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社長はつらいよ
背負えない薬剤師人生
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

 外資系製薬会社に勤めていたとき、研修で「2:6:2の法則」というのを聞いた。上位の2割は“スター選手”、6割は普通の人、残りの2割は8割の人たちにぶら下がっているダメ社員だという。自慢じゃないが、ボクはいつも上位2割の“スター選手”だった。

 この「2:6:2」の法則は、年商30億円の中小企業である当社にも、しっかり当てはまる。スター薬剤師はMとN。ぶら下がっているのはOとS……。

 昨今、当社はスタッフの老齢化(?)に伴い、人件費率が上がる一方だ。一般に、年商30億円程度の保険薬局では、人件費の営業利益に占める割合は55%程度といわれているが、当社はなんと60%超。「人件費率を55%まで下げることが、健全経営のためには急務ですよ」と会計事務所の会計士はいつも言う。年齢の高いダメ社員の人件費を削りたいところだが、そうもいかない。

 わが社の“ぶら下がり”のSは、入社14年目の46歳。病院薬剤部出身で薬剤調製の技術には何ら問題はない。だが、コミュニケーションを取るのが下手で、サービス精神が微塵もなく、職場のマネジメントができない。ぶっきらぼうなのに自慢話だけは熱心で、空気が読めないタイプだ。患者の評判もよくない。Sの奥さんは薬剤師で、今は別の薬局でパート勤務しているが、出産前はけっこう大きな店の管理薬剤師だったらしい。夜、ベッドの中でSの将来のことを悶々と考えていたら、ふと名案が浮かんで飛び起きた。

 当社が経営する薬局の一つに、最近、若先生に代替わりした糖尿病クリニックの門前薬局がある。ここ最近の処方箋発行枚数は25枚/日程度で、月の売り上げは468万円程度(7800円[処方箋1枚単価]×25枚×24日)。薬剤比率が67%程度で、営業利益は154万4000円だ。一方、支出の内訳は、家賃が28万円、人件費が常勤薬剤師1人(55万円)、パート薬剤師(25万円)、事務スタッフ2人(20万円)の100万円。その他、光熱費や機器のリース代などを考えると収支はトントン。将来性も期待できず、会社としては旨味がなく、密かに売却を検討していた。

 名案とは、この薬局をSに売却して、円満に退社してもらおうというもの。薬局の売却時の価格は一般に、営業利益の3~5年分だ。つまりこの薬局の値段は463万~772万円。長年、勤めてくれたSだもの、最低価格の463万円を7年返済で構わない。

 彼が経営者になったときの収支を皮算用してみた。月当たりの営業利益は約154万円。ここから家賃28万円、月々の返済約6万円(7年返済)、人件費(パート薬剤師20万円、事務スタッフ25万円)、その他の諸費用を差し引いた額が彼の収入となる。今の給料より下がることはないだろう。それに、パート薬剤師を雇う代わりに奥さんが常勤で働けば、S家の収入はかなり増えるはず。イケる!これならイケる!!

 自分たちの薬局だと思えば、さすがのSも少しは営業努力をするだろうし、なんてったって優秀な奥さんが付いている。処方箋が増えれば、収入アップも望める。

 そう、これは決して年齢の高いダメ社員を追い出そうという作戦ではない。彼の人生を思っての提案だ。

 間もなくボーナスの支給日だ。言うなら今しかない。でも、Sは躊躇するかもしれない。「できるできる、君ならできる」。よし、これで行こう。言い出すタイミングを計っているボクがいる。(長作屋)

筆者プロフィール
関西エリアを中心に展開する薬局チェーンのオーナー(非薬剤師)。
15年前に製薬会社を辞めて薬局を開設、今では25店舗を経営。

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