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Interview
東京理科大学薬学部教授、薬学教育協議会代表理事 望月 正隆氏
日経DI2015年1月号

2015/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2015年1月号 No.207

もちづき・まさたか
1966年東京大学薬学部卒業、71年東大大学院薬学系研究科博士課程修了。84年共立薬科大学(現慶応義塾大学薬学部)教授、99年同大学学長を兼任、08年東京理科大学教授に就任。05年より薬学教育協議会理事長(現代表理事)を務める。厚生労働省薬事・食品衛生審議会会長などを歴任した。

─本誌調査で、薬剤師に「将来どんな仕事をしたいか」を聞くと、「専門性を持った薬剤師として活躍したい」という声が6割近くに上りました。一方、「将来に希望を持っているか」と聞くと、半数近い人が「持っていない・あまり持っていない」と答えました。薬学教育に長く関わってこられた立場で、こうした結果をどのように思われますか。

望月 多くの薬剤師が、「専門性を持って活躍したい」というのは素晴らしいことです。ただ、少し気になるのは、日本薬剤師研修センターが行っている研修認定薬剤師制度の認定を受ける薬剤師が減ってきていることです。薬剤師は4年制教育の時代から、みんな卒業後に必死に勉強して、尊敬される薬剤師になってきました。卒後教育が重要なのは6年制教育になっても同じです。だから卒業後もしっかり研修して、専門性を高めていってもらいたい。

 それから、将来に希望を持てない薬剤師が多いのは悲しいことですね。薬学教育が6年制になって世の中で評価されると期待していたのが、それほどでもないので「希望を持てない」と言っているのかもしれません。でも1日中薬局の調剤室の中だけで終わっているようでは誰からも評価されません。

 薬剤師に関する制度は今、大きく動いているところです。薬局薬剤師が果たすべき役割としてよく挙げられるのは、在宅とセルフメディケーションです。「在宅は一人薬局ではできない」と言う人もいますが、仲間の薬局とチームで取り組むなど、工夫すれば対応できるはずです。セルフメディケーションも処方箋を持って来局した患者さんにOTC薬を薦めるだけじゃなく、病気が治った後も「あの薬剤師さんは色々教えてくれるから」と言って、病院へ行く前に患者さんが薬局に相談に来るような関係を作っていく。そういうふうに展開すれば、薬剤師は患者さん、国民に近い存在になれるはずです。

 病院でのチーム医療の中でも、薬のことは医師や看護師よりも薬剤師が一番詳しい。だったら、薬剤師がもっと患者さんに近づいていくべきです。そうすれば病院でも薬局でも、薬剤師が患者さんにとって一番身近で、話しやすい存在になれるのだから、薬剤師は将来に希望を持ってほしいですね。

─6年制教育を受けた薬剤師が現場に増えてくれば、将来に対する考え方も変わってくると思われますか。

望月 変わってくると思いますよ。

 今の薬学生は、薬剤師には色々な役割があることを大学の講義では学んでいます。ただ、薬局実務実習を受けに行くと、結局多くの時間は調剤業務となっています。OTC薬も壁際に少し置いているだけのところが多い。在宅にしても、学生には実習の際に、実際に見てきてほしいのですが、そのような機会も多くはありません。

 そういう意味では教育もまだ変えていく必要があります。2015年4月から新モデル・コアカリキュラムに沿った教育が始まるので、それによって薬学生が薬剤師の役割をしっかり理解し、社会に出たときにその価値を人に伝えられるようになっていければいいと思います。そうすれば、薬剤師って素晴らしい職業だということが、みんなに伝わっていくと思います。

─現状では、まだ6年制に変更した意図が現場に十分浸透していないということでしょうか。

望月 そうですね。6年制薬学教育を受けた薬剤師などを対象に行った調査事業「6年制薬学教育で養成した薬剤師及び教育体制の評価に関する調査研究報告書」(13年度、報告書は薬学教育協議会のホームページで公開)を見ても、6年制を卒業した薬剤師に対する評価は変化しつつある段階で、まだ時間が掛かりそうです。

 例えば、6年制になって大学の授業で力を入れてきたことに、コミュニケーション教育があります。かつて、薬局薬剤師は調剤をやっていればいいという雰囲気があり、その結果、患者さんとのコミュニケーションが疎かになっていたので、注力することにしました。

 ところが、先ほど紹介した6年制薬学教育に関する調査では、薬局経営者や病院の部門長から、コミュニケーション能力と倫理観が不足していると指摘されました。この結果は少しショックでした。新しい6年制教育では、ヒューマニズムとコミュニケーションを6年間にわたって学ぶということで、スモールグループディスカッションなど行ってきた結果、よく育ったと思っていたものですから。結局、学生同士だとできることでも、社会に出るとうまくできないということかもしれません。コミュニケーション教育をもっと充実させなければならないと思っています。

─ところで、薬剤師に「どういうキャリアを積んでいきたいか」といった話をしても、「キャリア」という言葉にピンとこないと言われることがあります。

望月 薬剤師は国家資格ですから。だから、資格を取ったらそれで安心してしまうところがある。しかし、それでは少し寂しいですね。

 薬剤師の資格を取ると病院や薬局の現場で働くことだけをイメージしがちですが、教育に携わるとか、企業で研究する、行政に行くなど、幅広い選択肢があります。そういうところに積極的に飛び込んでいって、世の中を引っ張る人が出てくればもっと変わってくるのだと思います。

 今は6年制を卒業した薬剤師を、製薬企業が採用したいと言ってくることが結構あります。もちろん企業は、4年制の薬学部を卒業して大学院を出た者も欲しいと言ってきます。そうやって創薬研究を目指す者と、薬の臨床開発に関わる者、その薬を患者に出す立場の者が連携していけば、薬学は新しい方向に発展していくだろうし、日本の製薬企業も大きく伸びると思います。ただ、まだそういうレベルにはたどり着いていません。

 6年制を卒業して博士課程に進学する者もまだそれほど多くはいません。将来的には6年制の薬学教育は、6年制の教育を受けた人にやってほしい。医学部では卒業した後、大学に残ったり、病院に行っても後輩の指導をすることが当然のように行われていますが、薬学部ではまだそのような仕組みができていません。

─6年制の教育を受けた学生が進路などを考える際、ロールモデルになる人がまだそれほどいないからですか。

望月 6年制が始まってまだ8年です。でも博士課程に進む者が出てきていますから、そういう人がどんな領域で活躍をするかで変わってくると思います。

 ただし、多方面で活躍する際に重要なのは、「患者さんあっての薬剤師だ」ということを忘れないことです。創薬研究をするにしても、教育に携わったり、行政の仕事をするにしても、患者志向を貫くことが大事だと思います。

インタビューを終えて

 共立薬科大学の学長就任以来10年以上にわたって薬学教育に関わり、05年からは全国の国公私立薬系大学と薬学関係団体で構成する薬学教育協議会の理事長を務めてきた望月氏。インタビュー中の柔和な表情や穏やかな語り口からは想像しにくいですが、新設大学・薬学部の急増やそれに伴う定員割れ、6年制教育への移行などといった波にもまれながらも一環してリーダーシップを発揮してきただけあって、実は相当なタフネゴシエーターなのだとお見受けしました。(橋本)

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