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徹底マスター 薬の相互作用としくみ
心血管で発現し機能維持に関与 阻害による心血管障害に注意
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

前原 雅樹、杉山 正康(杉山薬局[山口県萩市])

 薬物代謝を担う中心的な酵素は、肝細胞および小腸粘膜上皮細胞に存在するチトクロームP450(CYP)であり、主な分子種として1A2、2C9、2C19、2D6、3A4など5種類が知られている。これらの主なCYPが関連する相互作用については、既に本誌で解説した(2010年6月号、10月号、2011年2月号)。

 さらに近年、CYP2J2の基質や阻害薬に対する研究結果が相次いで報告されており、添付文書にも記載されるようになった。CYPをコードする遺伝子は500以上も存在するが、米国食品医薬品局(FDA)は2012年、新薬が主なCYPで代謝されない場合には、CYP2J2による代謝を新たに考慮するよう提唱した。

 また、CYP2J2は薬物の代謝のみならず、内在基質であるアラキドン酸の代謝にも関与しており、臨床上、高血圧や心筋梗塞、2型糖尿病、気管支喘息などの炎症性疾患の発症と深く関わることが注目されている。

 今回は、CYP2J2が関与する相互作用について、薬物代謝とアラキドン酸代謝を中心に解説する。

多様な発現部位と作用

 CYP2J群のうち、ヒトで主に発現しているのはCYP2J2で、02年に初めてクローニングされた(分子量57.7kD)。興味深いことに、薬物代謝に関与するCYPは主に肝で発現しているのに対し、CYP2J2の肝での発現量は肝総CYP量の約1%と極めて少なく、その他の様々な組織(心臓、血管内皮、小腸、肺、腎臓、脳、膵臓、骨格筋など)で認められる。特に心臓や血管組織(血管内皮細胞、冠動脈、大動脈、静脈瘤など)で強く発現することが示されている。

 従って、CYP2J2は、肝以外の組織における薬物代謝に関与していると考えられる。

CYP2J2の基質と相互作用

 CYP2J2の基質となる薬剤は、CYP3A4をはじめとする他のCYP分子種の基質であることが多い。また、基質となる薬剤の分子量も265kD(アルベンダゾール[商品名エスカゾール])~1201kD(シクロスポリン[サンディミュン、ネオーラル他])と幅広いことから、CYP2J2の基質認識特異性は極めて低いと考えられている。

 一方、CYP2J2の特異的な阻害薬としてはダナゾール(ボンゾール)、テルミサルタン(ミカルディス)が知られている。その他、多くの薬剤がCYP2J2を強く阻害する可能性が示唆されている(表1)。もっとも、CYP2J2による薬物代謝に起因する相互作用はこれまで報告されておらず、薬物代謝におけるCYP2J2の役割には不明な点も多い。FDAが新薬の代謝酵素としてCYP2J2を考慮するように提唱したのも、そのためと考えられる。

表1 CYP2J2の主な基質および阻害薬、誘導薬

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 CYP2J2の基質を詳しく見ると、エバスチン(エバステル他)、エペリゾン塩酸塩(ミオナール他)、アミオダロン塩酸塩(アンカロン他)、シクロスポリン、ナブメトン(レリフェン)など、初回通過効果を受けやすい薬剤が多い。従って、これらの初回通過効果を受けやすい薬剤同士の併用やCYP2J2阻害薬との併用の際は、血中濃度上昇とそれに伴う薬効および副作用の増強に注意する必要がある。

 ただし、エバスチンは小腸で吸収・代謝され、約90%がヒドロキシ体、次いでカレバスチン(活性代謝物)に変換されるが、小腸での代謝は主にCYP2J2が担っている。そのためエバスチンに関しては、CYP2J2阻害薬との併用により薬効が減弱する(ケース1)。

 また、抗血栓薬の代謝にもCYP2J2が関与している。肺高血圧に用いる可溶性グアニル酸シクラーゼ(sCG)刺激薬のリオシグアト(アデムパス)は、肝では主にCYP1A1、次いで2C8、2J2、3A4によって同程度に代謝される。小腸ではCYP2J2と3A4が同程度に関与しているため、同薬とCYP2J2阻害薬との併用は慎重に行った方がよいだろう。一方、抗血栓薬のリバーロキサバン(イグザレルト、主にCYP3A4で代謝)、アピキサバン(エリキュース、主にCYP3A4/5で代謝)は、その一部がCYP2J2で代謝されるのみであり、影響は受けにくいと考えられる。

 その他、CYP3A4阻害薬のリトナビル(ノービア)は通常、主に肝CYP2D6と3A4で代謝され、CYP2J2の関与はわずかであるが、遺伝子多型によりCYP2D6の活性が低下している患者では、肝CYP2J2の役割が増す可能性が示されている。

 また、アミオダロンはCYP3A4および2C8で代謝されてデスエチルアミオダロン(活性代謝物)となった後、CYP3A4および2J2により3-ヒドロキシ体へと代謝されるが、肝および小腸のCYP2J2による特異的代謝の結果、4-ヒドロキシ体も生成することが示されている(臨床的意義は不明)。

EETsの生成とCYP2J2

 CYP2J2は、アラキドン酸をエポキシエイコサトリエン酸(EETs:5,6-EET、8,9-EET、11,12-EET、14,15-EET)に変換する作用も持つ(図1)。具体的には、細胞膜の遊離アラキドン酸からプロスタグランジン(PG)、トロンボキサン(TX)、ロイコトリエン(LT)、ヒドロキシエイコサトリエン酸(HETE)などの炎症物質が産生される過程で、CYP2J2を介してEETsが生成される。なお、生成されたEETsは、可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)によってジヒドロエイコサトリエン酸(DHETs)に変換、不活性化されたり、リン脂質に再び取り込まれたりすることが知られている。

図1 血管内皮におけるエポキシエイコサトリエン酸(EETs)の生成と主な働き

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 CYP2J2は主に心臓、血管系で発現し、生成したEETsは抗酸化・抗炎症・抗血栓や血管拡張などの作用を有することから、心血管系の恒常性や機能の維持に関わっていると考えられている。実際、CYP2J2をマウス心筋に過剰発現させると、心筋虚血後の心電図異常(QT延長、ST上昇)の抑制1)、ドキソルビシン心毒性の軽減2)が認められる。また、CYP2J2を糖尿病マウスの心筋に過剰発現させると、インスリン抵抗性や耐糖能低下、心肥大が改善することが報告されている3)

 さらに、CYP2J2には遺伝子多型(CYP2J2*7)が存在し、日本人の6.2%に認められることも報告されている4)。海外では、CYP2J2*7を持つ患者でCYP2J2の発現が低下しており、それにより心血管障害(冠状動脈不全5)、高血圧6)、心筋梗塞7))、2型糖尿病8)、喘息9)などの発症・進展リスクが高まる可能性が示唆されている。

 以上のことから、相互作用の観点では、CYP2J2阻害薬同士の併用や、基質と阻害薬の併用による心血管障害の誘発に注意すべきである(ケース2)。CYP2J2の基質や阻害薬には、もともとQT延長などの循環器系の副作用を有する薬剤が多いため、これらの薬剤の併用時には特に注意が必要である。

 ただし、CYP2J2阻害薬にはカルシウム拮抗薬(ベラパミル塩酸塩[ワソラン他]、ニカルジピン塩酸塩[ペルジピン他]、ニフェジピン[アダラート、セパミット他])、シンバスタチン(リポバス他)などの心血管障害を抑制する薬剤も含まれる。これらの薬剤に関しては、CYP2J2阻害効果よりも、本来の薬理作用が強く表れると考えられる。

 なお、CYP2J2は誘導されにくいとされているが、イコサペント酸エチル(EPA)はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γと結合してこれを活性化し、2J2の転写を促進することが示唆されている。それにより、EPAが心血管系に対して保護的な作用を示す可能性が報告されている(培養血管内皮細胞実験)。

CYP2J2阻害と抗腫瘍効果

 CYP2J2は、正常細胞と比べて食道癌、肺癌、乳癌、胃癌、肝癌などの腫瘍細胞で過剰に発現することが知られている10)。これには、CYP2J2が血管新生や腫瘍の転移を促進し、腫瘍細胞自身のアポトーシスを抑制することなどが関係すると考えられている(図1)。また、シクロオキシゲナーゼ(COX)2阻害薬はプロスタグランジン(PG)産生を抑制して抗腫瘍効果を示すと考えられているが、腫瘍細胞ではCYP2J2の発現が高いためにCOX2阻害薬の抗腫瘍効果が減弱したとの報告もある11)

 その他、ヒトの腫瘍細胞において、CYP2J2の阻害薬であるテルフェナジン由来化合物が抗腫瘍効果を示したという報告12)や、ヒトの肝・腎の腫瘍細胞においてCYP2J2がチロシンキナーゼ阻害薬の効果を減弱させたという報告13)もある。以上のことから、CYP2J2阻害薬は正常細胞への影響の少ない新たな抗悪性腫瘍薬としても期待されている。

相互作用への対応例

 以下、当薬局での対応例を示す。

 Aさんは高血圧症のため5年前からミカルディス(一般名テルミサルタン)を服用しているが、今回、初めて花粉症を発症したためエバステル(エバスチン)が追加された。

 エバスチンの代謝の過程で、活性代謝物(カレバスチン)の生成には主に小腸CYP2J2が関与している。テルミサルタンはCYP2J2の特異的な阻害薬であることから、両者を併用するとカレバスチンへの代謝が抑制され、エバスチンの作用が減弱する可能性がある。薬剤師は処方通りに交付し、経過を観察することにした。2週間後、Aさんの花粉症は改善していた。その後1カ月間の服用を経て花粉症のシーズンが終わり、エバスチンは中止となった。

 Bさんは数年前から、逆流性食道炎の維持療法でタケプロン(ランソプラゾール)、アレルギー性皮膚炎でクラリチン(ロラタジン)、うつ病でパキシル(パロキセチン塩酸塩水和物)を服用している。これらの薬剤を併用すると、協力作用によりCYP2J2を阻害する可能性があり、心血管系におけるEETs生成が抑制される恐れがある。

 薬剤師は、来局時には心血管障害の自覚症状(胸が締め付けられるような痛み、動悸、徐脈、高血圧など)の有無を確認するようにしている。現在までにこれらの症状は認められず、病状も安定している。

参考文献
1)J Mol Cell Cardiol.2009;4:67-74.
2)Am J Physiol Heart Circ Physiol.2009;297:H37-46.
3)Endocrinology.2013;154:2843-56.
4)Cell Biochem Funct.2008;26:813-6.
5)Circulation.2004;110:2132-6.
6)Dis Markers.2008;24:119-26.
7)BMC Cardiovasc Disord.2008,8:41.
(doi:10.1186/1471-2261-8-41)
8)Exp Clin Endocrinol Diabetes.2010;118:346-52.
9)Chest.2007;132:120-6.
10)Cancer Res.2005; 65:4707-15.
11)Cell Oncol.2012;35:1-8.
12)J Pharmacol Exp Ther.2009;329:908-18.
13)PLoS One.2014;9:1-8.

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