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特集:
悪心・嘔吐
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

 悪心・嘔吐は、抗癌剤の副作用のうち最も頻度が高いとされ、化学療法を受ける患者ではほぼ必発ともいわれる。使用される主な薬剤はステロイド、ニューロキニン(NK)1受容体拮抗薬、セロトニン5HT3受容体拮抗薬で、これらは制吐薬の「三種の神器」と呼ばれ、処方箋に記載があれば化学療法を受けていることがうかがえる。ただし、補助的に使われる薬剤の種類もかなり多く、それらのみ記載された処方箋だと判断が難しい。

 制吐を目的とした支持療法については、日本癌治療学会が「制吐薬適正使用ガイドライン」を公表している。抗癌剤それぞれの催吐性リスクに応じた標準的な支持療法が記載されているので、一度は目を通しておこう。

ステロイド大量療法が基本

 最も頻用されるのがステロイド。「デキサメタゾンの大量療法は、抗癌剤の悪心・嘔吐対策として、薬局で目にする頻度が最も高い」と語るのは、国立がん研究センター東病院薬剤部調剤主任の松井礼子氏だ。

 デキサメタゾン(デカドロン)で1日4~8mg(0.5mg×8~16錠)という大量のステロイドを、2~4日間、1日1~2回で服用するのが、悪心・嘔吐への支持療法としての代表的な使い方。悪心・嘔吐を抑える機序は不明だが、使用経験が多くエビデンスが充実しており、前述のガイドラインでも標準治療薬となっている。

 松井氏は、「時には1日16mg(0.5mg×32錠)で出ることもあり、あまりに大量のステロイドなので、初めて処方箋を受けた薬剤師はたいてい驚く」と話す。もし支持療法であることを知らなければ、冒頭のAさんの処方箋を受けた薬剤師のように、“ステロイドの量が間違っていないか”などと、疑義照会をしてしまうかもしれない。

 「疑義照会してくれるのはいいが、不適切な服薬指導が行われると困る」と松井氏。薬局で「ステロイドは副作用が強いのであまり飲まない方がいいんですけどね」などと説明され、患者が不安を感じたという事例が複数あるという。松井氏は、「悪心・嘔吐対策のデキサメタゾンの服用日数は2~4日なので、その程度ならよくいわれるような副作用は心配しないでいい」と話す。支持療法の基本となる薬剤で、不安をあおる安易な指導は避けたいところだ。

 もっとも、ステロイドは悪心・嘔吐以外にも様々な目的で使用されることがあるので、ステロイド大量療法イコール化学療法直後の吐き気止め、と決めてかからないよう注意が必要だ。例えば、食欲不振や全身倦怠感の改善、腫瘍による疼痛の緩和、癌脳転移に伴う脳浮腫の改善などにも使われることがある。処方量は患者の状態などにもよるが、デキサメタゾンやベタメタゾン(リンデロン他)などをともに4mg/日前後で使用することもなくはない。悪心・嘔吐で使用するのは常用で2~4日が多いため、それより長期の処方なら、処方目的についてどう説明されているかを患者に確認すべきだ。

 ちなみに、デカドロンは4mg錠が14年6月に発売された。4mg錠を使えば服用錠数が大幅に減るため服薬しやすくなるが、0.5mg錠と4mg錠は形と大きさが似ているので、調剤時に取り違えがないように注意したい。

 なお、デキサメタゾンと一緒に、アズレンスルホン酸・Lグルタミン(マーズレンS他)やファモチジン(ガスター他)といった胃炎の薬が出されることも多い。これは、デキサメタゾンによる胃粘膜障害の予防を主な目的としている。

イメンドは“いつ飲むか”しっかり確認

 アプレピタント(イメンド)は、ステロイドと並ぶ代表的な制吐薬で、悪心・嘔吐の原因となるNK1受容体への刺激を減弱させて吐き気を予防するのに用いられる。ステロイドと併用することが多いが、単独の場合もある。

 薬局でよく目にする処方箋には上記の2パターンがある。アプレピタントには125mgと80mgの剤形があり、125mgは通常、抗癌剤の点滴1~1.5時間前に服用し、80mgは2日目、3日目に1回ずつ飲む。イメンドカプセルセットは、125mg×1、80mg×2が1シートになっている。

 アプレピタントも支持療法の処方であることはすぐに分かるが、服薬指導時に落とし穴がある。ミキ薬局日暮里店(東京都荒川区)店長の長久保久仁子氏(インタビューを掲載)は、「イメンドがセットで処方されている場合、125mgカプセルをいつ飲むよう説明されているかの確認が必要。これからすぐ飲んで病院で点滴を受けることもあれば、125mgカプセルだけ次回病院に持参し、点滴前に服用することもある」と指摘する。また、125mgカプセルのみ、化学療法の施行前に病院で交付するケースもあり、その場合処方箋には80mgカプセル2日分が記載される。

 また、80mgカプセルは通常、午前中に服用することになっているが、もし化学療法が午後に行われるなどによって最初の125mgカプセルを午後に服用した場合、2日目以降の80mgカプセルも午後に服用するよう指示される場合がある。処方箋に朝食後と書かれていても、口頭で服用時点が指示されていないかを確認しよう。

5HT3受容体拮抗薬は頓用もあり

 「三種の神器」のうち、5HT3受容体拮抗薬は、基本的に抗癌剤投与前に注射で投与されることが多く、その場合は長時間作用する注射薬のパロノセトロン(アロキシ)が主に用いられる。ただし、パロノセトロンの代わりに経口薬のオンダンセトロン(ゾフラン)やグラニセトロン(カイトリル他)などの薬が出されることもあり、その場合は次回病院に持参するように指示されていることがあるので、アプレピタントと同様に服用方法に注意する。

 そのほか、抗癌剤投与後5日間程度の短期間は、遅延性の悪心・嘔吐が出やすい。その対策として、上記のように常用または頓用で飲むために5HT3受容体拮抗薬が出されることもある。いずれにしても、適切に服薬指導するには、使用方法の確認が必要だ。

突出性の悪心・嘔吐にD2受容体拮抗薬

 ステロイドなどのような制吐薬を予防投与しても出現・継続する吐き気を、突出性悪心・嘔吐と呼ぶ。その抑制のために行われる支持療法が上記の処方。メトクロプラミド(プリンペラン他)、ドンペリドン(ナウゼリン他)、プロクロルペラジンマレイン酸塩(ノバミン)などのD2受容体拮抗薬がよく用いられる。

 D2受容体拮抗薬は、消化管においてD2受容体を遮断してアセチルコリンの放出を促し、消化管蠕動を促進させて悪心・嘔吐を抑制する。また、中枢のD2受容体を遮断するタイプの薬剤は、延髄にある化学受容器引き金帯(CTZ)のD2受容体を遮断して嘔吐刺激の発生を抑制する作用を有する。

 これらの薬剤はアプレピタントや大量のステロイドなどと一緒に出されれば制吐目的であるとの推測も容易だが、催吐性リスクが軽度の抗癌剤ではそれらのみ単剤で出されることも考えられ、「単なる胃炎や潰瘍の薬と思っていたら、実は支持療法の薬だった」というケースが十分にある。

 松井氏は、「メトクロプラミドなどは、常用でも頓用でも出されることがある。常用だと胃炎のための処方も考えられるが、頓用の場合は嘔吐抑制のためによく使われる用法なので、支持療法を見抜くポイントになる」と語る。

 また、D2受容体遮断作用を持つ抗精神病薬のオランザピン(ジプレキサ)も、制吐目的で使用されることがある。がん研有明病院の鈴木氏は、「以前はハロペリドール(セレネース他)が使用されていたが、副作用が発生しやすいため減ってきたという印象。代わりにプロクロルペラジンがよく使われ、最近ではオランザピンも使われるようになっている」と話す。オランザピンについては、海外でエビデンスが集積しつつある。ただ、「オランザピンは海外の試験で10mg/日が使用されているが、日本では、2.5mg~5mg/日を使うのが大半だろう」と話す。

 D2受容体拮抗薬も抗精神病薬も、頓用する際は常用時の1日の上限と投与間隔を逸脱しないようにする旨を服薬指導すべきだ。特に抗精神病薬では、患者指導時に精神病の薬であることを安易に説明しないよう注意したいところ。また、次回来局時以降は、錐体外路症状などの副作用が出ていないか、薬局でも継続的に確認しよう。

抗不安薬は予期性嘔吐に事前投与多い

 抗癌剤で悪心・嘔吐が出た患者では、次回の抗癌剤投与時にあらかじめ吐き気を催す場合がある。これを予期性嘔吐といい、その予防薬が処方されることもある。

 代表的な薬剤は、ロラゼパム(ワイパックス他)やアルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス他)などのベンゾジアゼピン系抗不安薬。不安を和らげることで、心因的な要因から来る悪心・嘔吐を抑制する。ただし、突出性の悪心・嘔吐にもしばしば使われる。予期性嘔吐に用いる場合、抗癌剤の投与を受ける前日や、病院で投与直前に飲むなどの使い方をするので、服用時点の確認が必要だ。

抗ヒスタミン薬は過敏症抑制にも使う

 抗ヒスタミン薬も、悪心・嘔吐の抑制目的で投与されることがある。代表的なものとして、ジフェンヒドラミン塩酸塩(ベナ、レスタミンコーワ)やその配合薬(トラベルミン)などが挙げられる。抗ヒスタミン薬は、H1受容体拮抗作用が嘔吐中枢に働くことで悪心・嘔吐を抑える。トラベルミンは特に、体や頭を動かした際に出現する体動性の悪心・嘔吐がある場合に処方されることが多いようだ。第二世代の抗ヒスタミン薬では血液脳関門を通過しにくいため制吐作用は期待できず、そう痒など他の目的が考えられる。

 一方、ジフェンヒドラミンは1回10mg×5錠が1日分で出されることもあり、その場合は次回病院に持参し、点滴直前に服用するよう指示されていることがある。この場合、悪心・嘔吐の抑制というよりも、抗癌剤の投与時に生じる過敏症全体を予防するのが目的だ。それと同時にH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬が使われることもある。

 つくし薬局の片倉氏は「ジフェンヒドラミンは、処方箋に服用日や指示がきちんと書かれていないこともあり得る。その場合、いつ服用するよう指示されているか、確認しておいた方がいい」とアドバイスする。

 なお、来局した患者は、当日の予防投薬が奏効して「吐き気は問題ない」と答える患者が多いが、翌日以降に悪心・嘔吐が出る可能性を説明しておくべきだ。また、食事についても留意したい。片倉氏は「癌患者は闘病のため体力を付けようと頑張る人が多いが、化学療法の前日にたくさんの量を食べるとそれが元で嘔吐しやすくなる。前日は食べ過ぎないよう指導するのが大切だ」と話している。

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