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特集:
末梢神経障害
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年11月号 No.205

 指先や足の裏がピリピリとしびれる、痛い─。化学療法を受けている患者がこのように訴えることは多い。これは抗癌剤による末梢神経障害の典型的な症状で、抗癌剤が神経細胞を傷害することで生じると考えられている。

 国立がん研究センター中央病院薬剤部主任薬剤師の橋本浩伸氏は、「末梢神経障害は原因がはっきりしていないことに加え、確立した支持療法もないため、他の副作用に比べて治療に難渋しやすい」と話す。このため、末梢神経障害に使用される薬剤の種類は多岐にわたり、その多くが適応外で使われているのが実状だ。

 末梢神経障害への対策として現状最も多く使用される薬剤に、プレガバリン(リリカ)が挙がる。プレガバリンはシナプス前のカルシウムチャネルを遮断して、神経伝達物質の遊離・放出を抑制することで神経興奮を抑える。

 「プレガバリンは“効く”というよりも、副作用が少なくて使いやすいため、消去法で選ばれている。適応に神経障害性疼痛があり、その面でも使いやすいということだろう」(橋本氏)。国内の学会では、末梢神経障害に対する支持療法としての使用経験が数多く報告されている。

 プレガバリンが登場する前はガバペンチン(ガバペン)が同じ作用機序を持つ薬剤としてよく使用されてきたが、橋本氏は「ガバペンチンはほぼ無効という報告が複数出た時期があり、ここ4~5年は見なくなった」と話す。他の抗てんかん薬も副作用が無視できず、現在はより使いやすいプレガバリンに置き換わっている。

 プレガバリンは150mgを分2で開始し、次クールの化学療法のタイミングで300mg分2に増量するなどの処方が行われる。このあたりは通常の用法とさして変わらないが、眠気やふらつき防止のため、または患者に腎障害がある場合などに50mgや100mgから始めることもある。橋本氏は、「予防的には投与されず、多くの場合は抗癌剤初回投与後1.5~2カ月後くらいに、抗癌剤の毒性蓄積によって症状が出始めてから使われる」と解説する。

 プレガバリンに次いでよく使用されるのが、デュロキセチン(サインバルタ)。プレガバリンで効果が不十分な場合にこちらに切り替える、というように使われ、プレガバリンと併用することもあり得る。

 「デュロキセチンは、米国臨床腫瘍学会でプラセボと比較した試験結果(編集部注、JAMA.2013;309:1359-67.)が報告され、痛みが軽減する効果が示された。エビデンス的には比較的きちんとしたものがあり、医師が使用を検討しやすい」と橋本氏は語る。

 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるデュロキセチンは、セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで神経伝達を活性化させ、下行性の痛覚抑制が増強すると考えられている。もともと糖尿病性神経障害に伴う疼痛が適応にあることもあり、慢性疼痛領域でもよく使用される。

 デュロキセチンの副作用として真っ先に挙がるのは吐き気。橋本氏は、「吐き気が出てしまうために服用をやめてしまう患者も結構多い」という。このため、モサプリドクエン酸塩(ガスモチン他)やドンペリドン(ナウゼリン)などが制吐目的で一緒に処方されることもあるようだ。服用を続けると吐き気も収まるため、1週間程度は制吐薬を併用しながら飲み続けてみるよう指導するといい。

 デュロキセチンの用法は、通常用法と同じく20mgから始め、次クールの化学療法のタイミングで増量するというパターンが多いという。橋本氏によると、「抗癌剤の初回投与後1.5~2カ月後から出始める。最初にプレガバリンを出し、その効果を見極めてからデュロキセチンに切り替えるケースもある」という。

 アミトリプチリン塩酸塩(トリプタノール、ノーマルン)に代表される三環系抗うつ薬は、プレガバリンやデュロキセチンが登場する前によく使用された。抗コリン作用が強いものが多く、口渇や便秘、眠気などの副作用が服用初期から出る患者が多いのが難点だ。このため、上記2つの薬剤で治療が困難な場合に選択されることが多い。

 とはいえ、プレガバリンやデュロキセチンに比べて鎮痛効果が強いのも事実で、処方される機会は少なくない。表2は、神経障害性疼痛に対する各薬剤の有効性をまとめた表。三環系抗うつ薬はNNT(治療必要数:効果を示すために必要な投与人数)がSNRIやガバペンチンよりも小さく、効果が高いことが分かる。

表2 鎮痛補助薬の治療必要数(NNT)

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 作用機序はデュロキセチンと同様で、下行抑制系を活性化させて痛みを和らげる。同じ三環系抗うつ薬のアモキサピン(アモキサン)は、アミトリプチリンよりも抗コリン作用が弱く、安全性を優先する場合に選ばれるようだ。

 なお、三環系抗うつ薬は効果が発現するまで時間が掛かり、2~3週間ほど継続しなければ効果が判明しにくい。一方で副作用はそれより早期に出始めることが多いため、こうした特性を患者に説明しておく必要があるだろう。

 末梢神経障害に対しては、漢方薬もよく処方される。代表的な方剤が牛車腎気丸と芍薬甘草湯だ(「その他」参照)。癌患者の漢方薬治療に詳しい、国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野分野長の上園保仁氏は、「牛車腎気丸に含まれる附子には鎮痛作用があり、地黄には神経保護作用がある。芍薬甘草湯には芍薬にカルシウムチャネルを遮断する成分が含まれている」と解説する。

 このため、使用方法はそれぞれ若干異なる。「牛車腎気丸は早めに服用して神経を保護しておくのが望ましく、抗癌剤投与の数日前から服用し、抗癌剤投与の1時間ほど前にも服用しておくのが理想的。また、芍薬甘草湯は甘草を含有していることもあり、頓用が適している」と話す。牛車腎気丸に附子末を0.5gずつ追加していく処方もある。

 このほか、ビタミンB6(適応に末梢神経炎)や、ビタミンB12(適応に末梢神経障害)なども投与される。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は癌の疼痛に使用されることが多い。また、オピオイドは「患者が敬遠しがちで、中枢系に効く薬剤でもあり処方例はあまり見ない」(橋本氏)。

 なお、末梢神経障害に使う鎮痛補助薬にはめまいやふらつきなどの副作用を持つものが多い。多剤併用例では特に、転倒リスクへの注意喚起を行っておこう。

 また、効果が実感できず飲むのをやめたがる患者も結構いる。橋本氏は「やめて構わないのだが、その後症状が悪化しないか薬局でも確認してほしい。実は効いているのに、やめて悪化するケースも結構ある」と話している。

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