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漢方のエッセンス
便がコロコロ硬くなる腸燥を治療 習慣性便秘や老人の便秘に適用
日経DI2015年1月号

2015/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年1月号 No.207

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 便秘の症状は、下剤を服用して腸にたまった便を排泄させると解消する。しかし、それは一時的な対処であり、慢性の便秘に対する根本的な対策にはならない。便秘体質である限り、便は再びお腹にたまり、下剤で排便させるという行為を繰り返すことになる。

 漢方では、便秘体質そのものを改善し、慢性的な便秘の治療を行う。麻子仁丸は、そのような処方の一つである。

どんな人に効きますか

 麻子仁丸は、「腸燥便秘、気滞鬱熱」証を改善する処方である。

 便秘には幾つかのタイプがある。それは、腸に熱がこもって便が硬くなる熱秘(ねっぴ)、ストレスなどの影響で腸の蠕動運動がスムーズでなくなり便が停滞する気秘(きひ)、気が不足して下腹に力が入らず便を排泄しづらくなる虚秘(きょひ)、腸が冷えて動きが悪くなるために便が停滞する冷秘(れいひ)、腸管内が乾燥してウサギの糞のようなコロコロした便となる燥秘(そうひ)などである。

 便秘に最も関係が深い臓腑は脾胃である。飲食物は、まず六腑の一つである胃が受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べた物を人体に有用な形(清)に変化させ、五臓の一つである脾に渡す。そして、その残りかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろす(降濁)。脾は、胃から受け取った清を吸収して気血1)を生成し、肺に持ち上げ(昇清)、全身に輸送していく(運化)。

 ところが、消化管(五臓の胃)に熱邪2)が及び(熱結3))、それが燥邪と結び付いて燥熱となって消化管内に停滞すると(腸胃燥熱)、胃中の正常な体液(津液)が減り(胃津不足[いしんふそく])、その影響が脾の運化作用に及ぶことになる。脾には津液を全身に運輸する働きがあるが、胃中の燥熱の影響で津液が全身に運ばれなくなると、腸が潤うことができずに乾燥し(腸燥)、その結果、便が硬くなって便秘となる(大便秘結)。これが「腸燥便秘」である。「気滞鬱熱」は、腸の機能(腸気)が滞り、熱邪が鬱滞している証を指す。胃中に燥熱があり(胃気が強く)、逆に脾は津液不足で胃強脾弱の状態で便秘となっており、このような証を「脾約証(ひやくしょう)」ともいう。

 この証になると、便が腸にたまるので、腹部膨満感が表れる。津液の不足により、唇が乾燥する。全身に運ばれない津液は膀胱に流れ込むので、尿の回数は増える(小便頻数)。多汗となる場合もある。腸管内で水分吸収過多となっていたり、腸の蠕動低下により便の腸内滞在時間が長くなっていたりする状態に相当すると思われる。

 舌はやや乾燥し(燥邪の舌象)、微黄色の舌苔が付着する(熱邪の舌象)。

 臨床応用範囲は、腸燥便秘、気滞鬱熱の症候を呈する疾患で、習慣性便秘、老人や産後、痔疾患者の便秘、痔の手術後の便秘などである。

どんな処方ですか

 配合生薬は、麻子仁(ましにん)、芍薬、杏仁(きょうにん)、大黄、枳実(きじつ)、厚朴の六味である。

 君薬の麻子仁は、脂分を多く含み、脾を養って腸を潤す(滋脾潤腸[じひじゅんちょう])。この結果、腸の乾燥が緩和し、便秘が解消する(潤腸通便)。

 臣薬には、芍薬、杏仁、大黄の三味が当たる。芍薬は、津液や血を補い(養陰血)、さらに肝を養って筋肉の痙攣や緊張を緩和し、脾胃の機能を調和させる(柔肝理脾[じゅうかんりひ])。杏仁は、肺の機能を調え気を正常に降下させて大腸の機能を調整し、燥邪を潤して便通を改善する(潤燥通便)。大黄は、瀉下作用により腸内の熱結を排泄し(瀉下熱結)、消化管の炎症を鎮める。

 佐薬の枳実は、鬱々とした気を開いて気を巡らせること(理気)により、胃腸の蠕動運動を調整し、痙攣を緩め、消化を助け、便通を解消する。同じく佐薬の厚朴は、枳実同様に理気作用を持ち、腹満を解消する(行気除満[こうきじょまん])。枳実と厚朴の働きにより、便通が改善し、排泄が良くなる。また大黄とともに熱結を排泄して気の滞りを解消する(瀉熱行気)。

 芍薬と大黄の組み合わせは熱結の腹痛を、また芍薬と枳実の組み合わせは上腹部(心下部)の腹痛を治療する。大柴胡湯にもみられる配合である。

 丸薬にする場合は、上記の六味を末とし、蜂蜜を加えて製する。蜂蜜は使薬として潤燥通便するとともに、諸薬の薬性を調和する。

 以上、麻子仁丸の効能を「潤腸瀉熱、行気通便」という。主薬の麻子仁が滋脾潤腸し、大黄、枳実、厚朴が瀉熱行気することにより、根本的な治療(本治)と病邪の除去(標治4))の両方を行う処方となっている(攻補兼施[こうほけんし])。これにより津液が充足し、脾約証の治療ができる。脾約証を治療する方剤なので、本方は別名「脾約丸(ひやくがん)」ともいう。

 本方は小承気湯(しょうじょうきとう:大黄、枳実、厚朴)に麻子仁、杏仁、芍薬を加えた組成となっている。小承気湯は気を巡らせて熱結を排泄するが、作用が強く、体力を補う力に欠ける。そこに麻子仁などを加味することにより体力の消耗を防ぐようにしたのが本方といえる。疲れやすい、元気がないなど、気虚の症候もみられる場合は、補中益気湯を併用する。

 便秘を治療する瀉下剤には、熱秘を治す寒下剤、冷秘を治す温下剤、燥秘を治す潤下剤などがある。本方は潤下剤の一つである。清熱作用もあるので、熱秘にも効く。

 漢方では便秘のタイプ(証)によって処方を使い分け、患者の便秘体質を改善していく。便秘体質が改善されれば、下剤に頼ることもなくなる。便秘のタイプに関わりなく一時的に便を排泄させる下剤と、慢性的な便秘を治療する漢方薬とは異なる。

 なお、漢方便秘薬として大黄甘草湯エキス剤が市販されているが、これは一時的に便を排泄させる対症療法薬であり、便秘体質を根本から改善するものではない。

 出典は『傷寒論』である。妊婦には慎重に用いる。

こんな患者さんに…【1】

「下剤を飲まないと便が出ません」

 学生時代から便秘という30歳代の女性。唇が乾燥し、夏でもリップクリームが手放せない。腸燥便秘とみて本方を使用。3カ月目くらいから毎日すっきり便が出るようになった。6カ月後には唇の乾燥や、吹き出物も改善された。

こんな患者さんに…【2】

「便秘と頻尿に困っています」

 70歳代の女性。便はコロコロ便。頻尿は、夜中に3、4回尿意で目覚め、トイレに行くほど。腸燥便秘とみて本方を使用。2カ月後には便の形がよくなり、夜中の尿も1、2回で済むようになった。

用語解説

1)気は人体のあらゆる生理機能を推し進める生命エネルギー。血(けつ)は生命活動に必要な栄養。
2)熱邪、燥邪は、いずれも病気の原因(病因)の一つ。それぞれの文字が表す自然界の現象に似た症候を引き起こす。他に風邪(ふうじゃ)、寒邪、湿邪、暑邪の合計6つがあり、それらを「六淫(ろくいん)」という。外界の温湿度変化など外因との関連もあるが、人体側の抵抗力や体質など内因との関係も大きく、最終的には人体に表れた反応などによって病邪を判断する。
3)熱邪が体内に奥深く侵入した状態。
4)「本」は根本的な病気の原因、「標」は実際に外に表れる症状。本虚の治療を「本治」、標実の治療を「標治」という。

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