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漢方のエッセンス
大柴胡湯
日経DI2014年12月号

2014/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2014年12月号 No.206

講師:幸井 俊高
漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」代表
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。

 漢方では、病名に従って処方を決めることはなく、必ず患者の証に応じて治療方針を決め、処方を判断する(弁証論治)。そのため西洋医学的には同じ病気でも、その段階や患者の体力によって処方が変わる。大柴胡湯は、病邪が体内に侵入し、さらに奥深くに入り込もうとして気の停滞や熱証が生じている状態に用いる処方である。

どんな人に効きますか

 大柴胡湯は、「少陽陽明合病(しょうようようめいごうびょう)、肝鬱化火(かんうつかか)」証に対する処方である。

 弁証論治には様々な方法があり、例えば気・血(けつ)・津液(しんえき)の状態をみて証を判断する「気血弁証」、あるいは五臓六腑のバランスをみて判断する「臓腑弁証」、主に病邪の一つである寒邪による外感熱病の経過に従って分析する「六経(ろっけい)弁証」などである。

 六経弁証においては、外感熱病のおよそ初期の段階(表寒)を「太陽病」、病邪が体内に奥深く侵入して熱証を表す段階(裏熱)を「陽明病」、そして表証1)でも裏証2)でもない段階(半表半裏)を「少陽病」と呼んでいる。これらのうち、少陽病と陽明病が同時にみられる証が「少陽陽明合病」である。

 半表半裏証は、感染症など発熱性・炎症性の疾患の進行途中でみられる証である。病邪が人体に侵入し、体の奥に入り込もうとしている途中段階といえる。この段階の特徴的な症候には、悪寒と熱感を繰り返す症状(往来寒熱)と、胸脇部の張った痛み(胸脇苦満[きょうきょうくまん])がある。病気の進行過程で病邪と正気3)の力関係が拮抗し、病邪が強くなったり、逆に正気が病邪をしのいだりということを、綱引きのように繰り返している状態である。

 往来寒熱と胸脇苦満以外には、胃の機能(胃気)の上逆により、嘔吐、口中が苦い、悪心、食欲不振などの症状も見られる。さらに心神が乱されると、憂鬱感、胸部がざわざわとして落ち着かない不快感(心煩)が起きる。主に人体の上部の炎症と関係が深い。

 病邪がさらに侵入して陽明病となり裏熱と化すと(熱結)、炎症は人体の下部にも広がり、大腸の通行が塞がり、胃の辺り(心下部)がつかえて張る(心下痞[しんかひ])、あるいは痛む(心下満痛)、便秘などが生じる。熱邪を排泄するために下痢となることもある。

 一方、臓腑弁証においては、五臓の一つである肝(かん)の機能失調と関係が深い。肝は人体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑であり、自律神経系や情緒の安定、気血の流れと深い関係がある。この肝の機能(肝気)の流れがストレスや緊張の影響で停滞し(肝鬱)、さらに強いストレスや激しい感情の起伏などで肝気が失調すると熱証が生じ、「肝鬱化火」となる。自律神経系が興奮し、いらいら、怒りっぽい、憂鬱感、不眠、顔面紅潮などの熱証や、腹部膨満感が表れる。舌は赤く(肝鬱や熱証の舌象)、黄色い舌苔が付着している(裏熱の舌象)。

 臨床応用範囲は、少陽陽明合病、肝鬱化火の症候を呈する疾患で、膵炎、胆嚢炎、胆石症、肝炎、胃腸炎、胃・十二指腸潰瘍、食道炎、腎炎、腎盂炎、膀胱炎、常習便秘、高血圧、動脈硬化、脂質異常症、糖尿病、不眠症、自律神経失調症、神経症、心身症、神経性胃炎、胃酸過多、肩凝り、中耳炎、耳下腺炎、耳鳴り、扁桃炎、咽喉炎、感冒、インフルエンザ、気管支炎、気管支喘息、脳出血、蕁麻疹、脱毛症、陰萎(ED)、不妊症などである。

どんな処方ですか

 配合生薬は、柴胡、黄ごん(おうごん)、枳実(きじつ)、大黄、芍薬、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の八味である。

 君薬は柴胡であり、病邪の侵入がまだ浅い状態や病変の初期に病邪を発散させる(解表[げひょう])。消炎解熱作用もあり、炎症などの熱をさばく(清熱)。往来寒熱に有効であり、半表半裏証を改善して少陽の病邪を解く(和解少陽)。肝気鬱結(かんきうっけつ)を解いて気を流す力も強い(疏肝解鬱[そかんげうつ])。肝鬱化火に対しても有効である。

 臣薬の黄ごんにも清熱作用があり、柴胡と協力して和解少陽する。柴胡と黄ごんはともに消炎・抗菌・抗ウイルス作用が強く、自律神経系の緊張を緩和する鎮静作用もある。肝臓を保護する作用もある。同じく臣薬の枳実は、鬱々としていた気を開いて気を巡らせる(理気)。胃腸の蠕動運動を調整し、さらに痙攣を緩め、消化を助ける。大黄は瀉下し、陽明の熱結を排泄し(瀉下熱結)、消化管の炎症を鎮める。

 佐薬の芍薬は、筋肉の痙攣や緊張を緩和し(柔肝[じゅうかん])、鎮痛、鎮静する。大黄との組み合わせにより熱結の腹痛を、また枳実との組み合わせにより心下部の腹痛を治療する。また柴胡との配合により、疏肝解鬱作用が強まる。肝を養う力も強い。同じく佐薬の半夏と生姜は、胃に働き掛けて気を降ろし(和胃降逆[わいこうぎゃく])、嘔吐を止める。半夏には鎮咳去痰作用もある。生姜には半夏の毒性を抑制する働きもある。

 使薬の生姜と大棗の組み合わせは、寒邪の襲来により失調した気血を調整し(調和営衛[ちょうわえいえ])、津液の進行を助け、さらに胃腸の消化吸収機能(脾胃)を調えて気を高め、諸薬の薬性を調和する。

 以上、大柴胡湯の効能を「和解少陽、瀉下熱結、疏肝解鬱」という。和解がメインで、同時に瀉下を行うのが特徴である。少陽病に対しては瀉下しないのが原則であるが、陽明病との合病なので瀉下薬も配合されている。

 本方は、小柴胡湯から人参と甘草を除去し、大黄、枳実、芍薬を加えた組成となっている。大黄、枳実、芍薬の三味で陽明病の熱結を治療する。虚証を補う人参と甘草は必要ないので配合しない。少陽病に用いる小柴胡湯と、陽明病に使う小承気湯(しょうじょうきとう:大黄、厚朴、枳実)を加減して合わせた処方ともいえる。また柴胡、芍薬、枳実は四逆散去甘草であり、肝鬱に有効な配合となっている。

 口が粘る、黄疸などの症候があれば茵ちん蒿湯(いんちんこうとう)を合わせ飲む。気管支喘息の場合は半夏厚朴湯を合方する。発熱や口渇、炎症が強いときは白虎湯を加える。

 出典は『傷寒論』である。漢代の張仲景が、この中で六経弁証を提示した。

こんな患者さんに…【1】

「胃のつかえと胸やけがあります」

 時々呑酸も生じる。美食家で飲酒も好む。舌に黄色い舌苔が付着している。少陽陽明合病と見て本方を使用。1カ月で胃のつかえと胸やけが解消した。体調がいいので飲み続けたところ、気になっていた口臭がなくなり、体重も減った。

こんな患者さんに…【2】

「血圧が高く、ずっと降圧薬を服用しています」

 もともと神経質で、いらいらしやすい。ひどい肩凝りで、のぼせやすい。肝鬱化火と見て本方を使用。3カ月後に血圧が少し下がり、降圧薬が減量となった。6カ月後には、いらいらや肩凝りも解消し、降圧薬は不要となった。

用語解説

1)病邪が体に侵入しかけている初期の段階が表証。
2)病邪が完全に体内に侵入して臓腑に機能障害が生じている状態が裏証。
3)正気とは、病邪から身を守り健康を維持するのに必要な機能や物質のこと。半表半裏の段階で正気が強いと熱感が表れ、病邪が強いと悪寒が表れる。これが往来寒熱である。

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