DI Onlineのロゴ画像

早川教授の薬歴添削教室
健診で高血圧を指摘された40代女性患者
日経DI2015年1月号

2015/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年01月号 No.207

 今回は、神埼薬局神埼橋店に来局する44歳の女性、石原直美さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。石原さんは、これまで慢性疾患の既往歴はありませんでしたが、勤務先で受けた健康診断で血圧上昇を指摘されて通院を開始しました。約3週間後には、脂質異常症の治療も加わります。

 本症例は、高血圧患者を初診時から包括的かつ継続的に見ていくための観点を学ぶのに適しています。ガイドラインに示されている治療管理の基本方針を適用しつつ、患者の生活習慣や認識をどのように考慮していくべきかを考えながら読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師AとB、症例検討会での発言者が薬剤師CとDおよび薬局実務実習生EとFです。(収録は2014年10月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『薬剤師の視点を連携に生かす「在宅アセスメント」虎の巻』(日経BP、2013)など。

今回の薬局
神埼薬局神埼橋店(佐賀県神埼市)

 神埼薬局神埼橋店は、佐賀県神埼市に5軒の薬局を展開する株式会社神埼薬局が2008年8月に開局した。応需処方箋枚数は月1200枚ほど。病院の内科(循環器、代謝・内分泌、呼吸器)、外科、整形外科からの処方箋を主に応需している。

 神埼橋店に勤務する薬剤師は2人と少ないが、在宅医療にも積極的に取り組んでいる。薬歴は手書きで、SOAP形式により記載している。服薬指導の際は、処方薬の薬物動態や製剤の特徴のほか、患者の嚥下機能や日常生活動作(ADL)、食習慣などの生活習慣にも目を配り、個々の患者の“歴史”が分かるように薬歴を記載することを心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 2011年8月8日と13年1月22日はかぜとインフルエンザで単発的に来局、しばらく間があって、13年11月11日から継続して来局するようになったという状況です。表書きを見ると、11年8月と13年11月の2度にわたり、副作用歴や併用薬などの基本情報を確認し、きちんと記録しています(【1】)。副作用歴の「ボルタレンで顔が腫れた」というのは、どのようにして分かったのですか。

A 患者さんとの会話で分かりました。

早川 きちんと聞き取り、表書きに転記している点は素晴らしいと思います。このほか、勤務先情報の変更も押さえています。では、13年11月11日の薬歴の経過記録を見ていきましょう。「健診で血圧上昇を指摘」という経過を聞き取った上で、「初めての治療で心配そう」とアセスメントしています(【2】)。この「心配そう」について、どのように考えますか。

C 病気の予後が心配なのかなと感じました。「血圧の薬は飲み始めると死ぬまでずっと飲まなければいけない」と心配する人もいます。

B 副作用への心配から、服薬を中止してしまうケースもあるので、アドヒアランス向上につなげていきたいところです。

A 自分の血圧値がどれくらい重症で、どれくらい治療が必要な状態かを知りたがる人もいます。その辺りを話したら安心してもらえるかもしれません。

早川 今のような観点で、次回以降、患者さんの認識を確認していくよう、薬歴のP情報に挙げておくといいでしょう。

 ここまで、「人」の面から見てきましたが、次に、初めて指摘された高血圧という「疾患」の面でアセスメントしていきます。収縮期血圧160mmHgとありますが、これは診察室血圧ですか【3】。

A はい。

早川 一般に、家庭血圧と診察室血圧は約5mmHgの差があるといわれます。測定時の状況など、血圧値に影響を与えている因子はないかを確認します。特に複数の薬剤師が勤務している薬局では、そうした付随情報もきちんと薬歴に記録することが重要です。さて、『高血圧治療ガイドライン2014』に照らし合わせると、この患者の血圧分類は?

E II度です。

早川 そうですね。次に、心血管病のリスク因子と、この患者で当てはまるかどうかを評価していきましょう。「なし」と確認することも大事です。

E 喫煙、飲酒はありません。

C 高齢というリスクも「なし」。

F 脂質異常症もありません。

早川 その他、糖尿病もリスク因子ですが、既往歴から「なし」といえます。

B 慢性腎臓病(CKD)。

早川 代表的な臓器障害としてCKDや心血管障害が挙げられていますが、これらもありませんね。あと、肥満について、体重などのデータは薬歴にはありませんが、外見上はどうでしたか?

A 肥満はありませんでした。

早川 他にリスク因子はありませんか。

C 若年性の心血管疾患の家族歴。

早川 そうです。家族歴は見落とされやすいのですが、高血圧患者の治療管理において必須の確認項目です。

リスク因子の有無を評価

早川 では、4日後、11月15日の薬歴を見ていきます。血圧は156/90mmHgで、「まだ血圧降下不十分」とアセスメントしています【4】。2回目の来局ですので、初回のアセスメント結果も踏まえて、長期的な管理計画について深めていきます。まず、リスクの層別化に関しては、この患者はII度高血圧なので、若年発症の家族歴がなければ「中等リスク」、家族歴があれば「高リスク」と評価できます。次に、患者の病態とリスクの観点から、薬物治療が適切な形で進められているかどうかを評価することが必要です。一般に中等リスクの場合、初診時にはどのような段階を踏んで薬物治療が開始されますか。

E 1カ月の生活習慣の改善指導で140/90mmHgに達しない場合。

早川 家族歴があって高リスクの場合はどうですか。

F 直ちに薬物治療が開始されます。

早川 この患者さんの場合は?

D まずは生活習慣の改善から始めてもいいのかもしれません。

早川 そうなると、既に生活習慣の改善を試みたかどうかが気になりますよね。

B 健診で高血圧を指摘されたのがいつだったかを聞きたいです。

早川 そうですね。健診結果が出てすぐ受診したのか、しばらく食習慣などに注意したのかで治療管理の方針は変わってきます。

C 医師が患者さんにどう説明しているかについても知りたいです。「先生からどのように言われていますか」「食事のことなどで何か注意がありましたか」といった聞き方がいいかもいれません。

早川 それに患者さんがどう答えるかによって、予後や治療への認識や医師の治療方針も探ることができます。血圧の管理目標値としてはどれくらいですか。

E この方の場合、140/90mmHgです。

早川 血圧を140/90mmHgにコントロールすることで、心血管イベントを予防するというのが、ガイドライン上の治療目標となります。では、この患者さんにとっての治療目標は何でしょうか。

D 薬を飲まなくて済むようになること。

A 先生に、「血圧は大丈夫です」と言われて安心したいのかもしれません。

B 健診をきっかけに受診したということは、健康でいたいという思いが強いとも考えられます。

早川 今挙がった治療目標とガイドライン上の目標のすり合わせを行うことで、以後のケアの方針が見えてくるでしょう。

未確認項目を洗い出す

早川 続いて11月30日。ミカルディスが40mgに増量されています【5】。タイミングとしては適切でしょうか。

D 血圧は落ち着いてきているので、20mgのままでよかったとも思います。 C 前回の処方日数から計算すると、受診日が少し遅れています。飲み忘れがあった場合、いつ飲み忘れたかによって、血圧値の見方も変わってきます。

早川 アトルバスタチンの追加は影響していると見ますか。

B ここに来て高コレステロールが発覚したので、血圧ももう少し厳格に管理していこうと医師が考えたのでは。

早川 脂質異常症合併により高血圧のリスクは1段上がりました。高リスクになったというアセスメント結果と、治療の妥当性についても薬歴に記載しておきましょう。増量は不要ではないかという見方でもかまいません。

 さて、脂質異常症についても見ていかなければなりません【6】。今度は『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』に照らし合わせながら、リスク評価を行っていきましょう。どのような項目を確認しますか。

E 冠動脈疾患の既往歴。この患者は「なし」です。

F 糖尿病、CKD。いずれもありません。

B 非心原性脳梗塞や末梢動脈疾患もありません。

早川 44歳女性、喫煙なし。血圧140~160mmHg。10年間の冠動脈疾患死亡の絶対リスクはどれくらいですか。

F 0.5%。

早川 そうですね。ここでは、LDLコレステロール(LDL-C)の値が不明なので、P情報には「LDL-Cの確認」が加わります。その他に評価すべきことは?

B 追加リスク。

早川 そうです。

E 低HDLコレステロール(HDL-C)血症の有無は不明、早発性冠動脈疾患の家族歴も不明、耐糖能障害は「なし」です。

早川 はい。管理目標はどうなりますか。

E カテゴリー1なのでLDL-Cの目標値は160mg/dLです。

早川 仮に低HDL-C血症や早発性冠動脈疾患の家族歴があった場合は?

B カテゴリー2でLDL-Cの目標値は140mg/dLです。

早川 続いて14年1月11日。来局間隔が空いています。S情報に「7~10日分くらい薬が切れていた。日勤・夜勤があり毎日飲めない。昼だと飲める」とあります【7】。

A 来局間隔が空いていたので聞いてみたら、こう話してくれました。

早川 きちんと聞き取れているのは良いですね。患者さんの生活環境を考慮し、処方元に昼服用を提案、次回受診時に反映されることになっています。患者さんにはどう伝えましたか。

A 「お昼の服用でいいですよ」と伝えています。

服薬状況を考慮し薬効評価

早川 そのように、薬剤師自ら判断して対応しているのは良いでしょう。患者さんにメリットをもたらしているわけですから、そのように対応したということを薬歴にも記載しておくとなお良いです。他に気付いたことはありますか。

B 定常状態を考えると、1週間から10日間服用を中止したら効果は切れているはず。もし、その結果血圧が上がっているとしたら、アムロジピンを増量する必要はなかったといえます。

D 前回のミカルディス増量の効果がどれくらいあったかが不明です。

早川 そうですね。降圧薬をきちんと服用していて血圧が下がらないのか、服用していなかったから下がらないのか、大事なポイントです。医師は服薬状況を考慮せず増量した可能性もあります。必要に応じて、薬剤師から医師にアプローチしたり、次の受診までに医師に情報伝達したりするといいでしょう。

A あと、初回来局時に「血圧計を買った方がいいですよね」と聞かれています。この辺りもわれわれが介入する余地はありそうです。

早川 病識を探ることもできますね。実際に血圧計を買ったのならば、一生懸命治療に取り組もうとしているといえます。他に気になることはありますか。

B 仕事の都合もあるのでしょうが、服薬に対する不安がコンプライアンス不良につながっている可能性があります。

早川 そうですね。最初に「心配そう」という言葉が出ていました。このように改めて見ていくと、つながっていきます。仕事の関係で薬が飲めないというのはプロブレムです。不安という要因もあったかもしれません。その辺りの見極めはプランとして記載しておきましょう。

 次は2月7日です。薬剤師が提案したように、昼食後服用に変更されていますね。

B ほぼ飲めていて、コンプライアンスは悪くはないと思います。

早川 血圧も134/90mmHgまで下がっています。さて、S情報の「たまに頭が痛い」という訴えは、患者さんからあったのですか【8】。

B 私はいつも、ここ1カ月の体調変化や食事、睡眠状況を尋ねるようにしています。その中で患者さんの訴えを引き出した形です。

早川 そして、「副作用ではなく血圧上昇によるもの」と薬剤師としての判断を書かれています。良いですね。

B 薬はきちんと飲めているようですし、降圧薬を服用していても血圧が高いことはあります。そうなると、食事が関与しているのではと考えました。副作用ではないと伝え、減塩や食物繊維を積極的に取るよう指導しました。それに対する患者さんの反応を新たなS情報として書いておけばよかったと思います。

早川 きちんと説明していて良いと思います。前回のアセスメントに関連しますが、不安で薬を飲まなくなることを防止するためにしっかり介入できていますね。 次に3月13日に行きましょう。血圧は128/70台と下がってきていますね。ここでも、「友人の姉が半身不随になった。怖いのでしっかり治療したい」という貴重なS情報があります(【9】)。この情報はどう見ますか。

E 知人の話をきっかけに、治療への自覚が上がったと思います。

早川 担当した薬剤師もそうアセスメントしていますね。他に気になることは?

C 前回訴えていた頭痛の経過について、確認してもよかったと思います。

早川 血圧の下がり過ぎがないか、血圧計を使っているかどうかも含めて聞けるとさらに良いかもしれません。「友人の姉が半身不随になった」とありますが、例えばどのような病気が考えられますか。

E 脳梗塞。血圧が絡んできます。

B アテローム性の場合、脂質異常症も関わってきます。

早川 まさにこの患者さん自身の状況に当てはまりますね。病識や薬識を突っ込んで聞けるタイミングといえます。他にどんなことを確認・指導したいですか。

D S情報に「会社でラジオ体操をやっている」とあるので、運動指導を行うチャンスだと思います。

C 血圧の管理目標や、脂質が関係する疾患の説明をしてもいいと思います。

B 前回食事の話をしたので、その反応も知りたいです。

早川 そこから食事指導にもつなげていきたいですね。

A 友人の姉の話が出てきていますが、この患者の家族構成なども聞きたいです。家族歴の有無も未確認なので。

C 不安が強まっている可能性もあります。「血圧は安定しているので心配ない」と伝えると、少し安心してもらえるのではないでしょうか。

早川 不安、服薬コンプライアンス不良、認識不足という一連の問題がつながり、この患者さんの治療管理のポイントが大筋で明らかになりました。

神埼薬局神埼橋店でのオーディットの様子

参加者の感想

千代延 久美子氏

 自分の書いた薬歴を見直す良い機会となりました。つい薬だけを見て服薬指導したり、薬だけのことを考えて薬歴を書いてしまいがちでしたが、きちんと「人」を見て、診療ガイドラインも参照しながら対応していきたいと思いました。そうすればきっと、薬歴を書いていくのも楽しいと思えるようになるし、もっと自信を持って服薬指導に臨めると感じました。


千代延 誠治氏

 自分自身の興味が最近、在宅医療に傾いてしまっていて、病態でいえば終末期や認知症などのことで頭がいっぱいになっていました。今回のオーディットを通じて、最も来局者数の多い疾患についてなおざりになっているなとつくづく反省しました。高血圧や生活習慣病などから重篤な合併症を引き起こしてしまうと、在宅移行を早めてしまいます。健康寿命を延ばすためにも、それらへきちんと対応していきたいと思います。

全体を通して

早川 達氏

 薬歴には、様々な観点でのS情報がしっかりと書かれており、それによって踏み込んだ患者アセスメントができました。加えて、高血圧および脂質異常症という疾患の面から、診療ガイドラインを基にリスク評価や目標設定を行い、それを踏まえて実際の治療評価に関してもアセスメントできたので、より見方が広がったと思います。「薬」だけでなく、「人」「疾患」という面から評価したことで、多面的な見方ができ、さらにこの患者さんに合った形でのケアプランを立てていくことにつながったと思います。

 オーディットを通じて明らかになったように、正確なアセスメントと的確なケアのためにどんな情報が必要かを整理し、それを患者から引き出すことが重要です。そこに薬剤師の力量、薬局の患者ケア力の違いが表れてきます。

 今回の薬歴からは、薬剤師がしっかり臨床判断して対応していることがよく読み取れました。このような姿勢は今後、特に必要とされます。その分、責任も重くなりますが、それを引き受ける覚悟を持っていることも感じられました。このような薬歴であれば、記載上の形式的なことは枝葉末節であり、誰からも不要な指摘を受けることはないでしょう。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ