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CaseStudy
長崎県薬剤師会(長崎市)
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

 安全にお薬をお渡しするために検査値をお尋ねします─。長崎県薬剤師会の会員薬局には、そう書かれたポスター(写真1)が貼られ、窓口で「お薬をより安全に使用するために、腎臓の働きを確認させてください」と患者に声を掛ける薬剤師の姿が見られる。

写真1 長崎県薬剤師会が作成したポスター

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約1割の薬が腎排泄型

 同県薬では2014年1月、腎機能に着目した処方監査の取り組みをスタートさせた。患者から身長、体重、血清クレアチニン値を聞いて腎機能を評価し、注意すべき薬が適切に処方されているかを確認し、副作用を未然に防ごうという取り組みだ。「薬局薬剤師が取り組むべきことはたくさんあるが、特に薬の適正使用への関与は重要であり、その基本である処方監査について、県薬としてできる強化策はないかと考えた」と長崎県薬剤師会疾病対策委員長の天本耕一郎氏は話す。

「処方監査は薬剤師の務め。全ての薬局で腎機能情報を用いた監査をしてほしい」と天本耕一郎氏。

 腎機能情報を用いた処方監査に着目した理由について、県薬会長の宮崎長一郎氏は「現在、承認されている2500成分のうち、腎排泄型のものは約220成分もある。それらは、腎機能が低下した患者には注意が必要だが、薬局で確実にチェックできているとはいえない」と説明する。

「県内の多くの薬局が積極的に腎機能情報を用いた監査を実施している」と話す宮崎長一郎氏。

 例えば、添付文書に「透析患者を含む高度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者には禁忌」といった記載や、クレアチニンクリアランス値(CCr)によって投与量が示されている薬については、患者から検査値を聞かない限り、チェックができない。最近は、検査値を記載した院外処方箋を発行する病院や、患者に検査値を聞いて服薬指導に生かす薬局もあるが、「限られた薬局だけではなく、全薬局で腎機能情報を基にした処方監査を通常業務として根付かせたいと考えた」と天本氏は説明する。

 そこで県薬では、(1)患者に身長、体重、腎機能(クレアチニン値)を聞く、(2)それらの値を元に腎機能を評価する、(3)腎機能低下患者に注意すべき薬剤、投与制限がある薬が含まれていないかを確認する、(4)必要に応じて疑義照会する─といった手順を示し、「とにかくクレアチニン値を聞いてみよう」と呼び掛けた。

 なお、この取り組みは、長崎県の事業として2013年度厚生労働省「薬物療法提供体制強化事業」に採択され、県からの委託事業という形で、同県薬剤師会が長崎県医師会の協力を得て実施した。

ポスターなどで理解を得る

 各薬局では、まず患者から身長、体重、クレアチニン値を聞くことから始めるが、実際には「検査値の紙を持っていますか」と聞き、見せてもらう。最近は、多くの医療機関で検査値を書いた紙を患者に渡しているからだ。「血液検査を受けていればほとんどの場合、血清クレアチニンも測っている」と常務理事の七種均氏は言う。

「薬局でも検査値が分かる時代になったときにも対応できるように、今から備えてほしい」と話す七種均氏。

 ただし患者は、薬局で検査値を聞かれることに慣れていない。そこで患者の理解を得るために、会では患者向けのポスターを作成。安全に薬を渡すためには身長、体重、血清クレアチニン値を尋ねる必要があると訴求し、患者から聞き出しやすくした。さらに、「なぜ、検査値が必要なのか」との患者の質問に答えるリーフレットも用意し会員薬局に配布した(写真2)。

写真2 患者への説明用リーフレット

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 薬局では、患者から聞いた情報を基に腎機能を評価し、処方をチェックする。その際に必要となるのは、腎機能に関する知識だ。添付文書上で汎用されているのは、CCrだが、実測のCCrは、24時間の蓄尿が必要など検査が簡便とはいえず、腎不全などで腎機能の正確な評価が必要な患者以外には実施されることが少ない。

 腎機能、腎糸球体機能のスクリーニングには、測定が簡便な血清クレアチニンの検査が広く行われている。薬局では血清クレアチニン値と、患者の性別、年齢、身長、体重からCCrを推算する必要がある。

 それらの知識とスキルを身に付けてもらうために、県薬では慢性腎臓病(CKD)の知識やCCrの推算方法、腎機能低下時に注意が必要となる薬の一覧などをまとめた研修会用テキストを作成(写真3)。研修会を県内3カ所で実施し、計279人の会員薬剤師が参加した。

写真3 研修会の様子と研修用テキスト

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4割近くの患者が要注意

 さらに、長崎県薬剤師会は薬物療法提供体制強化事業の広報用サイトを作成(写真4)。医師や一般の人に事業内容を紹介するとともに、会員のみがアクセスできる事例報告用ページを作成し、患者の性別、年齢、身長、体重、血清クレアチニン値を入力すると、eGFR(推算糸球体濾過量)とCCrが表示される仕組みを設けた。これを使えば、簡単にCCrが分かる。また、腎排泄型薬剤の処方や疑義照会、疑義照会後の処方変更の有無などの必要事項を入力して送信ボタンを押すと、データが県薬に届く仕組みとした。

写真4 会員向けに作られた事例報告用のページ

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 県薬では、2月17日~3月17日までの1カ月間に、約100軒の薬局から寄せられた872人の患者データを集計。その結果、正常または軽度腎機能障害(CCr≧50mL/min)の患者は57.8%、中等度(30≦CCr<50)が27.9%、重度・末期腎不全(CCr<30 mL/min)10.7%だった。つまり、腎排泄型薬剤の服用に注意を要する、腎機能障害が中等度以上の患者が4割近くも存在することが分かった。

 そのうち薬剤師が腎機能情報を基に疑義照会を行ったのは3.1%の28件だった。処方変更に至ったものは15件。「処方が変更にならなかったケースでも、医師に対して何らかの注意喚起につながっているはず」と宮崎氏。積極的に伝えていくことが大切だという。

尋ねるうちに患者にも根付く

 どりぃむ薬局(長崎市)の井上和秀氏は、「以前は、患者を診ている医師への遠慮もあり、よほど気になる患者以外は、腎に関する検査値は聞きにくかった。この取り組みによって、薬剤師が腎機能情報に基づいて処方をチェックすることが、患者や医師にも知られるようになり、気兼ねなく患者に聞き、疑義照会できるようになった」と話す。

この取り組みを行うことで「ほかの検査値も聞きやすくなった」と話す、どりぃむ薬局の井上和秀氏。

 最初は、「なぜ薬剤師がそんなことを聞くのか」といった反応が多かったが、「最近では、薬剤師が求めなくても検査値を見せてくれる患者も増えている。繰り返すことで、薬剤師に検査値を示すことが患者にも根付いていけば」と井上氏は期待する。

 井上氏は、中耳炎で耳鼻科を受診した70代女性のケースに遭遇した。セフゾン(一般名セフジニル)300mg/日が処方されており、CCrを推算すると30mL/min以下だったことから、耳鼻科医に連絡。処方が中止となった。「腎機能をあまり気にしていない医師もいるので、薬局でしっかり確認していくべき」と井上氏は話す。

 そのためには、血清クレアチニン値やCCrなどを薬歴に記載しておくことも大切だ。検査値を経時的に見るためでもあるが、「整形外科や耳鼻科に初めて受診した場合などには、血液検査をせずに薬が出ることもある。薬歴に他科で検査した値が書かれていれば参考にできる」(井上氏)。

 宮崎氏は、「患者にクレアチニン値を聞いてみてほしい。10人に聞けば必ず何人かに腎機能の低下が見られるはず。ぜひ多くの薬局でも取り組んでほしい」と話す。

 県薬としては、腎排泄型の薬剤がすぐに調べられるように検索機能を事例報告用サイトに加えるなど、さらに会員薬局が取り組みやすい形にしていく予定だ。(坂井 恵)

表 腎機能評価に基づいて疑義照会を行ったケースの例

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