DI Onlineのロゴ画像

Dr.名郷が選ぶ 知っていてほしい注目論文
インフルエンザワクチンを接種すると、心臓病のリスクを減らせるか?
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

名郷直樹
武蔵国分寺公園クリニック(東京都国分寺市)院長

1986年自治医科大学医学部卒業。東京北社会保険病院(東京都北区)臨床研修センター長などを経て2011年に開業。エビデンスに基づく医療(EBM)の考え方を日本でいち早く取り入れ、普及に努めてきた。著書も多数。CMEC-TVでもEBM情報を配信中。

 毎年この季節になると、インフルエンザワクチンを打ったのにインフルエンザにかかってしまったといって受診する患者がいる。ワクチンの効果を疑わしく思っている人は、決して珍しくないようだ。だが、インフルエンザワクチンの効果は、インフルエンザの発症予防にとどまらないというのが、今回紹介する論文だ。

 成人(うち36.2%に心疾患の既往あり)を対象に、インフルエンザワクチンの接種が心血管イベントを予防するかどうかを検討したランダム化比較試験のメタアナリシスでは、相対リスク0.64(95%信頼区間0.48~0.86)と、効果を少なめに見積もっても心血管イベントを14%減らすという結果であった。

表1 ワクチン群と対照(プラセボまたはワクチンなし)群における主要な心血管イベントの発生と相対リスク

画像のタップで拡大表示

 この研究では6件のランダム化比較試験が選択基準を満たしたが、統合されたのはそのうち5件だった(除外された1件はイランで行われた未発表の研究)(図1)。5件のうち2件は質が高く、2件は低く、1件は確定できなかった。

図1 ワクチン群と対照(プラセボまたはワクチンなし)群における主要な心血管イベントの発生のメタアナリシス

画像のタップで拡大表示

 バイアスのリスクが低いと判定された2件の論文における相対リスクはそれぞれ0.55と1.00で、相反する結果になっていた。ただ、後者の論文では、心疾患を持つ人が16.2%しか含まれておらず、心疾患を持つ人での効果を検討するには不十分かもしれない。

 急性冠症候群の罹患後1年以内の患者を対象とした3件(FLUVACS、FLUCAD、Phrommintikul,et.al.)に絞って分析したところ、相対リスク0.45(0.32~0.63)と、さらに大きな効果がある可能性が示唆される。サブグループ分析の結果ではあるが、これまでの観察研究の結果と一致することから考えると、怪しいサブグループ分析とは言えないだろう。

 ワクチンのコストと副作用を考慮すれば、冠動脈疾患罹患後1年以内の人に対してインフルエンザワクチンを勧めることは、単にインフルエンザの予防というだけでなく、心筋梗塞再発予防の観点からも、日々の内服薬の継続と同程度の効果が期待でき、積極的に勧められると考える。


 インフルエンザワクチンの一般的な効果に関するメタアナリシスの結果も見ておこう。検討したアウトカムの種類によって、統合した研究の数が異なる。

 インフルエンザ様症状(確定例ではない)の発症に関しては、相対リスク0.83(0.78~0.87)、インフルエンザ確定例の発症では0.38(0.33~0.44)で、いずれも統計学的に有意な効果があった。インフルエンザ様疾患の中には、インフルエンザ以外のものも含まれていることを考えると、前者の相対リスク0.83というのは、効果を過小評価しているかもしれない。

 一方、入院(0.96[0.85~1.08])や就業できない日数(平均差ー0.04[ー0.14~0.06])に関しては、明確な効果が見られなかった。だが、前述の論文を考慮すれば、健常者では入院を要するような事態がそもそも少ないためのβエラー(本当は差があるのに、ぼんやりしていて差がないと誤って判定してしまう過誤、第2種の過誤)と考えるのが妥当ではないだろうか。就業できない日数でほとんど差がなかったというのも同様で、たとえインフルエンザになっても、皆が無理して働いていることの反映かもしれない。

表2 ワクチン群と対照(プラセボまたはワクチンなし)群におけるインフルエンザ様症状などの発症と相対リスク

画像のタップで拡大表示

(本コラムは隔月で掲載します。)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ