいと考える人が少なくない。外の世界から薬局や薬剤師業界を盛り上げたいと考える人も多いようだ。薬剤師という国家資格が生かせる道は様々だ。自分のキャリアを考える上では、薬局にとらわれず、広く活躍の場を探してみるのもよいだろう。


病院経験を生かし無菌調剤にも対応
地域に根差した選ばれる薬局にしたい

トモエ(新潟県上越市)代表取締役
高橋 恵氏

 生まれた時から薬局で育ち、物心付いたときには母のような薬剤師になるのだと思っていました。

 卒後は大学院の臨床コースに進学、最初の1年は医学部5年生と一緒に臨床実習(BSL)を行い、残りの1年で研究論文をまとめました。無菌調剤を含め、病院薬剤師の仕事を幅広く体験できました。

 大学院修了後は、色々と経験してみたかったので、薬剤師が60~70人在籍する病院に就職しました。大きな組織で仕事が細分化されており、新人が患者さんに関わる機会はありませんでした。改めて、私は患者さんと接するのが好きだと気付かされました。

 その頃、母から「病院並みの無菌室を作るから、帰ってこない?」と話があり、おもしろそうだと思い、2009年に地元の病院勤務を経て、実家の薬局で働き始めました。その後、母が体調を崩してしまったので、13年に2店舗を承継しました。

 承継後の苦労といえば、全薬剤師の約3分の1が次々と辞めてしまったことです。ピッキングマシンや分包機、電子薬歴の音声入力など、調剤室の機械化を進めてあったこと、また先輩や後輩、近隣薬局の助けを借りることができたことで、何とか乗り切ってきました。本当に感謝しています。

 今後は、さらに病院との連携を深め、退院から在宅まで、高度な医療を切れ目無く提供できるようにすると同時に、患者さんと心を通わせて、地域に根差した選ばれる薬局にしたいです。(談)


CRCとして治験をサポート
薬の知識と症例を見る力が必要

トライアドジャパン(相模原市南区)新薬開発支援部
末次 圭氏

 薬局勤務を経て、医薬品の治験に携わる医師などの業務を支援する治験施設支援機関(SMO)のCRCとして働いています。当社は、精神科領域の治験支援を専門としています。

 CRCの仕事は、症例選びから始まります。まず、治験候補者の疾患や服用薬がその治験のプロトコールに合致しているかを確認。症状のコントロールができていない患者さんや、副作用が出ている患者さんなどについて、治験薬を試すメリットを考え医師に提案し、判断を仰ぎます。そこで了承が得られれば、医師とともに患者さんに説明し、参加の同意を得ます。治験が始まれば、医師の診察前に患者さんと面談し、服薬状況や症状などを確認し、その情報を医師に提供します。医師の診察に立ち会うこともあります。診察後は、来院スケジュールの調整や、飲み忘れや治験中に飲んではいけない薬を飲んでしまって治験中止となったりしないように、患者さんに十分な説明を行います。意外と多いのが書類の作成。最近は国際共同治験が多く、英語での書類作成に苦労する毎日です。

 CRCは、薬に関する知識が必要ですので薬剤師が活躍できる職種だと思いますが、看護師が多いのが実情です。病態を見る力や患者対応力など看護師に学ぶことは多く、薬剤師のCRCの課題だと感じています。

 CRCになって2年。治験に携わった薬が上市されるときには、特段のうれしさがあるのだろうと、今から楽しみにしています。(談)


飲めない患者に薬を出すことに疑問
製薬企業で服薬補助ゼリーを開発

龍角散(東京都千代田区)執行役員
開発本部長、企画開発部部長、国際部部長、マーケティング部部長
福居 篤子氏

 薬剤師になって最初に勤務した病院はとても先進的で、25年以上前ですが既に薬剤師が病棟で仕事をしていました。ベッドサイドや窓口で患者さんの服薬状況を見て、「こんな大きな薬、飲めないだろうな」「薬をご飯に混ぜたら、ご飯がおいしくないのに」と、飲めていない患者さんに薬を出し続けることに薬剤師として疑問を感じました。何とかしたいと思い、製薬企業の研究開発職に転身しました。

 龍角散で最初に手掛けたのは、徐放性製剤「龍角散鼻炎朝夕カプセル」です。当時、徐放性製剤の開発はまだあまり行われておらず、安全性の確立、申請準備など、全て手探りの状態でした。血中濃度の測定も、近所の実験動物を扱う会社に自ら頼みに行ったりしました。また、服薬補助ゼリーの開発の際には、糖衣チョコレートを薬に見立ててゼリーと一緒に飲み込んで実験をしていて、腹痛を起こしたこともあります。

 着実に実績を上げていたのですが、2000年に工場の書類管理部門に異動、これは左遷でした。仕事をさせてもらえなかったので、名城大学薬学部の砂田久一先生の門を叩き、改めて製剤学を学び、8年かけて博士号を取得しました。この頃、支えてくださった方々には本当に感謝しています。

 08年に執行役員になり、今は開発からマーケティング、海外展開、生産まで幅広い業務を担当していて、とてもやりがいを感じています。

 また社外では、日本家庭薬協会の国際委員会の事務局として、日本のOTC薬を海外に紹介する活動などもしています。会社組織という壁を取り払って、薬剤師が団結して活動できればいいと思っています。(談)


薬局で感じた理想と現実のギャップ
医師と薬剤師の相互理解を深めたい

東京大学大学院医学系研究科 医学教育国際研究センター 特任研究員
飯岡 緒美氏

 大学院修士課程で、患者の性格を考慮した服薬指導について研究を始めたのですが、2年で完成しなかったこともあり、研究を継続しながら、診療所に勤務しました。医師1人、看護師1人に私という環境で、何でも聞けたし、私から提案をしたり、今考えると、究極のチーム医療でした。

 5年ほど診療所に勤めた後、市中の薬局に転職したのですが、そこでは医師や他職種と話す機会はなく、患者の病状に関する情報も得られず、愕然としました。大学で学んだことを現場で実践できるかというと、そうではない。チーム医療の重要性が叫ばれても、現場は全く違う─。これらのギャップを埋められないことに葛藤があって、医療者が相互に理解し合える環境を作りたいと強く思うようになりました。

 相互理解にはコミュニケーションが必須です。それを客観的に評価する方法論を知りたくて勉強会に参加したことがきっかけとなり、現在に至っています。東大では科学研究費補助金を得て、 医師-薬剤師間のコミュニケーションに関する研究を行い、現在まとめの段階です。薬剤師にとっては常識でも、医師が知らないことはたくさんあります。今後も、医師と薬剤師の相互理解を深める場を提供する活動に力を入れたいと思っています。

 日常業務で生まれた疑問を解消したいと思ったら、出身大学や研究室にコンタクトを取ってみてはどうでしょう。生涯教育講座のほか、無給ではありますが研究生や研究員になる道もあり、勉強の機会を作れると思います。(談)


国立病院機構から霞が関に出向
現場の声を調剤報酬改定に反映

厚生労働省医薬食品局総務課 主査
清水 崇氏

 国立病院機構の薬剤師には、厚生労働省に出向するチャンスがあります。現在、全国の国立病院機構の病院から20人程度の薬剤師が出向しているのではないかと思います。

 病院に就職した時は行政に興味はなかったのですが、現場で仕事をする上では否が応でも診療報酬や調剤報酬を意識させられます。これらがどうやって決まっているのか知りたくなり、厚労省への出向を希望しました。

 最初の配属は医薬食品局食品安全部基準審査課で、残留農薬の基準を決める業務を担当しました。国の基準がどのようなプロセスで決まるのかが分かり、面白かったです。そして2年後、保険局医療課に異動になり、2014年4月の調剤報酬改定に関わることができました。

 私は病院での経験から、薬剤師も医療従事者の一員として24時間対応すべきと考えていたので、24時間開局の施策実現には力が入りました。このほか、特定保険医療材料の対象拡大や、医療用麻薬を無菌製剤処理加算の対象に含めることなど、現場の様々なニーズを施策に反映できました。医療課での2年間はプレッシャーの連続でしたが、私の仕事人生において大きな財産になったと感じています。

 現在は医薬食品局総務課で予算関連の業務と、薬剤師業務の先進事例の収集を担当。もう少し経験を積んだら、現場に戻るつもりです。どんなエビデンスがあれば国を動かせるかが分かったので、それを現場にフィードバックしたいと考えています。(談)


クライアントをどこまでも守るのが弁護士
患者のための決断を大事にしてほしい

中外合同法律事務所(東京都千代田区) 弁護士
赤羽根 秀宜氏

 薬局で5、6年調剤業務に携わった後、法科大学院に3年間通い、司法試験を受けて弁護士になりました。当時、医療過誤で医師が刑事責任を問われるといった裁判の報道を耳にすることが増え、その多くが医療者に厳しい判決だったことが、法曹界に興味を持つきっかけでした。

 私の周りの医師や医療者は「患者のために」という思いで真剣に医療に取り組んでいましたし、自分もそのつもりで薬剤師として働いていました。医療は、もともとリスクを伴うものです。何か起こったときに、医療者にその責任を過度に負わせる風潮に、違和感を覚えました。事実、そのことが医療崩壊を招き、結果として国民の不利益につながっています。そんな状況を何とかしたいと思ったのです。

 しかし、弁護士として医療裁判に携わっているわけではありません。患者さんと医療者は、病気や怪我に立ち向かうパートナーであるはずです。その両者が争うことは悲しいことであり、どちらの代理人になるのも違うように感じたからです。現在、医療事故が起こったときに、過失の如何に関わらず患者が補償される無過失補償制度の整備が進められています。そのような方向で患者さんが救済される仕組みができればよいと考えています。

 業務としては、一般の弁護士と同様に、企業法務や損害賠償などの訴訟事件、破産や相続などの案件も扱っています。とはいえ、医療を良くしたいという思いは、今も変わっていません。薬局や薬剤師に起きた法的な問題に関するアドバイス、薬剤師の職能を広げる上での法的解釈や、薬局が新たなビジネスを始める上での法的なアドバイスなども行っており、医療をより良くするサポートができたらと思っています。

 法曹界に入って感銘を受けたのは、弁護士には「世界中の人を敵にしても、クライアントを守る」という強い意識があること。そしてクライアントを守るための決断を日々していることです。決断には責任が伴いますが、弁護士はみんなそれを背負って、仕事をしています。私も、今ではそれが当たり前だと思うようになりましたが、薬局にいた時に果たしてそれほど強い思いで患者さんに接することができていたのかと振り返ると、反省させられます。

 クライアントに責任を持ち決断することは、仕事へのやりがいにもつながります。薬局薬剤師にも同じことが求められているのではないでしょうか。ぜひ、患者を守る意識と決断を大事にしてください。(談)

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